ジョブ型で日本型雇用は転換する? 【日本経済をターンアラウンドする!】その9
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
【まとめ】
・ジョブ型雇用が明確になった「骨太の方針」。
・ジョブ型で企業から労働者の論理へと視点がシフトする。
・過去に縛られていたら、企業は労働者に選ばれない。
岸田首相は6月16日「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針2023)を打ち出し、閣議決定しました。岸田政権では「新しい資本主義」を掲げ、従来「コスト」と認識とされてきた賃金や設備・研究開発投資などを「未来への投資」と再認識し、人への投資や国内投資を促進する政策を展開している。
大手メディアは一部を除いて政策よりも、政局大好きで報道しないので、ここではその政策的意味を伝えていこうと思う。
骨太の方針の中のキーはやはり成長産業への移動といった労働市場改革がメインとされている。なかでも、ジョブ型雇用を明確にいったのは、ついに日本型雇用の転換点が来た、といっても過言ではない。
■ジョブ型とは何か?
【出典】筆者作成
ジョブ型雇用とは、職務内容を明確に定義して人を採用し、仕事の成果で評価し、勤務地やポスト、報酬があらかじめ決まっている雇用形態のこと。簡単に言うとポストで人を雇う仕組みである。プロセスで分類すると
・職務:職務や勤務地が限定
・採用:新卒採用でなく、欠員補充時に募集
・雇用:完全に保障できない、職務給での雇用
・退職:退職勧奨あり
といった特徴がある(参考:筆者noteサイト)。
特に、大企業では、これまで「新卒一括採用・年功序列・終身雇用」といった雇用システム、いわゆる「メンバーシップ型」を採用してきた。しかし、メンバーシップ型は優位性があるどころか、企業経営にとっても問題であることが明らかになっている。
日本の高度成長を支えた新卒一括採用、ゼネラリスト育成、定期昇給、年功序列、終身雇用を特徴とするメンバーシップ型雇用がもたらす数々の問題を多くの日本企業は我慢できる限界を超えたと言える。
■ジョブ型の社会的意義:組織のためじゃなく、労働者のため?
そうした中、政府が問題の多い「メンバーシップ型」から「ジョブ型」への転換を明確に、強調したことは大変意義があることだと言える。もう大企業も変わらないといけないのだ。
メンバーシップ型は高度成長期の、日本型組織にとってうまくカイシャ共同体として機能した、労使にとってもしあわせな時代が生んだ「奇跡」のようなものなのだ。時代が作り上げた制度。それが成功の記憶が強すぎたのか、人事制度という安定基盤だからか、なかなか改革が進まなかった。今後の経済競争に勝ち残っていけない。
ジョブ型はこれまでの企業から労働者の論理へと視点がシフトするといっても過言ではない。
・自由に就職活動をする
・社内でやりたいことやキャリアを明確に主張できる
・異動や転勤などがない
・スキルや経験で給料が決まる
・成果や能力によっては幹部へ早期に抜擢される
・ポストへの応募は自分次第、転職も含めて自分でキャリアを形成していく
・結果が出なければ退職せざるを得ないことも覚悟する
労働者は厳しい面もあるが、ある意味で自由もあるというわけだ。これまで「メンバーシップ型」であった一括採用、年功序列、終身雇用、勤務地やポストは会社が人事権の裁量で決めるといった雇用形態では管理や社内調整、異動他、様々なコストがかかる。もう日本企業はそんなことしていられないのだ。
■日本の再生は企業の変革から
HR3.0を主張する小寺昇二は「「人を大事にする」ことの意味は、解雇をしない(法的に出来にくい)ということだけで、給与はおろか人財育成投資についても先進国中低位水準となった」と語る。失われた30年で、給与も働く環境も色々な面でレベルダウンしてしまった日本企業。実際、一部の大企業を除いて、定年雇用は崩れているし、ジョブ型雇用を採用する企業も増えてきた。ジョブ型雇用、人的資本経営に取り組まないで、中途半端に過去に縛られていたら、企業は労働者にも選ばれない可能性すらある。
失われた30年を取り戻す、企業経営改革。アベノミクスのような、トリクルダウンも起きない、株高で一部が儲かった政治とは違う。
本質に切り込んでいく、「分配」を掲げ、経済に中心をおいた「改革」。優先順位を明確にして、地道に政策を推進していく岸田政権に期待したい。
(つづく。その1、その2、その3、その4、その5、その6、その7、その8)
トップ写真:令和5年第9回経済財政諮問会議・第20回新しい資本主義実現会議の合同会議での岸田総理(2023年6月16日 総理大臣官邸)
出典:首相官邸
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。