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.国際  投稿日:2021/12/24

注目はフィリピン大統領選「2022年を占う!」東南アジア


大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・2022年は東南アジア各国にとって熱い政治の年となる。

・来年5月のフィリピン大統領選は、ドゥテルテ政治の継承か変革かが最大の争点。

・各国に政治課題が山積する中で、ASEANの議長国を務めるインドネシアの立ち回りにも注目。

 

2020年21年とコロナ禍で明け暮れたのは東南アジアだけではないが、新たなオミクロン株が出現し欧米を中心に拡大している感染がタイ、マレーシア、シンガポールでも確認される事態となっており2022年もコロナ渦に明けそして暮れることになるだろう。

政治的にも2022年は節目の年を東南アジアは迎えそうだ。

■ 5月に比大統領選

まず5月にフィリピンが大統領選を迎える。

強権的で独裁的政権とされたドゥテルテ大統領が再選禁止で上院議員選出馬となり、大統領選にはマルコス元大統領の長男フェルディナンド・マルコス・ジュニア(愛称ボンボン・マルコス)氏、プロボクサーで国民的英雄のマニー・パッキャオ氏、野党連合の候補者として政権交代を目指すレニー・ロブレド副大統領らが大統領の座を争い、別に投票される副大統領選にはドゥテルテ大統領の長女ミンダナオ島ダバオ市のサラ・ドゥテルテ市長らが立候補している。

▲写真 大統領選への出馬で話題になっているマニー・パッキャオ氏(2021年8月21日 ラスベガス) 出典:Photo by Ethan Miller/Getty Images

最近の世論調査ではボンボン・マルコス氏とサラ市長がそれぞれリードしているが、反政府勢力を強権弾圧して暗黒時代を創出したマルコス元大統領の長男と同じく麻薬関連犯罪対策でいわゆる「超法規的殺人」を黙認したり反政府メディアへの弾圧、統制を強めたりしたドゥテルテ大統領、その長女サラ市長という「コンビ」が当選すれば「強い指導者の長男と長女」による強権政治が継続する可能性も懸念されている。

「反ドゥテルテ」を掲げるレニー・ロブレド副大統領やマニラ市のイスコ・モレノ市長、与党を離脱したパッキャオ氏らとの間でドゥテルテ政治の「継承か変革か」が最大の争点になるとみられ、2月8日からの正式な選挙戦での激戦が予想されている。

軍政と武装市民、少数民族の戦闘激化

また2月1日に軍によるクーデターから1年を迎えるミャンマーでは反軍政を掲げる武装市民勢力と国境周辺で軍への攻勢を強めている少数民族武装勢力との戦闘の激化が続いており目を離せない状況だ。

民主政権の指導者でクーデター後に逮捕、訴追されているアウン・サン・スー・チーさんには2021年12月に2つの容疑で禁固4年の実刑判決(その後軍政の恩赦で2年に減刑)が下されたが、残る複数の容疑での判決が年明けから続き、さらに禁固年数が加算される可能性が高まっている。

軍政としては2月1日までに全ての容疑での実刑判決を下し、スー・チーさんの政治生命を完全に絶つことを企図しているとみられるが、民主派勢力の武装市民組織「国民防衛隊(PDF)」が各都市で軍への攻撃を激化し、少数民族武装勢力との連携による共同作戦なども展開している。このため2022年も流血の内戦状態が続くことは必至な情勢で、軍政が目論むスー・チーさんの政治的抹殺や政治の安定化は困難との見方が強い。

▲写真 現在も身柄を拘束されているアウンサンスーチー氏(2012年6月16日 オスロ) 出典:Photo by Nigel Waldron/WireImage

王室批判、民主化要求高まるタイ

クーデターといえば2014年に実権を取り2019年の選挙で民政化を果たしたとしながらも依然政権にとどまっているプラユット首相の退陣、軍政下の憲法の改正、さらにタブーとされる王室改革を掲げた反政府運動が続くタイからも目が離せない。隣国ミャンマーのクーデター、実質内戦状態で注目度がそがれた形だが、デモや集会は今も続いており、特に王室批判には逮捕という厳しい措置で対抗する政府の強権的姿勢が続いている。

国民の尊敬を一身に集めたプミポン前国王が2016年に死去し、海外在住の長い後継のワチラロンコン国王への国民の批判をどう取り扱うのか、政権の悩みは深い。

■ G20のホストとなるインドネシア

東南アジアの大国インドネシアは2022年10月にG20首脳会議のホスト国となり、主要国・機関の首脳がバリ島に集まり、コロナ対策や世界経済などを幅広く議論する。

ジョコ・ウィドド大統領はG20に合わせてバリ島を訪問する予定の中国・習近平国家主席と現在中国の協力で建設中のジャカルタ~バンドン高速鉄道の試運転に同乗する計画を立てている。

だが、コロナ特に新たなオミクロン株の感染拡大状況が10月の時点でどうなるかで各国首脳との対面での会議開催がどうなるのか、さらに遅れに遅れている鉄道建設計画がそれまでに間に合うのか、など敷居も高い。

▲写真 インドネシアのジョコ・ウィドド大統領(2019年4月13日、ジャカルタ) 出典:Photo by Ed Wray/Getty Images

さらに2022年後半から2023年にかけてインドネシアは東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国を務める。このためミャンマー情勢が現状で推移すれば、主導権を発揮して問題解決の道筋を見出し、それを弾みに2024年の大統領選に持ち込みたい思惑がジョコ・ウィドド大統領の政権与党にはあるとみられ、ミャンマー情勢での何らかの進展も予想されている。

このように2022年は東南アジアにとっても熱い政治の年となり、その政界経済や政治への影響力の大きさから世界そして日本もその動き、一挙一動に注目することになるのはまちがいないといえるだろう。

トップ写真:任期が迫るフィリピンのドゥテルテ大統領(2016年10月20日 北京) 出典:Photo by Wu Hong-Pool/Getty Images




この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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