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.国際  投稿日:2023/11/11

北朝鮮、中露との同盟強化で本格的武器輸出国家へ


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・北朝鮮は「非同盟外交路線」を放棄し、再び中国・ロシアとの同盟を強化。

・金正恩は「国防経済」という言葉で武器増産を督励、稼いだ資金を核・ミサイルに投資するという悪循環。

・輸出用武器生産が続くならば全般的な景気浮揚効果があると予想される。

 

北朝鮮の金正恩政権は今、核・ミサイルの高度化を最優先目標に掲げて、外交・安保分野の「再編」を行っている。ロシアのウクライナ侵攻とハマスーイスラエル戦争の勃発を契機に、伝統的な「非同盟外交路線」を放棄し、再び中国・ロシア両国に外交力を集中し始めた。そして通常貿易ではなく、国連制裁を無視した軍需品の輸出国に転換することで経済危機からの脱出を試みている。

ロシアからは、大量の弾薬・砲弾や武器を提供する見返りに、衛星打ち上げ技術や、核ミサイル高度化技術及び資金の提供を、中国からは、食料・原油など北朝鮮体制維持のための必需品の提供を受ける狙いだ。

北朝鮮は、今年1-9月、中国からコメ7108万ドル(約106億円)分を輸入し、前年同期(566万ドル)比で13倍増やした。国連安保理の北朝鮮制裁委員会によると、安保理の決議に基づき輸入量が年間50万バレルに制限されている原油も、中国はすでに今年1-4月に78万バレルを北朝鮮に供給したと推定される(中央日報日本語版2023/11/4)。

 

北朝鮮、軍需産業フル稼働体制に突入

欧州と中東の2つの戦争が拡大する中で、金正恩は、これを経済危機突破の絶好のチャンスと捉え、ロシアのプーチン大統領とパレスチナのイスラム組織ハマスへの本格的支援を表明し、軍需産業フル稼働体制に突入した。

2つの戦争で「戦争特需」を迎えた北朝鮮の軍需産業は今、金正恩政権の財政を支える核心軸になりつつある。金正恩が、軍需産業を通じて稼いだ資金は、核・ミサイル挑発に再投資されることになるが、こうした悪の循環はさらに深刻化する見通しだ。

金正恩が今年に入って、すでに江界トラクター総合工場、江界精密機械総合工場などを訪問し、「戦争準備を怠るな」と激を飛ばした。ミサイルを生産する南浦(ナムポ)のテソン機械工場(中長距離ミサイル)、平安南道价川(ピョンアンナムド・ケチョン)の1月18日機械総合工場(ミサイルと戦車部品)なども訪問した。

金正恩は、ロシアのショイグ国防相が北朝鮮を訪問した直後の8月初めにも、軍需工場を直接視察しながら「国防経済」という言葉まで作り出して武器増産を督励している。工場名はなかったが重要軍需工場が密集した慈江道(チャガンド)と平安南道(ピョンアンナムド)地域の可能性が高い。北朝鮮メディアはこれを異例にも公然と公開した。

 

■砲弾生産フル稼働でロシアを支援

韓国軍は北朝鮮が8月から11月初めまで羅津(ナジン)港を通じてロシアに送ったコンテナを2000個ほどとみている。韓国軍関係者は「(コンテナに)122ミリ放射砲弾を積載したと仮定すれば20万発以上、152ミリ砲弾なら100万発以上と判断できる」と明らかにした。韓国情報当局は、北朝鮮がすでに搬出した砲弾約100万発は、ロシアが戦場で2カ月ほど使用可能な量と分析する。

韓国情報当局は北朝鮮が平時に軍需工場を総動員して生産できる砲弾の量を年間200万発ほどと推定している。しかし韓国情報当局が推定する200万発は平時基準にすぎない。韓国の専門家らは、北朝鮮の軍需工場がフル稼働する場合、ロシアに年間数百万発の砲弾を供給できると予想する。消息筋は「兵営国家体制である北朝鮮が能力を総動員する場合には平時と比べ2~3倍の生産が可能だろう」と付け加えた(中央日報日本語版2023/11/4)。

金正恩が対ロシア支援にオールインするならば供給量は数百万発に増える可能性があり、プーチン大統領としては最小数カ月さらに持ちこたえられる在庫を備蓄することになる。戦況に影響を与えるのに十分な量だ。年間数百万発の砲弾生産量をロシアに与えるのは、韓米と対峙し抑止力を維持しなければならない北朝鮮としては大きな決断だ。

これと関連し、ワシントンにある韓米経済研究所(KEI)のトロイ・スタンガロン氏も11月1日に、韓国統一部主催の北朝鮮経済大診断国際フォーラムで「北朝鮮がいかに多くの砲弾を生産できるのか正確なデータは不足しているが、推定値によると北朝鮮がロシアに数百万発に達する砲弾を提供する可能性がある」と懸念した。こうして稼いだ資金を、金正恩はさらなる武器開発に投じるのは明らかだ。

 

■軍需産業のフル稼働は景気浮揚効果もたらす

北朝鮮の武器開発と生産など軍需産業を総括するコントロールタワーは第2経済委員会だが、韓国情報当局は第2経済委員会が160カ所以上の軍需工場を稼動していると判断している。

北朝鮮は、可能なすべての資源を軍需産業に優先動員できるため、利潤追求が目的である西側一般防衛産業企業より、価格・品質などで競争力を確保しやすい。英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)が2015年12月に発表した報告書によると、北朝鮮がコンゴに輸出した107ミリ多連装迫撃砲「B-12」は1台当たり1300ドル、120ミリ多連装自走砲「BM-21」は1台当たり6000ドル前後で取引された。ほぼ同じ時期にウクライナ政府が自国の民間会社から購入したBM-21の1台当たり価格は約3万ドルだった。

米国の北朝鮮専門メディアである38ノースは、先月北朝鮮とロシアが行った武器取引が北朝鮮経済に及ぼす影響を分析した報告書で、輸出用武器生産が続くならば全般的な景気浮揚効果があると予想した。

                              

トップ写真:2023年2月9日、韓国・ソウル駅で朝鮮中央通信社(KCNA)が発表したテレビ番組「北朝鮮建国75周年記念日の軍事パレード」を見る人々

出典:Getty Images/Chung Sung-Jun




この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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