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.国際  投稿日:2022/4/16

EUで中ロ連携への警戒感高まる


村上直久(時事総研客員研究員、学術博士(東京外国語大学))

「村上直久のEUフォーカス」

 

【まとめ】

・EUは米国と共に、中ロ連携を警戒。

・EUのライエン委員長は、習近平主席にロシア支援に回ればEUとの関係悪化は避けられず、中国の利益にはならないと訴えた。

・中国は当面ロシアとの経済協力を続け、ウクライナ危機や欧州の安全保障に深く関与しない方針。

欧州連合(EU)にとって中国は最大の貿易パートナーだが、中国新疆ウイグル自治区での大規模な人権侵害の疑惑が深まる中、中EU関係はぎくしゃくしていた。そこにロシアがウクライナに軍事侵攻。今度はEU側は米国とともに中ロ連携を警戒するようになった。

 EUは4月に入ってオンライン形式で開かれた中国との首脳会談で、ロシアのウクライナ侵攻を支援すれば「中国の欧州での信用が大きく失墜することにつながる」と警告した。

EU側は中国に対し、制裁逃れや軍装備品の提供などでロシアを支援しないよう求めるとともに停戦に尽力するよう促した。

 しかし、米紙ニューヨークタイムズは、中国の本心はロシア支援だとみているようだ。中国は国際社会に対しては、ウクライナでの戦争ではどちらにも味方せず傍観者であり、平和を希求しているだけだとしているが、国内では共産党は、ロシアを侵略者ではなく、(西側との関係において)長年苦しんできた被害者であるとのキャンペーンを展開し、中国がロシアとの強い絆を保つことは必須であると信じている節がある。

◇制裁破りの兆候なし

 EU欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、中国共産党の習近平主席との首脳会談後の記者会見で、ウクライナに侵攻したことで信用を失ったロシアから国際企業が相次いで撤退している現状を挙げ、「企業は事態を注視し、各国がどういう立場を取るのか見極めている」とも指摘。ロシア支援に回れば中国の最大の貿易相手であるEUとの関係悪化は避けられず、中国の利益にはならないと訴えた。

 一方、習主席は会談で、情勢安定化に向けた欧中の協調の必要性を強調しつつ、「各国の庶民に重い代価を払わせてはならない」と米欧の制裁に改めて反対の姿勢を示した。これに対してフォンデアライエン氏は「制裁を支持しないなら少なくとも邪魔をしないようにすべきだ」とクギを刺した。

 アナリストらによると、中国が西側の対ロ制裁破りを行っている兆候はみられない。それどころか、中国の国営石油精製企業は、大幅な値引きオファーにもかかわらず、ロシアとの新たな石油購入契約の締結を避けているという。さらに中国最大の石油精製企業シノペックはロシアでの石油化学関連事業への投資をめぐる交渉を中断したという。

 それでも、中国は、ウクライナにおける明らかにロシア軍の仕業とみられる多数の民間人虐殺の報道にもかかわらず、ロシアへの外交面での“黙示的”な支援を取り下げるそぶりはみせていない。最近でも、ロシアを国連人権理事会の理事国の座から追放する国連総会の決議にも反対した。

◇中国は政治的自由化を警戒

 習氏は「西側の支配」に対抗する専制主義的な陣営の指導者の仲間としてロシアのプーチン大統領を見なしており、ウクライナの軍事侵攻でプーチン氏を非難することは避けてきた。そして中国はウクライナ危機を終わらせるための後押しをするよう西側から圧力をかけられているにもかかわらず、平和を呼びかける以外、ほとんど何もしてこなかった。

 米国のバイデン政権は、ウクライナでの戦争を民主主義と専制主義の戦いと位置付けているが、それに対してニューヨーク・タイムズによると、中国は米国が主導する勢力の連合がウクライナや世界各地での紛争の源泉であると反論している。そして、中国は同国とロシアが、西側政府によって支援されているとされる(2004年のウクライナのオレンジ革命などの)「カラー革命と呼ばれる反乱」によって悩まされてきたとしている。

 中国共産党はウクライナ危機が始まった後、同危機には直接言及しないものの、旧ソ連崩壊についてのドキュメンタリービデオを使って、党員の思想引き締めのためのキャンペーンを展開していると、ニューヨーク・タイムズは報じている。

 このドキュメンタリービデオは「歴史的ニヒリズムとソ連の崩壊」との題で、習主席に対する党員の忠誠心を維持するのが目的とされる。

 ドキュメンタリーはソ連の崩壊の原因として、中国政府が「歴史的ニヒリズム」」と呼ぶ政治的自由化を挙げている。特に、ソ連共産党のフルシチョフ書記長とペレストロイカ(改革)などを推進したゴルバチョフ書記長に対して批判的で、彼らは過ちを犯したとして「(西側に)騙されやすい人」と決めつけている。

 そのうえで、ゴルバチョフ指導部はソ連崩壊に至る過程でイデオロギー的バックボーンを欠き、西側による政治的な転覆の策動にさらされたとしている。

 そしてドキュメンタリーはウクライナ危機における本当の悪者はロシアの安全保障環境を損なおうとする、米国と米主導の北大西洋条約機構(NATO)だと決めつけている。

写真)ポーランドの第18機械化師団と米第82空挺師団による合同軍事演習 2022年4月8日 ポーランド、ノバ・デンバ

出典)Photo by Jeff J Mitchell/Getty Images

◇中国外交の二面性

 中国の欧米との貿易額は中ロ貿易の10倍以上とされる。こうした状況を考慮して、中国は対ロ制裁破りに踏み切るのをためらっているようだ。その一方で、中国はロシアとの経済協力も続ける方針で、当面は中国はウクライナ危機や欧州の安全保障には深く関与しないで静観するとみられる。

 同時に、国連総会でのロシア非難決議に棄権票を投じたように、ロシアを政治支援する姿勢が透けて見える。そして中国共産党内部では、中国がソ連崩壊の轍(てつ)を踏まないようにするため、西側の支配を警戒する目的の思想的引き締めを強めているようだ。中国共産党は国際社会向けと国内向けの顔をしたたかに使い分けているようだ。

(了)

トップ写真)第23回EU-中国サミットで、習近平国家主席と会談するライエン欧州委員会委員長 2022年4月1日 ベルギー・ブリュッセル

出典)NewsRoom, European Council

 




この記事を書いた人
村上直久時事総研客員研究員/学術博士(東京外国語大学)

1949年生まれ。東京外国語大学フランス語学科卒業。時事通信社で海外畑を歩き、欧州激動期の1989~1994年、ブリュッセル特派員。その後,長岡技術科学大学で教鞭を執る。


時事総研客員研究員。東京外国語大学学術博士。

村上直久

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