インドのIT関連サービス業界動向、米国IT不況予測の指標に
中村悦二(フリージャーナリスト)
【まとめ】
・インドの大手IT企業で、新規の学卒採用取消やボーナスなど変動給の削減といった動きが目立ってきている。
・インドのシリコンバレーの情勢が、米国のIT不況をいち早く示す指標になった。
・欧米企業のIT予算削減傾向に対し、インドIT企業は変動給の削減、採用ペースの緩和といった対応措置を講じている。
インドの大手IT企業で、新規の学卒採用取消やボーナスなど変動給の削減といった動きが目立ってきている。業界2番手のインフォシス、ウィプロ、テック・マヒンドラは採用を3-4か月間延期していたが、ついに採用中止メール送付が報道された。業界トップのタタ・コンサルタンシ―・サービシーズ(TCS)はボーナスなど変動給支払いを延期し、インフォシスはその70%削減を実施したとされる。
南部の高原都市ベンガルールは別名「インドのシリコンバレー」と呼ばれるほどで、米国やカナダ、英国、EU(欧州連合)、日本などのソフトウエア開発のコーディングなど下流工程だけでなく、設計など上流工程も担い、コロナ禍でも好調だった。
ところが、インド最大の求人プラットフォームであるノークリ・ジョブスピーク(Naukri JobSpeak)によると、2022年8月のIT/ソフトウエア部門の求人は前年同月比マイナス10%へと急落した。
米国では、アップルがIT技術者のリクルーター約100人を解雇とブルームバーグが先月報道。メタ・プラットフォームズ(旧フェィスブック)、マイクロソフト、アマゾン、オラクルも同様な措置に踏み切ったとされる。インドのシリコンバレーの情勢が、米国のIT不況をいち早く示す指標になった観がある。
その一方で、インドの優秀なIT技術者の転職は盛んで、今年の転職率は2年前に比べ60%以上増えたと見られ、優秀なIT技術者獲得・保持費用は収益圧迫要因になっているようだ。
直近のインドの主要IT関連サービス各社の業績は収益悪化が目立つ。TCSの2023年度第1四半期(2022年4-6月、注:インドの場合2023年度と表記)の営業利益率は前年度同期比2.4%減となった。TCSは従業員総数が60万6000人強の巨大企業だ。インフォシスの2023年度第1四半期の営業利益率も前年度同期の20%増から3.6%増へと減少し、同社は変動給削減に動いた。ウィプロの2023年度第1四半期のIT関連サービス部門の営業利益率も前年度同期の約19%増から15%増へと落ち込んだ。ウィプロも変動費削減などに努めている。
インドの中央銀行であるインド準備銀行のレポートによると、2022年度(2021年4月-2022年3月)のインドIT企業による欧米企業からのIT関連サービス受注のうち、インド国内で業務を行うオフサイトのものが88.8%で、5年前の82.3%から伸びた。その受注総額(=輸出総額)は1,567億ドルに上る。国・地域別では、米国・カナダ向けが55.5%を占め、欧州向けが31%で、その半分は英国からだ。この調査は6,200社強を対象に実施。うち2,000社強が回答し、回答企業の総輸出額に占める割合は90%弱(ヒンドゥー紙の経済版、ビジネス・ライン紙2022年9月8日電子版)。同レポートは、欧米企業のIT予算削減傾向に対し、インドIT企業は変動給の削減、採用ペースの緩和といった対応措置を講じている、としている。
米国企業でIT技術者のリクルーター解雇が相次いでいるとはいえ、米国企業は、急成長を続けるアマゾンウェブサービス(AWS)に代表されるクラウドサービスなどへの支出は押さえていないようだ。
企業の最高情報責任者(CIO)を対象とした調査で知られるスパイスワークス・ジフ・デービス(Spiceworks Ziff Davis)の2023年のIT予算・技術動向に関する年報(予測)によると、83%は2023年の不況入りを心配しているものの、企業の51%は2023年にIT予算増を見込み、削減を計画する企業は6%程度という。
ITを中心とした調査で知られるガートナーの2022年、2023年のITでの支出予測(7月時点)では、2022年の世界のIT支出は前年比3%増の4兆5000億ドル。2023年には同6.1%伸び、前年予測同様にパソコン、タブレット、プリンター向けの支出は減るが、ソフトウエアは11.8%増、ITサービスは8.3%増、データ・センターは4.4%増になると見ている。
ひとえに、不況到来となるかどうかにかかっているということだろうか。
トップ写真:インドのシリコンバレー、バンガロールの街並み(2015年2月15日) 出典:Photo by Frédéric Soltan/Corbis via Getty Images
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この記事を書いた人
中村悦二フリージャーナリスト
1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)