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.政治  投稿日:2022/7/7

参議院選挙の本当の「争点」⑩ 東京一極集中


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・新型コロナウィルスで少し東京一極集中について問題提起はされたが、参議選の中心テーマにはなっていない。

・筆者は東京一極集中の是正ができるという確信はほぼ持てない。

・政権のデジタル田園都市構想と各党のビジョンを一歩進めて、令和の日本社会をデザインしてもらいたい。

 

コロナウイルスで失われた2年半。ストレスフルな都心の日常を見ていると、マスク以外はコロナのことすら忘れてしまう。新型コロナウィルスで少し東京一極集中について問題提起はされたものの、今回の参議院議員選挙では、中心テーマどころか論点すらなっていない。

首都の歴史

簡単に言うと、大和朝廷が成り立って以来、纏向、飛鳥、難波、平城京、長岡京、平安京、福原、京都・・・であった。途中、鎌倉が中心になったこともあったが、基本京都が中心。その後、江戸・東京という感じで首都は歴史的な流れの中で位置づけられる。

明治維新で正式に東京が首都になってから、150年以上。当時とは各県の人口比も大きく変貌した。そして、今、多くの地方は人口減少に悩む。地方出張の多い人間からすると、東京圏以外では郡山、宇都宮、高崎、相模原、大宮、姫路、岡山、博多といった地域はそれなりに元気だが、そのほかの地方都市は厳しい状況に置かれている。

東京圏の過密度合いを事実で振り返ってみよう。コロナ前のデータになるが、31区間ピーク時の平均の混雑率は163%である。ストレスフルな極度の緊張状態の通勤を迫られていた(現在は新型コロナで改善しているだろうが)。通勤にかかる住民のストレス・健康負担は相当のモノである。まとめると以下になる。

▲表 【出典】筆者作成

特徴は大きく2つ。政治経済の機能が集中していること。主要都市圏のGDPが各国全体のGDPに占める割合:33.1%、通信放送業企業はほぼ東京、100人以上の事業所の所在地(東京圏)は46.9%、フォーチュングローバル500都市別グローバル企業本社所在数占有率(東京都)は73.1%、資本金 100億円以上企業数比率は50.8%といった状況だ

問題解決が困難

高度成長時代にとっては東京圏に集中することが様々な面で都合がよかったために、国策として進めたことが最大の要因であり、政府にとっても、会社にとってもメリットが多く、さらに広大な平野があったことが集中を加速化させた。

しかし、ここまで集中してしまうと弊害も叫ばれるようになる。首都機能移転論、地方創生政策などと政府が取り組んだが、結果がでなかった。筆者は、内閣府地方創生人材支援制度のもとで働いていた時に、省庁の地方移転など地方創生政策にかかわったが、うまくいかなかったというのが実感だ。

▲表 【出典】内閣府「中央省庁の地方移転に関する進捗状況」をもとに筆者作成

問題解決のための具体的な政策は様々な人が様々な提言をしているし、過去の評価を整理しよう。

▲表 【出典】筆者作成

筆者は東京一極集中の是正ができるという確信はほぼ持てない。第一に、これまでうまくいかなかった政策をどのようにしてうまくできるのか。その知見や考え方を示されているとは思えないからだ。

第二に、問題解決がものすごく難しいから。難しい理由は利害関係者が多いからだ。都市圏の政治家・自治体、地主、不動産業、本社や工場を東京におく企業関係者、本社や設備を東京に置いた会社の幹部や家族、中央官僚・・・・そして東京都民の多く。こうした問題点に各党はどう向き合っているのだろうか。

各党の政策

今回の選挙公約を比較してみよう。目立っているのは維新の会だ。「首都・副首都法を制定し、大阪・関西を首都機能のバックアップを担う拠点とすることにより、二極型国家を実現します。更に、グローバルな都市間競争を勝ち抜いて日本経済をけん引するエンジンを増やし、二極型国家から多極分散型国家を実現していくため、憲法改正国民投票を通じた道州制あるいは地方自治特別法を通じた広域行政の一元化を推進します」と明記。特に、「多極分散型国家」というビジョンを提示している点が圧倒的に優れている

▲図 【出典】維新の会、公約

立憲民主党も「東京一極集中が地方の疲弊を招いている」という問題意識のもと、「都市への人口への一極集中の解消のため、新しいライフスタイルであるテレワーク推進」などを提案している。公明党も「東京一極集中の是正と地方移住・定着、関係人口の創出の取り組みを進めます。」と明確に問題点として指摘している。

自民党はデジタル田園都市構想を進めている。今回の公約では「地域の創意工夫を活かした「しごと」や「ひと」づくりの推進」として「東京一極集中に歯止めをかけ、魅力ある地方を創生するためには、安心して働くことができるよう良質な雇用機会を創出するとともに、新しい人の流れをつくり、地方創生に必要な人材を確保することが必要です。このため、地方自治体が実施する「しごと」や「ひと」づくりに加え、地方への新しい「ひと」の流れづくりに取り組み、「しごと」と「ひと」の好循環を確立するめの人材還流、処遇改善等についての創意工夫を活かした取組みを迅速に支援します。」とある。それなりに流石の主張ではあるが、賃金の高い、グローバルな仕事が東京に集中している点で、実行可能性という意味で疑わしい点もある。

その他、国民民主党は「ふるさとへの帰農支援」を主張している。

令和の日本をデザインしてくれないか!

令和の時代・デジタル化の流れのなかで変わってきている、そうした兆しもある。しかし、なんだかんだいって、東京から脱出できるのは一部の人たちだ。ヤフーや私が過去に勤務したアクセンチュアのような会社が居住地を自由化したとしても、デジタル化が進んだとしても、メタバースが流行ったとしても、やはり都市の魅力は「強大」である。その意味で、デジタル田園構想は素晴らしい。

失われた30年が過ぎても、右肩上がり時代の社会システムの発想がまだまだ延命していて、さらに行き詰まりを見せている。経済でさえ未来が見えない。今ほど「日本社会のあり方」が問われている時はないだろう。政権はデジタル田園都市構想や各党はそれぞれのビジョンをさらに一歩進めて、令和の日本社会をデザインしてもらいたい

「一元的集中・中央集権から多様な分散型・分権社会」をどの党がデザインできるのか。あとは企画、実行するだけの状態・段階なのだ。各党にその実行プランの披露、そして政権を取った党に確実な実行を期待したい。

(つづく。

トップ写真:東京、渋谷 出典:Photo by Keith Tsuji/Getty Images




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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