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.経済  投稿日:2023/8/25

都市再開発の規制強化で一極集中解消を!【日本経済をターンアラウンドする!】その11


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

都市再開発、これ以上許容すると自民党「東京への一極集中」対策が難しくなる。

・都心の再開発を促進する法律の見直しは急務。

・「東京一極集中」解消には国政選挙の争点・テーマとして国民的議論すべき。

 

「都心最後の一等地」と呼ばれる神宮外苑地区の問題の世論が沸騰している。いちょう並木の問題のお陰で注目を浴び、世論の関心も高まったわけだが、これ以外にも都心では都市再開発ラッシュである。高層ビルに囲まれた街は魅力もそれなりにあるが、景観や生活者や勤務者にとっての「ウェルビーイング」の面で多くの課題があるだろう。景観は阻害されるし、光は入らないし、空気の流れが変わる。反面、そうした生活者や勤務者以外の地権者にとっては相当魅力的なものになってくる。そもそも大事なのは、岸田政権が進めるデジタル田園都市国家構想」を実現するうえでこれ以上、都市再開発を許容すると、その実現を進めるうえでネックになると思われるからだ。自民党の公約で掲げた「東京への一極集中」対策もますます難しくなってしまう。

外苑に見るビルの高層化の3つの転機

筆者も連載にて記事を書いたが、神宮外苑の再開発のメリットは、神宮球場など、税金を投入しないで建て替えが可能になったことなのは、まず明確にしておきたい。

三井不動産をはじめ批判が集まっているが、少しかわいそうな面もある。ディベロッパーにとってみれば、ビジネスはビジネス。社員が色々頑張って地権者を説得しまわって土地を集め、集積・集約する、そのために長年にわたり根気よく調整・コミュニケーションなど活動してきたのだ。

「空を金にする」という批判はあるが、経済のルールのもとで、高層ビルを建設、新たに地上の空間を部屋にして転売し、金に換えるだけにすぎない。新しい施設は莫大な公的負担、税金がかかるのは国立競技場の建設を見ればわかるわけだが、税金負担なしですむということは抑えておかないといけない。地価があがることも見込みながらも売却益をあげられるからだ。

ただ、外苑は日本初の風致地区に指定されていて、建築物の高さ制限があった。しかし、1969年に都市再開発法、2002年に都市再生特別措置法(都市再生法)、小泉政権下の「都市再生」のもと規制緩和が進み、新国立競技場や日本スポーツ振興センター本部ビルが建設されてしまった。外苑の再開発において重要な転機は3つある。

①2013年6月:東京都が「再開発等促進区」を設定。容積率を緩和、建物の最高高さを80メートルまで緩和

②2015年4月:都、JSC、明治神宮、高度技術社会推進協会、伊藤忠商事、日本オラクル、三井不動産らが「神宮外苑地区まちづくりに係る基本覚書」を締結、再開発に突き進むことになる

③2018年11月:「東京2020大会後の神宮外苑地区のまちづくり指針」策定。公園まちづくり制度の活用

このようにして規制が緩和され、再開発の道が開けたのだ。いつの間にか、にというのが正直なところだ。

■都市計画法制を問い直すべき

企業にもビジネスという論理がある一方、住民にも愛着、快適さ、景観という価値感などがある。それぞれがいがみ合うよりも、妥協点を探ることが重要であるし、妥協できないのなら、今後こうした対立が起きないように我々は今回の事例から学んでいくことだろう。

大事なのは、いつの間にかにルールが変更していること、そして、そのルール変更について利害関係者以外の人々は蚊帳の外の状況であったことだ。メディアの報道もあったが、注目はされなかった。その意味で行政、特に東京都や新宿区が社会的な合意を積み上げる姿勢を示したのか、民主主義的な手続きなのか、という点で行政の公共性が問われるべきだろう。

しかし、本来なら都市再生、都心の開発は国政マターでもよいものだろうと思う。なぜいかというと、法律のもとで、すべて動いているからだ。

多くの人が国土はどうすべきか?都心に集中させるべきか?について国民の関心事項の1つであろう。東京・関西・名古屋などの経済圏やニセコなどのいくつかの地域以外は人口流出や高齢化で地域経済はとても厳しくなっている。

その意味で、都市再開発を進めてくるのに貢献したのは都市再開発法」「都市再生法」「都市計画法などの法律、そして、「高度利用地区」というのがこの都市再開発を進める法的根拠であろう。

高度利用地区に指定されてしまうと指定内容に適合する建物、つまり高層ビルしか建てられなくなってしまうのだ。なので、これらの法律や運用実態を国会で議論していくべきなのだ。超高層ビルが乱立する東京は魅力もあるが、地震や災害に極端に弱いことが国際的にも評価されているからだ。

都市再開発を国民的議論すべき

人口縮小時代、地方創生時代。岸田政権も「一極集中の是正」を公約し、新しい資本主義を掲げ、デジタル田園都市国家構想を掲げている。実際のところ、人口、経済社会等の日本の将来像に関する世論調査で「地方から東京への集中は望ましくない」と答えた者の割合が全体で48.3%もいる。国民の約半数。東京都民も40%程度である。地方から東京への人・モノ・カネ・情報の移転が止められない現状では、とりあえず都心の再開発を促進する法律の見直しは急務であろう。

3600万人の東京圏の一極集中解消を進めるためには、都市空間の規制強化、地域分散、DX化が問題解決案になるわけだが、一丁目一番地は都市計画関連法の見直しと考える。そのためには、国政選挙の争点・テーマとして国民的議論をする時期なのではないだろうか。

トップ写真:神宮外苑 出典:show999/Getty Images




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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