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.国際  投稿日:2023/9/14

学校や寺院付近に地雷を埋設 軍兵士の寝返りも深刻 ミャンマー


大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

ミャンマー民主派抵抗勢力「国民防衛軍PDF)」支配地域に軍が多数の対人地雷埋設。

・背景に国軍の兵力不足や兵士の士気低下が。

・地雷の犠牲は主に一般市民。民心の離反が膨らみ、軍政は苦境に。

 

軍と民主派勢力による実質的な内戦状態にあるミャンマーで武装市民による民主派抵抗勢力「国民防衛軍(PDF)」が支配する地域や影響力が強い地域で軍が多数の対人地雷を埋設している実態が明らかになった。

これはミャンマーの独立系メディアが9月11日に伝えたもので、軍は子供や住民が集まる学校や仏教寺院周辺への地雷埋設を積極的に進めているとされ、こうした地雷による市民の犠牲も増えているという。

独立系メディア「イラワジ」によると、北西部サガイン地方域シュウェボ郡区やウェットレット郡区で9月4日に起きた軍と武装市民組織「国民防衛軍(PDF)」との戦闘で市民側に2人が死亡、2人が負傷する被害が出たが、19歳の女性が地雷を踏んで片足を失う重傷を負ったという。

この戦闘には同郡区を約80人の歩兵第12大隊兵士が参加し、5日に撤退する前にさらに地雷を敷設していったという。

この時地雷が主に敷設されたのは主要道路で学校や仏教寺院などの入り口で、集まる児童や住民を狙った「卑劣な手段」であると地元PDFメンバーは軍を批判している。

さらに地雷で19歳の住民が地雷を踏んで死亡し、PDFは13個の地雷を発見しうち2個を除去することに成功したという。

★地雷除去はほぼ手作業という現実

東部カレンニ(カヤ―)州では地元PDFと抵抗勢力である「カレンニ民族防衛軍KNDF」などによると、軍が設置した多数の地雷除去には地雷探知機が有効だが、高価であることなどから数が限定されているという。

このため実際には地雷除去に従事するメンバーはペンチ、熊手、鍬(くわ)や素手で行わざるを得ないのだが、相当の危険が伴う作業であると訴えている。

このほか東部シャン州のペコン郡区では34歳の女性が地雷を踏んで右足を失った。この女性は2023年6月以降激化する戦闘を避けるために郊外の避難民キャンプで生活をしていたが、毛布などの生活用品を取りに久々に村の自宅の戻ったところ、軍が埋設した地雷を踏んでしまったという。

 ★背景に軍の兵力不足などの焦り

国際社会は非戦闘員の一般住民にまで被害が及ぶという非人道的兵器としての対人地雷の禁止をうたった対人地雷等禁止条約オタワ条約)」を1997年に条約交渉がカナダのオタワで終了したことからオタワ条約とも呼ばれ、1999年3月に効力が発効した。

同条約では対人地雷の使用、開発、貯蔵、生産、移譲を禁止しており、2022年12月時点で162カ国が加盟している。

しかしミャンマーはこのオタワ条約には現時点では加盟していない。

ミャンマー軍政が対人地雷を各地のPDF勢力が強い地域を中心に埋設している背景には、国軍の兵力不足や兵士の士気低下などから直接的な戦闘を可能な限り回避しながら犠牲を強いるという戦法に活路を見出そうとする意図があるとみられている。

2021年2月のクーデター以来2年半以上が経過してもなお国土の大半で完全な治安が確保できない現状に軍政内部に焦燥感があり、それが対人地雷や空爆など直接戦闘ではない戦術を頻繁に採用している背景にあるとの見方が有力だ。

加えて軍兵士による非戦闘員の一般住民に対する民家への放火、暴力、拷問、虐殺などの人道に反する行為が増加していることも関係しているのは間違いない。

★軍を離脱する兵士続出

独立系メディア「イラワジ」は8月25日に民主派組織「国家統一政府(NUG)」が会議で過去4カ月の間に約500人の国軍兵士が軍を離脱し、脱走したことを明らかにした。

それによると8月だけで少なくとも50人の兵士が軍を「脱走」し、武装市民組織に合流するなどの「寝返り」が増加しているという。特に西部チン州、東部カレンニ州、カレン州などでのこうした傾向が顕著で、軍は多くの部隊で定員割れが生じていることが離脱した元国軍兵士の証言でも明らかになっていると報じている。

こうした事態の深刻さを裏付けるように軍は兵士の引き留めに必死となっており、休暇取得の奨励や芸能人らによる部隊慰問、部隊指揮官に兵士と食事を共にしてコミュニケーションをとるよう指示がでているという。

またPDF側も兵士に対して武器や弾薬などを持っての寝返りを奨励し、多額の報奨金を用意していると宣伝し、兵士の士気低下、離反を促す作戦を展開している。

このようにミャンマーの戦況は膠着状態にあり、軍内部にある焦りが対人地雷設置という戦法にあらわれているといえる。

対人地雷の犠牲となるのは主に女性や子供、一般市民であり、軍政への民心の離反は次第に膨らみ、軍政はますます苦境に追い込まれている。

トップ写真: 地元コミュニティは弾薬啓発ポスターを使用して、子供たちを教育し、地雷、ロケット弾、その他の種類の爆発物から保護している。(ミャンマー・カヤー州 2023年5月13日)出典:Daphne Wesdorp/Getty Images




この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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