無料会員募集中
.経済  投稿日:2022/11/9

岸田政権の経済政策の「人的資本」に注目!【日本経済をターンアラウンドする!】その6


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・岸田政権は、新しい資本主義の「加速」として、労働市場改革と人への投資に重点をおいた政策を発表した。

・これまでに強調してきた人的資本の可視化、ジョブ型雇用、リスキリングの3つはつながっている。

・日本経済の失われた30年を取り戻す岸田政権の政策は今後も期待される。

 

岸田政権が発表した「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」。ここでは、労働市場改革と人への投資を新しい資本主義の「加速」と打ち出した。

特に、多様な働き方などの推進、人的資本に関する企業統治改革は注目に値する。人的資本とは改めて解説すると、「費用」「コスト」と考えられていた人材を個人が持つ知識、技能、能力、資質等の付加価値を生み出す「資本」として捉え直す考え方である。

この背景としては、グローバル競争・ビジネス競争下で、人材こそが競争力の源泉であると認識されはじめてきているからだ。人材を「資本」として捉え、その価値を向上させる投資を行い、価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげることが企業経営に求められている。

働く方々、研究者、スタートアップなど「新しい資本主義」を担う皆様へ 新しい資本主義の「加速」 「労働市場改革」年功給→日本に合った職務給中心のシステムへの見直しなど 「人への投資」人への投資支援パッケージを5年間で1兆円に拡充 「賃上げ」「労働移動の円滑化」「人への投資」 3つの課題の一体的改革を進め、構造的な賃上げを実現 高スキル人材を惹きつけ→生産性を向上→賃上げ 「資産所得倍増プラン」個人金融資産の現預金が投資にも向かい、持続的な企業価値向上の恩恵が家計に及ぶ好循環を形成する 「成長分野に大胆な投資」●科学技術・イノベーション ●スタートアップの起業加速 ●GX(グリーン・トランスフォーメーション) ●DX(デジタル・トランスフォーメーション)

▲図 【出典】首相官邸HP:物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策

■ 日本経済を立て直すキシダノミクスの柱

今回の経済政策において「人への投資の強化と労働移動の円滑化を支える基盤を強化するため、働く人のエンゲージメントと生産性を高める働き方改革や多様で柔軟な働き方を選択できる環境の整備を行う」と主張している。

さらに「あわせて、企業統治改革を進め、人的資本への投資が企業の持続的な価値創造の基盤であることについて株主との共通の理解を作るため、非財務情報開示の充実等に取り組む。」とのこと。まさに筆者が主張している「人的資本経営」そのものである。

具体的な事業を列挙すると

・働き方改革推進支援助成金の拡充(「賃上げ加算」の増額)(厚生労働省)【再掲】

・産業保健活動総合支援事業(厚生労働省)

・幼稚園のICT環境整備(文部科学省)

・介護職員処遇改善等の取得促進支援事業(厚生労働省)

・障害福祉サービス等支援体制整備事業(厚生労働省)

・自動車整備業の生産性向上のための実証調査(国土交通省)

・国家公務員の働き方改革(職場環境整備)(内閣官房)

・地域女性活躍推進交付金(内閣府)

・地域における就職氷河期世代の先進的・積極的な取組への支援(内閣府)

・人的資本を含む非財務情報開示の充実や四半期開示の見直しなどの一体的な市場環境整備(金融庁)

・コーポレートガバナンス改革の推進(調査研究事業)(金融庁)【再掲】

・上場会社の会計監査を担う監査事務所の信頼性確保や企業の内部統制の実効性向上等を通じた市場機能の強化(金融庁)

・人的資本に関する国際的な開示ルールの策定の推進(金融庁)

【出典】物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策

これだけ本気になっていることは注目すべきだろう。

■ 各政策はつながっている?

岸田政権もこれまで

1.人的資本の可視化

2.ジョブ型雇用

3.リスキリング

について強調してきた。これらはつながっているのだ。解説しよう。

▲図 【出典】筆者作成

①人的資本可視化、つまり、人事関連の情報の可視化によって人事の課題が明確化される。費用(総人件費用・外部人件費用・給与と報酬の平均額・総雇用費用など)、組織風土(ワークエンゲージメント・従業員満足度・従業員のコミットメント・従業員の定着率など)を上場企業が公開することを求められている中、企業は人的資本経営に向かわざるを得ない。つまり、人を資本としてどう活用するか、について投資家をはじめ、内外に示さないといけないのだ。

そして、②ジョブ型人事制度への改革によって、これまでの「年功序列」「組織の関係性・動き方」をかえていくことだ。ジョブ型雇用とは職務内容を明確に定義して人を採用し、仕事の成果で評価し、勤務地やポスト、報酬があらかじめ決まっている雇用形態のこと。日本企業は、新卒一括採用、ゼネラリスト育成、終身雇用、定期昇給、年功序列のメンバーシップ型雇用をもう維持できないため、ジョブ型雇用は変わらざるをえない。

さらに、③リスキリングでDXスキルなど取得して従業員は自己成長していくことが求められる。制度に対応して、覚悟をもち、動けるスキルを身に着け成果創出して、活躍してもらうということだ。

まとめると、ジョブ型人事が新たな制度として全体を支え、その運用状況を人的資本可視化で明らかにし、その中で、リスキリングを機能させ、従業員に新規事業やイノベーションをおこしてもらい、結果、企業経営で収益を上げてもらうというシナリオである。

 失われた30年が終わる?

岸田政権の取組みは失われた30年を終わらす、日本経済をターンアラウンドする、まっとうな経済政策である。本質を理解しているし、適切な対応と言っても過言ではない。

1人当たりGDPや労働生産性など世界的にも「地に落ちた」日本経済の現状を踏まえた、本質的な改革である。前回も指摘したが、利害関係者を刺激したりすることのない政治的な高等戦略で実施を推進している。流石である。

欲を言えば、時代にあっていない、利害関係者のためにやっているような、効果が一部に限定するような他事業の事業費を大幅に削減して、この人への投資に注力してもらいたいほどだが。

とはいえ、経済政策の方向性は正しい。岸田政権に期待したい。

(つづく。その1その2その3その4その5

トップ写真:海上自衛隊70周年記念に参加する岸田総理(神奈川県・横須賀 2022年11月6日) 出典:Photo by Issei Kato – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."