党幹部と都市部・農村部の年金の差
澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)
【まとめ】
・中国、引退した党最高幹部の待遇、1人当たり年平均約20億円。
・政府機関の退職者は年金が高く、月平均支出は6~8000元(約12 ~16万円)。
・農村住民の年金は全国平均で月額163元(約3200円)。これで暮らしていけるのか。
本稿では、党幹部の年金及び都市部と農村部の一般高齢者の年金について紹介したい。
まず、第1に、党幹部の年金である。
米国在住の中国政治研究者、陳破空によれば、党中央委員以上(5年毎に、およそ200人就任<再任もある>)の退職高級幹部の年間公費支出は1000億元(約2兆円)にのぼる(a)という。
中でも、江沢民、李鵬ら(両人はすでに死亡)11人を含む引退した最高幹部が享受する特権的待遇は、年間10億元(約200億円)、1人当たり平均1億元(約20億円)近い公費が使用されているという。
江沢民らが享受(した)している特権的待遇には、特別機、特別列車、高級車等の使用、緊急の場合、専門医療チームの編成・看護などが含まれる。
他の省部長クラスの退職幹部でも、1人当たりの平均年間支出は500万元(約1億円)に達する。
もし、党幹部が人民の側に立つと、共産党によって「党の利益を危うくする」と糾弾され、該当レベルの特権が即座に剥奪される。例えば、趙紫陽元総書記は、学生達に共感したことから「党を分裂させた」と決めつけられ、特権を剥奪されて小さな屋敷に軟禁された。
第2に、都市部の年金である。
都市部で定年退職した高齢者の生活は、その経済状況によって大きく異なる(b)。平均的な退職者の毎月の支出は約2~3000元(約4~6万円)で、主に食費や薬代などに使われる。
政府機関の退職者は年金が高く、月平均支出は6~8000元(約12 ~16万円)で、比較的豊かな経済状況にあるので、消費の選択肢が多い。
高齢者の中には、基本的な生活ニーズを満たす(月に約2~3000元の出費)だけで満足する人もいる。他方、旅行やパーティー、シニアの様々な活動など、高額な出費を好む高齢者もおり、その場合、月に5~6000元(約10万~12万円)は支出しなければならない。
さて、「中国フレキシブル雇用市場調査報告書2022」によると、上海のフレキシブルワーク(時間や場所を柔軟に選べる働き方)雇用は、国内でその数300万人を超える(c)。
これらフリーランサー(個人で仕事を請け負う人)のおよそ2割近くが2万4000元~6万元(約48万円~約120万円)の収入を得ている。だが、そのほとんどがスタート段階では不安定な収入しかなく、一般的な職場での平均賃金を下回っている。すなわち、半数近く(47.5%)が月平均8000元(約16万円)以下の収入しか得ていない。
基本的に、社会保険料の月額納付額を100%とすると、年金の月額受給額は130~150%程度である。一例を挙げれば、上海市の社会保障費は月額1565元(約3万1300円)で、退職後は年金が月額で2286元(約4万5720円)となっている。
目下、浙江省杭州市が毎月、2500元(約5万円)の年金となっていて、中国で1番高い。ただ、1ヶ月、1000元(約2万円)を切る地域が3つある。
今の社会保障制度下では、ある場所で10年間社会保障費を払っていれば、そこで定年退職し、年金を受け取れる。仮に、上海市で10年、深圳市で10年、杭州市で10年払ったとする。こういう場合、退職する際、3つの場所から選ぶことが可能である。そこで、杭州市を選択すれば、1番高い年金をもらえるだろう。
第3に、農村部の年金である。
統計によると、2020年には農村住民の年金は全国平均で月額163元(約3200円)(d)だという。高齢者が、この年金額で暮らしていけるのか疑問である。
農村の高齢者は、金銭面で子供に頼りたくない気持ちが強い(子供に頼れる高齢者がいたら、ある意味、幸せなのだろう)。そこで、彼らは働かざるを得ないのである。けれども、ただでさえ産業があまりない農村部では、雇用機会が非常に少ない。
実は、昨年、建設業界は安全上の理由から60歳以上の男性、50歳以上の女性の建設現場への立ち入りが禁止された。そのため、高齢の出稼ぎ労働者が最も高収入のカネを稼ぐ方法を失っている。
年金がほとんどないので、彼らはケータリング、ハウス・キーピング、セキュリティ、その他、パートタイムの分野へ流れ込んで働き続ける。
だが、一方、農村部の物価水準は低く、食料品や日用品などの基本的な生活必需品の価格は割と安定しているため、高齢者がこれらの品目を購入する時、多額の出費は必要ない(b)という主張もある。
したがって、農村の高齢者は、通常、手元に10万元(約200万円)ほどあれば、ある程度、満足できる老後の生活を送ることが可能だという。
〔注〕
(a)『中国瞭望』「共産党の引退した幹部たちは、自分達が散財している年間支出についてどのくらい知っているのか?」(2023年7月17日付)
(https://news.creaders.net/china/2023/07/17/2627840.html)
(b)『網易』「60歳以降、退職までに貯蓄額はどれくらい必要か? 目標に達しているかどうか確認してみよう」(2023年7月23日付)
(https://www.163.com/dy/article/IA9Q7DR60544A1CY.html)
(c)『中国瞭望』「404 本文:上海はおそらく極めて貧しい」(2023年6月30日付)
(https://news.creaders.net/china/2023/06/30/2622002.html)
(d)『中国瞭望』「彼ら高齢者はアルバイトで老後を持ちこたえるしかない」(2023年7月11日付)
(https://news.creaders.net/china/2023/07/11/2625869.html)
トップ写真:上海の農村地域の道路で野菜を売る人々(2021年2月22日 中国・上海)出典:Hugo Hu/Getty Images
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この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長
1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。