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.国際  投稿日:2024/2/26

「イスラエル・ロビー」とはなにか その8 いまの最大組織とは


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

イスラエル・ロビーで最大の「イスラエルを支持するキリスト教徒連合(CUFI)」。

・CUFIのメンバーにはアメリカ国内のキリスト教福音派の信徒が多い。

・トランプ政権時代に1000万という記録破りの会員を集めた。

 前回はアメリカのイスラエル・ロビーのなかでも、もっとも影響力の強いとみられる「アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)」という組織について報告した。今回は人数のうえで最大とされる組織「イスラエルを支持するキリスト教徒連合(CUFI)」について解説することとしたい。

CUFIは全米の会員が公称1000万人を越えるという。文字どおりのアメリカ国内の広範なキリスト教徒のなかで、イスラエル、つまりユダヤ人国家を支援するという共通の目的の下に集まった信者たちの組織である。キリスト教という宗教が共通項とはいえ、政治や外交での特定の動機が強烈な団体でもある。アメリカの政府や議会にそのための圧力を恒常的にかけているから立派なロビー団体でもある。その背景にはユダヤ教もキリスト教とその根幹をともにするという強い宗教上の連帯の歴史がある。

 CUFIの活動目的は以下のように表明されている。

 「アメリカ合衆国のキリスト教団体としてイスラエルを支援する。イスラエル支援のアメリカ国民の声として全米のキリスト教の教会、宗教組織、個人の集いなどを通じて、イスラエルという国家の安定と繁栄に寄与する。その支援はキリスト教の聖書の教えに従う」。

 以上のようにこのイスラエル支援の組織の基盤はあくまで宗教であることを強調している。

しかし現実にはCUFIはアメリカの政府や議会のイスラエル、さらには中東全体への政策に対して、きわめて政治色の濃い注意を向け、イスラエルに有利な動きを支援し、不利な動きには反対する。宗教を政治の中核に据えたような特殊な組織なのだ。その日ごろの活動ではアメリカの政府や議会に直接の圧力や訴えをかけるから、完全なロビー団体でもある。

 CUFIのメンバーにはアメリカ国内のキリスト教福音派の信徒が多い。福音派はアメリカの政治では保守派を堅固に支援することで知られている。共和党保守派のドナルド・トランプ氏の支援者のなかでも福音派の比率は高い。だからアメリカ側の保守派の意向がこのCUFIを通じてイスラエル支援へと転化していく傾向も強いとされる。

 CUFIは1975年にユダヤ系アメリカ人の宗教学者デビッドA.ルイス氏によってその母体を設立された。その主張に共鳴していた福音派の牧師ジョン・ハギー氏がこの組織を全米的に拡大していった。現在のCUFIの創設は2006年2月、ハギー氏を最高責任者として、と記録されている。

 ハギーは当初はCUFIの本部をテキサス州サンアントニオに置いて、活動を広めていった。その活動の特徴のひとつは全米各地の大学にこのキリスト教に基づくイスラエル支援の活動の組織を広げていったことだった。

CUFIはその後、一般のキリスト教徒に向けても、イスラエル支援を訴え続け、会員を増やしていった。その間、本部を首都ワシントンへ移していた。2017年には正規の会員数が約600万に達したという。ちょうどその年に発足したトランプ政権とも連帯し、2019年にCUFIがワシントンで開いた「イスラエルを讃える夕べ」という行事では、マイク・ペンス副大統領が基調演説をした。そのトランプ政権時代にCUFIはさらに賛同者を増やして、1000万という、それまでの記録破りの会員を集めたわけだ。

ただしこの1000万人という会員の人数にはただし書きが必要である。このCUFIの会員の数え方は多数の大学でのCUFIの活動に加わった学生の総数を含めた事例も多いというからだ。この点、完全なロビー団体である「アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)」とは異なる。AIPACは実際に政府や議会に対してイスラエル支援のための行動をとるアメリカ国民の数を会員数として公表しているのに対して、CUFIは宗教を通じてのイスラエル支援に広い意味で賛同するというアメリカ国民、とくに大学生の数を総計している、といえるからだ。

(その9につづく。その1その2その3その4その5その6その7

トップ写真)共和党大統領候補のマイク・ペンス元副大統領(当時)に、2023年大統領選挙期間中、CUFI創設者で全国会長の福音派牧師ジョン・ハギー氏から「イスラエル擁護者」賞が授与される。 2023年7月17日 バージニア州アーリントン 出典)Anna Moneymaker/Getty Images  




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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