試される自民・維新、異色のタッグ「世田谷区長選」
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
Japan In-depth編集部(樊明軒、菅谷瑞希)
【まとめ】
・世田谷区長選、4期目を目指す現職保坂展人候補に自民・維新が擁立する内藤ゆうや候補が挑む構図。
・保坂候補は3期12年の実績をアピール。
・内藤候補は、区庁舎建て替え費用の区民負担400億円をゼロを訴え。
統一地方選後半戦、東京都の注目選挙区の1つ、世田谷区長選。4期目を狙う、元社民党衆議院議員で現職の保坂展人候補と23区で最年少候補、元財務省職員で29歳の内藤ゆうや候補が立候補した。
小田急線、井の頭線の下北沢駅近くで第一声を上げたのは現職保坂展人候補。
応援演説には自民党の重鎮、笹川堯元衆議院議員が駆けつけた。保坂候補が社会党の衆議院議員時代からの知り合いだという。
「区長は社長と一緒ですから、いきなり社長になる人はいない。まずは区議や都議、国会議員になってからだ」と述べた。また、保坂候補が国会議員だった時代の話に触れ、「国会議員当時は質問を出しすぎて大変苦労したが、ちゃんと話をすれば分かってくれる人だった」とエピソードを披露、区長は人物で選ぶべきだ、と訴えた。
▲写真 応援に駆けつけた自民党の笹川堯元衆議院議員 ⒸJapan In-depth編集部
その他、立憲民主党手塚よしお衆議院議員、落合貴之衆議院議員、風間ゆたか都議会議員、 酒井直人中野区長、都民ファーストの会政調会長福島りえこ都議会議員らが応援に立った。
保坂候補は、自身のコロナ対策での実績をアピール。その上で、「基本に返って、楽しいと思えるような学校を作る。そのために2つのことをやりたい。1つは、無我夢中に学べるオルタナティブスクールを世田谷区でスタートさせること。そして自信を失う若い先生方も少なくない中、ベテランの先生も含めた世田谷区採用の先生を作り出す」と述べ、「教育の底上げ」に取り組む考えを示した。
また次の任期について、「最後の締めくくりの4年間」と述べ、今期が最後になるとの考えをにじませた。
第一声を聞いていた下北沢在住の男性(82歳は、「保坂候補に対し評価しているのは、子育て中の母親への支援など子供が健全に育つ環境を整えてきたことと、新型コロナウイルスが流行し始めたとき、いち早く社会的検査を行ったことだ。高齢者の隔離をしたことで感染拡大を防げたことに感謝をしている」と述べた。また、保坂候補には「世田谷区の正規職員は5000人近くおり、一方で非正規職員が約5000人いる。この人たちが生き生きと主体的に活動する方向へと向かってほしい」と述べた。
また同じく下北沢付近在住の男性(40代・会社員)は、まだ支持は決めていないとした上で、「保坂候補の今までの政策は悪くないが、任期が長いのがね」と述べた。
76年間ずっと下北沢在住の女性(無職)は、「ベテランの保坂候補に任せるべきだ」と述べ、「私たちの時に比べて、今は子どもの教育費が本当に大変だから、私たちの孫の世代の支援を頑張ってもらいたい」と述べた。
■ 再開発で賑わう下北沢
渋谷・新宿まで直通で行ける便利さと、ライブハウスや劇場、古着ショップなどが多く、若者に人気のサブカルの町下北沢、通称シモキタ。近年、再開発で大きく変貌を遂げている。
昨年3月に京王電鉄下北沢駅高架下に開業した複合施設「ミカン下北」を訪れた若者(男性:20代)は、「今日は友人と食事に来た。シモキタはファッションや劇場などがあり、魅力的。面白いお店がいっぱいあって、アンダーグラウンドな雰囲気が好き。最近は再開発が進んで、駅から世田谷代田に向かう道が個人的にはお気に入りだ」と話した。
▲写真 「ミカン下北」ⓒJapan In-depth編集部
