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.国際  投稿日:2022/9/21

金正恩の「核先制使用法」で明確となった文在寅の詐欺劇


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・金正恩が「核放棄」拒否を宣言。従来政策を180度転換し「核の先制使用」を法制化。

・韓国の左派従北政府は「北朝鮮は必ず核を放棄する」と韓国民、国際社会を欺き続けてきた。

・文在寅前大統領は「核先制使用法」を非難せず、金正恩が破棄した「非核化合意」を尹政権は「履行すべき」と主張。まさに金正恩の「下僕」。

 

北朝鮮の金正恩国務委員長は、最高人民会議第14期第7回2日目会議(9月8日)での施政演説で、「われわれは絶対に核を放棄することができない」と明らかにし、核兵器先制使用5条件などを含む11項目の核政策法令を採択させた。

法令採択の意義については、「われわれの核をめぐってこれ以上駆け引きできないように不退の線を引いたことにある」とし、今後の北朝鮮非核化交渉を全面否定した。

朝鮮労働党7回大会を始めとした様々な会議で、幾度となく「核の先制使用は行わない」としてきた政策を180度転換したのである。人々を欺き前言を翻すのは金王朝政権3代に共通する悪習であるが、金正恩の「うそ」はその中でも際立っている。

韓国民を騙し続けた歴代韓国左派政権

今回金正恩が「核の放棄は絶対にない」と本心をあからさまにし「核の先制使用」を法制化したことで、金大中から始まる韓国左派従北政権が、いかに韓国民と国際社会を欺瞞し、利敵行為に走っていたかが確認された。

左派従北政権の始祖金大中(キム・デジュン)元大統領は2000年、金正日総書記に5億ドルもの資金を提供して核開発を促進させておきながら「北朝鮮は核開発を行ったこともなく、その能力もない。私が責任を取る」と公言した。そのウソで「ノーベル平和賞」まで手に入れた。

▲写真 ノーベル平和賞コンサート2000のステージで司会者に迎えられる、同年のノーベル平和賞受賞者、金大中韓国大統領(2000年12月11日 ノルウェー・オスロ) 出典:photo by Gabe Palacio/ImageDirect

またその後を継いだ盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領は2004年に「北朝鮮は必ず核を放棄するだろう」「核実験に関する何の兆候もない」と発言したが、北朝鮮はその後2006年に最初の核実験を行った。

ここまで裏切られれば、正常な人間であれば反省し、自らの考えを変えるはずだ。ところが彼ら従北左派勢力ははそうではなかった(日本でもこうしたジャーナリスト・学者・政治家が存在する)。

文在寅(ムン・ジェイン)前大統領の登場で左派従北政権の詐欺・利敵行為は極まった。

2016年に4回目の核実験を行いICBM(大陸間弾道ミサイル)まで発射し、2017年には6回目の核実験を行った金正恩に対して、「金正恩総書記の非核化の意志は明確だ」と露骨に擁護しただけでなく、彼を称賛して米国のトランプ前大統領まで騙した。文在寅は一貫して「金正恩が核を放棄すると確約した」と言い続け、欺瞞と利敵行為をやめなかった。

左派従北政党に成り果てた野党「共に民主党」(「共に北朝鮮党」と揶揄されている)も、「南北関係改善」を政治的に利用するため「北韓は核を放棄する」との虚像を撒き散らし、「核を放棄しない」と警鐘を鳴らす人たちを攻撃した。今回金正恩が核の先制攻撃を法制化するに至っても反省はなく沈黙を続けている。

退任後も金正恩の「下僕」続ける文在寅

2018年の「9・19南北軍事合意」から4周年を迎えた9月18日、文在寅前大統領はこの9・19合意を「軍事的な脅威を画期的に弱める実践的な措置だった」「政府が変わっても当然尊重し、履行すべき約束だ」と「金正恩の核先制攻撃法」を非難せずにコメントした。大統領退任後最初の政治的懸案のメッセージで「今後も金正恩の下僕であり続ける」と宣言したようなものだ。

「9・19平壌共同宣言」の核心は「韓(朝鮮)半島を核兵器と核の脅威がない平和の基盤として作り上げ、それに必要な実質的進展を早期に実現させる」とうたいあげた部分だ。ところが北朝鮮は2018年の「ハノイ・ノーディール」以降、ICBM(大陸間弾道ミサイル)を発射し、新型の戦術核兵器を開発して核の脅威を攻撃的に高めてきた。

金正恩は今年4月の軍事パレードで核兵器使用の範囲について「抑止だけに限定しない」との考えを示し7回目の核実験に向けた準備を終え、今回の最高人民会議では核先制攻撃を法律に明記した。

そればかりか、金正恩は「9・19合意」署名後も幾度となくこの合意を破棄する行為を重ねてきた。合意翌年の2019年11月、金正恩は延坪島挑発9周年に、NLL(北方限界線=海上の休戦ライン)から北にわずか18キロしか離れていない昌麟(チャンリン)島の海岸砲部隊を視察し「一度撃ってみろ」と自ら直接指示した。「海岸砲にはカバーをかけ砲門を閉じる」と定められた約束は最初から守られなかった。

また2020年5月には韓国側のGP(監視警戒所)に向け銃撃を行った。それから1カ月後の6月には開城の南北連絡事務所を爆破した。

このようにすでに金正恩に捨てられた合意文を、文前大統領は今も「かき抱いて進むべきだ」などと荒唐無稽な主張を繰り返している。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領はニューヨーク・タイムズとのインタビューで「(文前大統領は)教室で一人の友達(北朝鮮)だけに少し執着する生徒のように見えた」と述べたが、文在寅の犯罪行為に対する発言としては優しすぎる言葉だ。

トップ写真:首脳会談に臨む文在寅氏(左)と金正恩氏(右)(2018年9月18日 北朝鮮・平壌) 出典:Photo by Pyeongyang Press Corps/Pool/Getty Images




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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