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.国際  投稿日:2024/2/27

「イスラエル・ロビー」とはなにか その9 多種多様な組織


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・イスラエル・ロビーの各組織、共和党寄り・民主党寄りの区別が明確。

・民主党に近く、ネタニヤフ政権よりリベラルな政治勢力を支援する組織、J・ストリート」。

・イスラエルとパレスチナの紛争では2国併存の解決案を支持している。

 

アメリカ国内のイスラエル支持勢力の特徴のひとつは、これまでも指摘してきたように、多様性である。アメリカ側に身をおいて、そのアメリカ合衆国のイスラエル支援を求めるというイスラエル・ロビーの内部も政治的な多様性が顕著だといえる。もっともわかりやすい区分は保守かリベラルか、共和党系か民主党系か、である。

イスラエルを支援するといっても、その根幹がアメリカの保守の政策を代弁するのか、あるいはリベラルの政策に寄り沿うのか、で主張は違ってくる。民主党政権と共和党政権とでは、当然ながら、そのイスラエル政策、中東政策は異なる。基本的にイスラエルという国家の存続をあくまで支えるという路線は両党派に共通だとはいえ、そのとき、そのときの実際のイスラエル支援の中身となると、濃淡や比重は異なってくる。民主主義国家のアメリカの対外政策では自明な特徴だといえよう。

2020年のアメリカ大統領選挙ではユダヤ系有権者の約70%が民主党のバイデン候補に投票し、約25%が共和党のトランプ候補に投票したという記録が存在する。だがこの党派別の志向は連邦議会の上下両院議員の選挙になると、もっと錯綜した形となる。つまり共和党候補に投票するユダヤ系有権者の比率も高くなるというわけだ。しかしイスラエル・ロビーの各組織の間でも、共和党寄り、民主党寄りの区別がかなり明確なのである。

一方、イスラエルも政治的多様性に拠って立つ民主主義国家である。自国の存続と繁栄という基本目標はみな共通していても、複数の政党により、その政策や手法は異なる。この点ではアメリカよりも、イスラエルの方が政治状況はもっと複雑なのである。

イスラエルの政党もクネセトと呼ばれる国会(立法府)の議席120の過半数を占める単独政党はまずなくて、10数の政党が競い合う。どの政党も単独で政権をとれないために、連立政権というのが通常の状態となる。

現在のベンヤミン・ネタニヤフ首相保守派政党の「リクード」を率いるが、この政党は2022年11月のクネセト総選挙で第1党となったとはいえ、獲得議席は32議席で他の保守傾向や宗教、右派の他政党との連立を組まねばならなかった。「宗教シオニズム」や「ユダヤの力」という名の右派とされる複数の政党との連立だった。その結果、ネタニヤフ政権は右派連合としていまのクネセトでは過半数の64議席を保持している。

このイスラエルの政治状況に対して、アメリカ側のイスラエル・ロビーではすでに紹介した最有力組織の「アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)」はこのネタニヤフ政権に近く、政党でも「リクード」の政策を支持することが多かった。ネタニヤフ政権はパレスチナ政策などではイスラエル内部でも強硬派とされる。

これに対してアメリカ側では民主党に近く、イスラエルに対してはネタニヤフ政権よりもリベラル、ソフトな政治勢力を支援する組織が存在することも強調しておこう。アメリカとイスラエルと、二つの民主主義国家の関係では当然、起きる現象だともいえる。

アメリカ側のこの組織は「J・ストリート」と呼ばれる。2007年にワシントンで設立された。

創設者は民主党クリントン政権の大統領顧問をも勤めたユダヤ系政治活動家のジェレミー・べンアミ氏だったが、その背後にはジョージ・ソロス氏など民主党系リベラル派の富豪や活動家が多数、支援層として存在していた。

「J・ストリート」はロビー団体であると同時に、政治活動委員会(PAC)や教育基金をも併存し、多角的な政治活動を目指したが、その目的はイスラエル支援が根幹だった。実際のその活動については自ら以下のような声明を発表していた。

「アメリカの中東での国益の推進とイスラエルの真の平和と安全確保のための新しい方向を目指す。親イスラエル、平和志向の路線によりイスラエルをユダヤ人にとって安全で民主主義的な国家として保つ。そのためにはイスラエルとパレスチナの紛争では2国併存の解決案を支持する」。

この2国併存の解決案というのはパレスチナ人にもイスラエルと対等な主権国家の地位を与えるという案だが、当のイスラエルのネタニヤフ政権などは条件をつけて、反対する。アメリカ側でも保守派には留保がある。だから「J・ストリート」の推奨する対イスラエル政策はアメリカ側内部でも反対される。つまりこの組織全体がアメリカの民主党リベラル派の牙城なのだ。

ちなみにこの組織の名称「J・ストリート」というのは首都ワシントンの街路名に由来している。

ワシントンでは主要街路の名前の多くをアルファベットのABCからとっている。しかしそのすべてを使うことはできず、「I・ストリート」や「K・ストリート」は実在するが、「J・ストリート」は存在しない。このイスラエル・ロビーの「J・ストリート」はその点を利用して、同時に「J」は英語のユダヤ人を意味するJewの頭文字であることをも織り込んで、この命名になったのだという。

(その10につづく。その1その2その3その4その5その6その7, その8

 

トップ写真) ワシントン コンベンション センターで開催された第 4 回全国 J ストリート会議で演説するバイデン副大統領(当時) 2013 年 9 月 30 日、ワシントン DC 出典)Ron Sachs-Pool/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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