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.社会  投稿日:2014/9/9

[為末大]【死と生と幸福感と】


為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)

執筆記事プロフィールWebsite

今、ブータンに来ている。ツアーオブドラゴンという自転車レースの見学と、それからこちらのスポーツ組織と何か一緒にできないかと思って打ち合わせを兼ねてやってきた。今海外からの資本も入って来て、少しずつ経済成長しているステージなのだという。

幸せの国と言われていて、確かに特に農村部には笑顔が多いのだけれど、当然問題もたくさんある。特に大変だと感じたのは医療。医療が発展していないし、病院も点在していないから、病気になったら年齢によってはそのまま死んでしまうこともあるそうだ。

この前にはネパールにいた。ネパールでは寺院の中に病院と呼ばれる場所がある。その病院の役割はある程度の年齢になった高齢者が死を待つというところになっている。病院の目の前に川があり、大きめの焚き木が幾つかあったので何かと聞いてみると、遺体を焼いているのだという。 

ブータンの平均寿命は64歳あたりだそうで、日本は80歳以上生きるんでしょう素晴らしいですね、と言われた。でも、人生の終盤は家から離れて病院とか違う施設に入るんですと言うとかなり衝撃を受けていた。

僕が話をきいた限りではブータンの人はやや快楽主義で宗教の戒律を疑わない。のみたい酒を飲み、食べたいものを食べ、その教えが正しいのかどうかなんて疑いもせず、そして死んでいく。私達の社会では敗者と呼ばれ、思考停止と言われるかもしれない。そしてこの国には笑顔が多い。

日本では死ぬことは良くないことだというのを前提に、医療も、様々な社会システムも発展している。生きていることは最も善いことであると信じて人は長生きをする。私達は意味を考え、死を恐れ、何者かになる為に努力しながら生きていく。そして幸せは未来にはなくいまここにしかない。

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