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.国際  投稿日:2023/1/8

中国人入国制限せず 東南アジア


大塚智彦(フリージャーナリスト)

 

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

 

・東南アジアの多くの国は中国人の入国に制限は設けず、自由な渡航を認めている。

・中国からの経済支援に依存していることと、コロナで冷え切った観光産業の復活という事情がある。

・春節後、中国人観光客の訪問が一段落した時に東南アジアで感染状況がどう変化するのか注目。

 

 コロナ感染が拡大する中、感染者数、感染死者数が激増していると伝えられる中国からの渡航者に対して出発前の検査や入国時の検査を義務付ける国が日本や韓国、欧米などで広がる中、東南アジアのタイ、マレーシア、インドネシア、シンガポール、カンボジアなどは中国人の入国に特段の制限は設けず、自由な渡航を認めている。

 これらの国は程度の差こそあれ全てが中国からの経済支援に依存している部分が大きく、中国からの反発を招きたくないことやこれまでのコロナ感染防止対策で冷え切った観光産業、ビジネスの復活という国内事情が背景にあるとみられている。

 中国政府は日本や欧米による中国人の渡航制限に関して「差別だ」と反発しているが「世界保健機構(WHO)」は1月4日に中国のコロナ感染死者の定義について「非常に狭い」と指摘、公式統計が実際の状況を反映していないと警告した。

このように中国当局が発表するコロナ感染に関する統計数字への信頼が揺らいでいる中だけに、東南アジアに大挙して押し寄せる中国人観光客などによる感染拡大への懸念が高まっている。

だがそうした心配にもかかわらず東南アジアでは中国人観光客の訪問を歓迎する動きが広がっているのだ。

 

★相次ぐコロナ規制の緩和、撤廃

 インドネシアは2022年12月30日からコロナ感染に関わる全ての行動制限を撤廃することを明らかにした。これにより国民に加えてインドネシアに入国する外国人に対する感染予防の規制、規則も撤廃され、中国人にも自由な入国が認められることになった。

 インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は2022年12月29日までの一カ月でコロナ感染者数は人口100万人あたり1.7人で死亡率は2.39%、病床使用率は4.79%であることなどを根拠にして「インドネシアはコロナ感染拡大の制御と経済の安定に成功している国の一つである」と感染防止規制を撤廃した理由を明らかにしている。

 そのうえでサンディアガ・ウノ観光創造経済相は2023年1月3日に発表した声明の中で「我々は中国人観光客を歓迎する準備ができている」として中国からの観光客に対して自由な来訪を保証した。

 インドネシア政府はこうした中国人観光客を迎え入れることに関して「国民の98%が新型コロナウイルスの免疫を有している」と感染が拡大しないことへの自信をみせている。

 2022年1月から10月までの間にインドネシアを訪れた中国人は約9万5000人に留まった。コロナ渦以前は年間200万人以上だったことから今後徐々に増加することが期待され、インドネシアと中国を結ぶ直行便の復活や増便の動きも出ている。

 タイはアヌティン公衆衛生相が「タイはどの国の観光客にもCOVID検査の結果を要求しない。これはタイの経済を回復し、3年近くの間に被った損失から回復する機会なのだ」と述べて中国人を含めた海外からの観光客を歓迎する姿勢を示している。

 しかし一方で観光業者の間には「全ての観光客が入国時に検査を受けることを願う」として政府の方針では今後感染が拡大する可能性が捨て切れないとの声も根強く、政府と現場の思惑の違いがあることも事実だ。

 マレーシアはアンワル・イブラヒム首相が「中国からの入国者に対する差別はない。どの国も差別しない」と述べて全ての海外からの観光客を歓迎することを明らかにしている。

マレーシアではコロナ渦以前の観光客300万人の復活を目指し2023年には150万人から200万人の中国人観光客の来訪を期待している。

 カンボジアやシンガポールも同様の対応を取っており、東南アジアでは中国人観光客を「熱烈歓迎」する態勢が主流となっている。

 

★「リベンジ旅行」への期待

 こうした中国人観光客の渡航に関して制限を撤廃した東南アジア諸国では中国の旧正月(春節)である1月21日から始まる27日までの大型連休に合わせて多くの観光客が訪れることに大きな期待を抱いている。

 中国人観光客によるいわゆる「爆買い」による商機に狙いを定めシンガポールの高級ホテルなどは特別料理コースや特別なパックを準備するなどしているという。

 このような観光業界やホテル、飲食業者の動きは中国人観光客による海外旅行ブームの再来を「リベンジ旅行」ととらえてあの手この手で盛り上げを図っている。

 多くの国ではコロナ感染防止策の制限や規制が撤廃されたとはいえ、マスクの着用や手洗いの励行、ワクチン接種などは相変わらず奨励されている状況が続いているものの観光地やショッピングセンター、劇場や博物館などで春節休暇中に「人の密な状態」が生まれる可能性も高い。

 春節の休暇が終わり、中国人観光客の訪問が一段落した時に東南アジアの国々でコロナ感染状況がどう変化するのかが注目されている。

トップ写真:シプトラ ワールド モールで獅子舞を見る人々。2022年1月30日 インドネシア・スラバヤ

 




この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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