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.経済  投稿日:2014/7/25

[神津多可思]<ばらつく日米欧の金融政策>今秋には日本の方向が見えるか!?


神津多可思(リコー経済社会研究所 主席研究員)

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6月、欧州中央銀行(ECB)は、0.25%とほぼ下限にあった政策金利を限界的にさらに0.15%に引き下げ過去最低水準とするとともに、民間銀行から資金を預かる際の一部の金利をマイナスとした。

これまで日米欧の中央銀行は「非伝統的金融政策」で足並みをそろえてきた。それは、通常の金融政策で使う政策金利を事実上ゼロにしてもなお経済刺激効果が不足している場合、それ以上のやり方でさらに金融緩和を進めるというものだ。

その際に中央銀行にできることは限られている。政策金利を限界的に下げても効果が薄い状況なのであるから、残る手段はバランスシートを拡大することだ。世界的な金融危機の後、日米欧の中央銀行は、事実上のゼロ金利の下でこぞってバランスシートを大きく拡大してきた。

しかし、ここへ来て状況はばらついている。米国では、経済が好調に転じ、今年中にも市中金融機関から債券などを買い入れるのを止め、中央銀行のバランスシート拡大をほぼ停止させる。来年には政策金利を操作する金融政策に復帰する展望がひらけてきた。一方、日本では、なおデフレからの脱却が定着していないとの判断の下、異次元緩和が続けられており、日銀はまだバランスシートを拡大させていく予定だ。

欧州では、低成長下でインフレ率も下がっており、もう一段の金融緩和が必要とされている。そこでECBは、先般、中央銀行のバランスシート拡大という観点からすればまったく逆効果のマイナス金利の導入という新しい政策に踏み切った。マイナス金利とは、中央銀行に資金を預ければ管理料を取られるということなので、金融機関はなるべくそうしないよう努力する。その結果、中央銀行のバランスシートは拡大しにくくなるのである。

そもそも中央銀行がバランスシートを拡大させるのは、それを通じて政策金利以外のさまざまな金利を押し下げ、経済の需要を刺激することを重視するからだ。「期待」に働きかけるということもよく言われるが、それも名目金利を低いままにして、インフレ期待だけを引き上げ、実質金利の引き下げを狙うもので、最終的には金利低下による需要刺激に力点を置いたものと言える。

これに対しマイナス金利は、短期金利そのものを下げる効果をより重視していると考えることができる。一般に、為替レートは短期金利差に反応し、短期金利が低下すればその通貨は安くなる。今回ECBがマイナス金利を導入した際も、ユーロ高の是正が意図され、実際に一定の効果があった。

非伝統的金融政策については、その波及経路、効果等を巡ってなお色々な議論がある。米国は、とにもかくにもそれからの離脱に向けた準備に入ったので、そうした議論の意味合いは次第に薄れていくだろう。しかし日欧では、なお当分の間、非伝統的金融政策が続くため、波及経路や効果の評価は引き続き重要だ。

日本では、長期金利は歴史的な低水準にあり、相対的に信用度の低い企業・個人の資金調達コストも低下してきた。言い換えれば、金利を通じた需要喚起の効果はもはや相当小さいということである。

つまり、日銀の異次元緩和の推進がさらに需要を刺激することが期待されるというより、極めて緩和された金融環境の中で、企業・個人の経済活動が元気になるのをじっと待っていると言ったほうが正確かもしれない。

日本経済は、今年4月の消費税引き上げを何とか乗り越えつつあるようだ。ここから真の活性化に向かうかどうか。今はその分水嶺にあり、この秋頃には方向性がよりはっきりしてくるだろう。その段階で、来年10月に予定されている消費税再引き上げをどうするか、最終決定することになる。

この秋の段階で経済状況がどうなっているかが、日本の非伝統的金融政策が米国の後を追うことができるかどうかを決める。ここをうまく乗り切れるかどうかは、企業部門のアクションにかかっている。

 

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