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.国際  投稿日:2024/3/14

トランプ陣営の対日政策文書とは その8(最終回) 中国の新たな日本への恐怖


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・日本の軍事・外交の役割増大は、アメリカ第一外交政策の核心の要素を強化する。

・日米台は合同の軍事司令部を設置し、合同軍事演習を堂々と実施すべき。

・日本は自国防衛のために戦うようになった、という現実を中国は認識するようになった。

 

アメリカ第一政策研究所(AFPI)の対日政策文書の全文紹介を続ける。今回が最終回となる。 

★  ★  ★  ★  ★

★結論

日本は過去75年以上も経済的な成功と民主主義的な責任保持の模範ともいえる国家だった。そしていまやその日本の軍事や外交での役割増大の継続はアメリカ側のアメリカ第一外交政策の核心の要素を強化する。その日本の役割が中国共産党政権に対するアメリカ主導の有志連合の力を強め、近代化を促進するからである。

これまでの過去に一部で存在した日本の帝国主義の復活への恐怖というのは、根拠がないことが判明した。むしろ1930年代の日本の軍事力拡大にいまもっとも似ているのは中国共産党の現在の攻撃的な膨張である。その中国の動きはまさに21世紀版の北京中心の「大東亜共栄圏」を構築しようという目標を追求しているのだ。

日本がその軍事支出をGDPの2%へと増加させるにつれて、アメリカは日本の航空、ミサイル、海洋、海上攻撃の資産や能力の発展のための供与援助をすべきである。そしてアメリカ、日本、台湾の生存にかかわる第一列島線を守るためのその三者から成る合同の軍事司令部を設置すべきだ。アメリカと日本は台湾との合同軍事演習を堂々と実施して、台湾の部隊を訓練し、国際的な舞台での台湾の活動を支援し、台湾への外交承認を増加させることに努めるべきである。

独自の核兵器保有は日本政府にとっては、まだ遠すぎる橋かもしれない。もしそうであっても、日本はアメリカの核兵器の日本領土への配備に同意することはできる。この点はアメリカ側の希望だといえる。その種の核配備は安倍晋三首相がすでに検討を提案した政策であり、NATOの西欧諸国はすでに実施しているのだ。

日本政府は少なくとも日本周辺の海域で核弾頭装備の巡航ミサイルを搭載したアメリカ軍の水上艦や潜水艦が航行することを認めることが期待される。ただしアメリカ側ではこの種の海洋艦艇への核兵器搭載は1991年に自主的に中止したままとなっている。だがその再開の可能性があり、その場合は日本の領海や港湾に米軍の核装備の艦艇が航行、あるいは寄港することが望まれるわけだ。

日本はまた現在の中国やロシアに対する模範的に強固な批判の言明を継続すべきである。日本は同時に実質的な効果を発揮できる、信頼できる抑止力をさらに成長させるべきだ。

日本の安全保障面でのこうした改革の中心となるのは、やはり日本の憲法9条の破棄による日本の消極平和主義からの離脱を成文化することである。この趣旨の憲法改正は意外と早く起きるかもしれない。安倍氏の暗殺後すぐの2022年7月の総選挙ではその安倍氏が率いていた自民党が決定的な勝利を得た。この結果は遅くとも2025年までに予測される次回の総選挙までの政治的安定を保ち、日本の軍事力保持を具体的に認めるための憲法改正への強力な機会をもたらすだろう。

中国政府の最重要の英語プロパガンダの宣伝紙、グローバル・タイムズ(環球時報)は、「日本の平和主義的な憲法の修正への障害は基本的には取り除かれた。アメリカが日本に対してより大胆に行動できることへの許可を与えたからだ。アメリカは日本が地政学的な暴漢の役割を果たすことを欲しているのだ」と、最近、論評した。

このグローバル・タイムズの日本に対する特徴づけは陳腐ではあるが、中国共産党がアメリカと日本の運命が強く一つに結ばれるようになったと断じる点は正しいといえる。日本の地理的な中国への近隣性とアジア地域のアメリカ側同盟国、有志国のなかでの日本の軍事面での比較的な強さを考えると、中国共産党政権の最近の日本非難の新たな始まりでの疑問は、「日本がまずどんな行動をとり、アメリカがそれにどう従うか」ということになろう。従来は「アメリカはまずどんな行動をとり、日本はそれにどう従うか」というのが中国側の疑問だったといえる。それが最近の日本の変化になり、逆の順序となったのだろう。

この点、安倍晋三首相がかつて述べた「いかなる国も自国を防衛しようとしない国とともに戦うことはしない」という言葉は重要である。日本はもう自国を防衛するためには戦うようになった、ということであり、その現実を中国がいちはやく認識するようになった、ということだろう。

(終わり。その1その2その3その4その5その6その7

トップ写真:台湾の高雄冲で軍事訓練を行う台湾のミサイル艇2隻。NATOのストルテンベルグ事務総長は29日「きょうのウクライナは、明日の台湾」と述べた。(2024年1月31日 台湾・高雄冲)出典:Photo by Annabelle Chih/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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