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.国際  投稿日:2022/8/22

仏、外国人投票権で論議


Ulala(著述家)

フランスUlalaの視点」

【まとめ】

・フランスで、外国人が地方選挙で投票できるようにする法案があがり論争を呼んでいる。

・フランスではEU出身の外国人居住者には市町村議会選での選挙・被選挙権が認められているが、それ以外の国の外国人には選挙参加を認めていない。

・ウリエ議員個人の法案であることや右派の反対からこの法案が通ることはないと考えられている。

 

現在、フランスでは、8月9日に、外国人が地方選挙で投票できるようにする法案があがり論争を呼んでいる。この法案をまとめたのは、マクロン大統領を支える与党「ルネッサンス(元LREM)」所属の下院法務委員長を務めるサシャ・ウリエ議員だ。

フランスでは、1992年から欧州連合 (EU)出身の外国人居住者には市町村議会選での選挙・被選挙権が認められているにもかかわらず、EUのメンバーではない国の外国人は、フランスに数十年住んでいたとしてもフランスの選挙に参加することはできない。

そこで、「フランスの地方選挙でスペイン人やブルガリア人が投票するのを見ても、もはや誰もショックを受けません。しかし、ブレグジット後、イギリス人がフランスで投票する権利を失ったことは、多くの人々に衝撃を与えました」と、ウリエ議員は、このフランスに存在する2つのカテゴリーに分けられた外国人の間での差別を解消したい考えだ。

フランスでは、外国人の選挙権の問題は何年も前から定期的に話題になってきている。だが、フランソワ・ミッテラン氏とフランソワ・オランド氏が公約に掲げたものの、極右や右派から強固に反対を受け、法案の成立までにはいたっていない。

■ EU各国の外国人の地方選挙で投票する権利

外国人の地方選挙で投票する権利については、EU内でも対応は様々だ。

EU内で外国人が投票権を持てる国は、アイルランドとルクセンブルク。アイルランドは、1963年にすべての住民に地方選挙で投票する権利を与えたEUで最初の国でもある。ルクセンブルクは昨年7月、外国人居住者の投票権を大幅に促進する法律を採択した。それまであった5年以上の居住という条件が廃止され、その結果、外国人がその国に到着するとすぐに地方選挙で投票できるようになった。

滞在実績に応じてヨーロッパ以外の外国人でも地方選挙で投票ができる国も多数あり、それらの国では2年~5年で選挙権が持てるようになる。例えば、フィンランドでは2年、スウェーデンとノルウェーでは3年 、デンマークでは4年、オランダ、ベルギー、スロベニアでは5年滞在すれば選挙権を持つことができるようになるのだ。

そんなEU諸国の中でも外国人が選挙権をもつことに消極的なのは、フランス、ドイツ、イタリア、ポーランド、オーストリアなど11か国、なお、スペインとポルトガルも基本的には外国人は選挙権を持てないが、特定の国の国民、特に旧植民地の国民に投票権を与えるというシステムを採用している。

■ 今回の法案に対するフランスの反応

ちなみに、フランス国民がどう思っているかというと、Harris Interactiveのアンケートによれば、大多数のフランス人が外国人が選挙権をもつことに賛成している。67%が賛成しており、その割合は年々あがってきている。2013年から比べても13ポイント上昇。特に富裕層と25歳から34歳の年齢層の間での増加が大きくなってきている状況だ。

しかしながら、ネット上で独自の調査を行うメディアの中にはHarris Interactiveのアンケートとは、反対の意見も出されているものもある。例えば、Le Courrier de l’Ouestというサイトで独自にアンケートを取ったところ、21日の時点では4499人にあたる86%が外国人が選挙権を持つことに反対しているとの結果がでた。アンケートの対象者によって大きく意見が分かれる議論とも言えるかもしれない。

いずれにせよ、現時点ではこの法案の先行きはそこまで明るくなさそうだ。

というのも、まずこの法案自体、内閣にも事前に相談もしていない上、誰からの署名も集めていない完全にウリエ議員個人の法案となっている。

さらに、ジェラルド・ダルマナン内相は反対の立場を示しており、エリザベス・ボルネ首相、エマニュエル・マクロン大統領も、この法案は今回の公約にも含まれていないとしている上、外国人が選挙権をもつことよりもフランス国籍を取得してもらいたいという考えを変えていない。

また、左派は賛成の意向を示してはいるものの、極右や右派の政党がミッテラン氏とオランド氏の時と同様に大きく反発を強めている状況なのである。

このためこの法案が通ることはないというのが大方の見方となっているが、今後の展開は気になるところである。

<参考資料>

欧州における外国人の選挙権:誰がどこで選挙に参加できるのか?

外国人の選挙権:左派は支持し、右派は批判する

ジェラルド・ダルマナン内相、JDDに「少数派のトラブルメーカーには毅然とした態度で臨むべき」

市議選の外国人投票:サシャ・フーリエのイニシアチブは多数派に冷遇された

本日の質問です。外国人がフランスで選挙権を持つことに賛成ですか?

地方選挙における外国人住民の投票権に関するフランスの見解 – 2021年版

トップ写真:2020年6月28日に行われたフランス市長選挙第二回投票の様子 出典:Photo by Xavier Laine/Getty Images




この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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