若者がいう小田急線下北沢駅から世田谷代田駅への道は、2020年に再開発に伴い新しくできた。街路には沢山の商業施設が並び、昨年人気を博した、SnowManの目黒蓮さんと女優川口春奈さん出演のフジテレビ系列のドラマ「silent(サイレント)」のロケ地として、聖地巡礼の若者で賑わっている。
昔からある飲食店の店長に話を聞くと、「いろいろ新しい施設もできて、人が増えてきている感じがする」と述べ、保坂区政の元で進んできた下北沢地区の再開発を評価した。
▲写真 再開発が進む下北沢駅前 ⓒJapan In-depth編集部
■ 内藤ゆうや候補
対する内藤ゆうや候補は、東急田園都市線三軒茶屋駅前で第一声を上げた。午後の時間帯でもあり、50名以上の聴衆が足を止めた。
自民党都議や衆議院議員らが応援に駆けつける中、日本維新の会代表の馬場伸幸衆議院議員の姿も。
「今回、維新の会が内藤候補を支援するというので驚いた人もいるかもしれない。我々は改革保守政党。維新スピリッツとは身を切る改革をすることだ。庁舎の建て替えに400億円もかける必要ありますか?」と述べ、ムダを省く政策を掲げている内藤候補支持の姿勢を示した。
都内では北区長選と共に、自民党とタッグを組んだ維新の会。統一地方選前半戦で躍進した勢いをかって、東京でも存在感を示したいとの意気込みがうかがえる。
▲写真 応援にかけつけた日本維新の会馬場伸幸代表(右)と自民党の若宮健嗣・元万博担当相(左)ⒸJapan In-depth編集部
内藤候補は、新庁舎建設の問題を取り上げ、保坂候補が税金400億円を使おうとしているのに対し、自身は民間企業と共同開発して、税金を1円も使わず建て替えると主張した。
昨今の物価高などで区民の生活が圧迫されていることについては、地域デジタル通貨「せたがやPay」を活用して、消費税10%分を区民の方々に戻す、と述べた。
「400億円をコンクリートに使うのか、住民サービスの向上に使うのか、区民の皆さんにお伺いしたい」と述べ、保坂区政からのチェンジを訴えた。
演説を聴いていた世田谷区民の男性(80歳:無職)は、「やはり今の日本を回復させるために若い人に頑張ってもらいたい。内藤候補には、子育て支援をしてもらいたい。少子高齢社会から若者がどんどん子供を産める社会に変えてほしい。出産手当や給食・制服の無償化の政策などに期待したい」と述べた。また、「世田谷区は昔と比べてここ最近よい変化が見えない。犯罪率も歌舞伎町についで2位と安心して暮らせなくなってきている。内藤候補が世田谷区を改革してくれることを願う」と述べた。
世田谷区民の女性(主婦)は、「世田谷区を魅力的な街に変えたいと言っていた所が一番良かった。海外に住んでいたことがあるが、帰って来た時、落書きが増えていたり犯罪率が上がっていたりしていて変わってしまったと感じた。昔は住みたい街ランキングで上位だったのに今は下がっているので、街の輝きを取り戻してほしい」と述べた。
▲写真 世田谷区役所庁舎案内 ⒸJapan In-depth編集部
▲写真 世田谷区本庁舎等整備工事完成予想図 ⒸJapan In-depth編集部
▲写真 すでに工事中の世田谷区民会館 ⒸJapan In-depth編集部
▲写真 老朽化が激しい第1庁舎 ⒸJapan In-depth編集部
▲写真 第1庁舎の手すりは錆で真っ赤 ⒸJapan In-depth編集部
それぞれの支持者が共通して期待するのは、子育て支援を通じて少子高齢化を改善し、世田谷に活気を取り戻すことだ。区長を3期務めたベテラン政治家保坂候補と、新進気鋭の内藤候補、一騎打ちとなった世田谷区長選挙。
世田谷区議会議員・区長選挙の投票日は4月23日(日)だ。
トップ写真:建て替えが進む世田谷区庁舎 ⓒJapan In-depth編集部
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。