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.国際  投稿日:2023/4/13

ヒマラヤの田舎で繰り広げられる中印の帰属権争い


中村悦二(フリージャーナリスト)

【まとめ】

・インドはニューデリーで第18回G20首脳会合を主宰する。

・中国は南チベットを巡る領土紛争絡みで3月末開催の科学技術・イノベーショ  ンに関する会合に参加しなかった。

・中印間の国境紛争は今なお続いている。

 

2022年12月からG20の議長国を務めているインドは今年9月9‐10日にニューデリーで第18回G20首脳会合を主宰する。首脳会談に至るまでには、様々な分野での作業部会、閣僚会議がインド各地で開かれ、首脳会談での優先事項が決定される。

インドはその一環として、科学技術・イノベーションに関する会合を、実効支配するアルナチャール・プラデーシュ州のイタナガルで3月末に開いた。

しかし、中国は自らが蔵南(南チベットと呼ぶこのヒマラヤ山脈に位置するチベットの高峰地域がインドに属することを認めておらず、この会合には参加しなかった。

日本の総務省に相当する中国の民生部は4月2日、南チベット地域の11か所の標準(公開)漢字地名、漢字の発音表記、チベット語表記、緯度・経度などを公表した。人民日報傘下の国際関係を専門とする環球時報の英語版、グローバル・タイムズ(4月3日付)は、「蔵南は古来より中国の領土」とし、蔵南地区の標準地名にからむ公表は、2017年に6地点、2021年の15地点に続くものと報じた。

一方、インドのナレンドラ・モディ首相は、アルナチャール・プラデーシュ州が進めている過疎地の住民や国境地帯防衛軍への電力供給で50基の小規模な水力発電所建設プロジェクトを進めていることを絶賛している(タイムズ・オブ・インディア紙4月6日付)。同州のペマ・カンドゥ州首相は、このプロジェクトは「国境沿いの地域こそが電化されるべき」というモディ首相の呼びかけに応えたものであることを強調している(上掲紙)。ちなみに、その費用は20億インド・ルピー(約32憶円)が見込まれている。

 

■今世紀に入り続発する印中間の国境紛争

インドと中国の間では、今世紀に入り様々な紛争が起きている。

古くは、英領インドと中華民国の間で、ネパールとブータンを挟んで国境を接し、ダライ・ラマ14世の政権下にあったチベットには中華民国の実効支配は及ばず、チベットと英国はマクマホン・ラインを境界線とした。

1949年に中華人民共和国が誕生し、中印は非同盟運動を推進する仲となった。

だが、1956年にチベット動乱が起き、ダライ・ラマ14世がインドに亡命すると印中間で緊張が高まり、両国軍兵士間の銃撃戦が起きた。それに、中国の支援を受けるパキスタンとの間で戦闘が起き、印パ間での核開発競争も起きた。2013年、2017年、2020年にはカシミール、シッキムなどで小規模な衝突が発生。2020年時にはインドで中国製品の不買運動が起きた。このためか、モディ首相は2021年7月の中国共産党建党100周年で祝賀メッセージを送らなかった。

2021年10月には、モディ首相と習近平国家主席との電話会談が実現した。

日本は「自由で開かれたインド太平洋」の発展を提唱し、現在では豪州、米国、東南アジア諸国連合(ASEAN)、英国欧州連合(EU)などによる中国の覇権主義をけん制する動きとなっている。

 

■今なお止まらない丁々発止

インドのアミット・シャー内相は4月10日、アルナチャール・プラデーシュ州アンジョー地区のキビトゥー村で、“勇敢なるインド軍とインド・チベット国境警察のおかげで、何人たりとも我が国の国境を侵犯することはできない”と演説した(タイムズ・オブ・インディア紙4月10日付)。

ロイター電によると、これを受けて、中国外務省の汪文斌報道官は同日、“蔵南は中国の領土の一部。インドの高官がその主権を侵害する行いをすることは国境地帯の平和、安定の助けにならない”と反駁した。

トップ写真:インド統治下カシミール地方にあるゾジラで警備するインド軍兵士(2023年1月6日、インド)

出典:Photo by Yawar Nazir/Getty Images




この記事を書いた人
中村悦二フリージャーナリスト

1971年3月東京外国語大学ヒンディー語科卒。同年4月日刊工業新聞社入社。編集局国際部、政経部などを経て、ロサンゼルス支局長、シンガポール支局長。経済企画庁(現内閣府)、外務省を担当。国連・世界食糧計画(WFP)日本事務所広報アドバイザー、月刊誌「原子力eye」編集長、同「工業材料」編集長などを歴任。共著に『マイクロソフトの真実』、『マルチメディアが教育を変える-米国情報産業の狙うもの』(いずれも日刊工業新聞社刊)


 

中村悦二

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