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.政治  投稿日:2016/7/28

都知事選候補者政策評価 小池百合子候補 東京都長期ビジョンを読み解く!【特別編】


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

「西村健の地方自治ウォッチング」

特別編、今回は小池百合子候補。

政党を渡り歩き、環境大臣、防衛大臣などを歴任した女性政治家の旗手。幅広い知識、議論での切り返し、住民の心をつかむセンス、度胸が評判のお方で、改革が叫ばれなくなったこの時期に「東京大改革」を打ち出した。お手並み拝見といこう。

1 公約

 

2 特徴

都政の透明化、五輪関連予算・運営の適正化、行財政改革の推進などを宣言。この連載で私が言ってきたこと(半ば諦めながらも:笑)を宣言してくださっているが、舛添前知事、猪瀬元知事、そもそも石原元知事からの「宿題」に対して、世論をバックにやっと手をつけることが許される状況になっただけだともいえる。

小池氏は、セーフ・シティ、タイバー・シティ、スマート・シティの3つのシティを目指すそうだ。時代の風を読んだ言葉遣い。「センスいいでしょ」的な匂いを言外から感じてしまうのは、厳しすぎるか。

DiversityはDiver cityではないですから!残念!とお笑い芸人の波田陽区さんばりの口調で言いたくなる。まさか、お台場の「ダイバーシティ東京」にひっかけてる?そこは勘ぐりすぎか。

東京の森林を守り、若者等の就業の場とすること、「ペット殺処分ゼロ」、都立高校跡地を韓国人学校に貸与する前知事の方針は白紙撤回することなど先進事例や都民の関心のある話題をピックアップしてきているところはクールビズを実現させただけあって、時代を見るに敏感である。

「待機児童ゼロ」を目標に保育所の受け入れ年齢、広さ制限などの規制を見直すこと、「満員電車をゼロへ。時差出勤、2階建通勤電車の導入促進」など誰も手をつけなかった(諦めていた)ことを問題提起するなど、都民の心をつかむセンスには脱帽だ。

「都道の電柱ゼロ化、技術開発を支援する」にしても、自民党無電柱化小委員会の委員長として日本全国の無電柱化を推進してきたと勘ぐりたくなるが、東京都無電柱化推進計画で明らかなように、海外各都市と比較して低い水準であること、震災時の避難や救急活動に支障が生じることから見ても有効な施策だろう。

「残業ゼロ」などライフ・ワーク・バランスの実現を、都庁が先行実施する」という点も素晴らしい。行政が行う啓発活動はたくさんあるが、「自分が実践できてから言って欲しい」と心で思っている企業経営者の気持ちをつかめるだろう。

東京都職員ワーク・ライフ・バランス推進プランによると超過勤務「1人当たり月平均」は平成26年度で13.1時間。民間の15.7時間よりは少ないがそれなりの残業をしている。残業代がどれくらいかは明確にわからなかったが、残業時間ゼロにすることで、相当の効果(コストカット)が可能になるだろう。

それでは疑問点に入ろう。

 

3 疑問点

(1)町会・消防団の機能を高め、支援する。

町会・自治会が機能しなくなっていることが問題ではないのか?支援する方法自体が時代にあっていないのでは?

町会・自治会の加入率は2013年で54%程度、2003年の61%から大幅に下落している(東京の自治のあり方研究会最終報告)。しかも町会・自治会の役員の平均年齢の高齢化が進む。

機能を高める前に、今後の存在意義はどういったものがあるのか、今後どう変化させていくべきなのか、つまり新しい自治のあり形について都民の合意や議論があって初めて支援を考える段階ではないのか。

消防団にしてもそもそもの在り方の議論からだと思われる。

 

(2)多摩格差をゼロへ

「多摩格差」とは初めて聞いたが(三多摩格差ではなく)、定義はどういったものか?様々な指標があるがどの項目を考慮するとそうなるのか?

「多摩格差」を検索エンジン(google)で調べても厳密な定義は見つからない。ぼんやりとした定義だが、区部と比べるとインフラの整備や住民サービスが遅れていることのようだ。

それでは、都議会の検索サービスで「多摩格差」で検索してみよう、そうすると以下のようなやりとりが見つかった。

平成二十年三月十四日(金曜日)総務委員会

(議事録より)

〇松本多摩島しょ振興担当部長 格差問題の代表的存在でございます多摩格差八課題は、これまで都と市町村と協力して積極的に取り組んできた結果、現在ではかなりの部分で解消してきているというふうに考えてございます。したがって、多摩地域のまちづくりにつきましては、区部との対比による格差の解消という観点にとらわれるのではなく、それぞれの地域の実情や特性を生かす取り組みが重要というふうに考えてございます。

〇松村委員 多摩格差の代表的な八課題はかなり解消しているということは、私も当然認識しております。水道事業等、そういう時代の要請を受けて解消ということは当然でありますけれども、その中でも保健所事業などはやっぱり差があるということは、これまでも我が党からは指摘してきましたけれども、我が党はこれまでも、新たな多摩の課題があると。今の八課題も、これは美濃部知事時代の革新都政のときにいわれた八課題なんですね。しかし、そういう解消は確かにされてきたけれども、新たな多摩のやはり格差というものが起きていると。我が党はこれまでにも、NICU、乳幼児医療費無料化とか中学生の完全給食、児童館など、二十三区と比べて明らかに立ちおくれていることを指摘しました。

とのやりとりとなっている。あれ、解消している?

23区内にも格差はあるし、自治体格差は言いだせばきりがない。それは自治体の置かれた歴史的な文脈、地形・地理、産業構造、行政経営の取り組みなどいろいろな要素が影響するので、一概に悪いとも言えない。

都民においてどの政策・施策が格差が広がるとまずいのか、基礎となるベースはどこにあるのか、都民が許容できる範囲はどのくらいか、格差が広がると何が問題か、そして現状どうなっているのかを明らかにしてもらわないと単なる雲をつかむ話になってしまう。

 

(3)ヒートアイランド対策の強化

本気ですか?ヒートアイランド対策の強化として高層ビル建設の規制は考えないのか?

環境省はヒートアイランド現象の主な要因は、第一に、地表面被覆の人工化(緑地の減少と舗装や建物などによる人工的被覆面の拡大)、第二に、都市形態の高密度化(密集した建物による風通しの阻害や天空率の低下)、第三に、人工排熱の増加(建物や工場、自動車などの排熱の増加)と言っている。

特に、「中高層の建物が増加して高密度化すると、風向きによっては地上近くの風が弱まり、熱の拡散や換気力を低下させる可能性があります。また、高密度化した都市内では、天空率が小さく、夜間の放射冷却が阻害されるために、熱が溜まりやすくなります」(環境省資料)

天空率とは、簡単に言ってしまえば、ある地点からどれだけ天空が見えるかを示した割合で、0%がビルによって天空が塞がれた状態のこと。

汐留のビルが開発された時に、海からの風が通る道を遮断していると専門家が言っていたこともあったが、高層化が一層進むとヒートアイランド現象がさらに進む可能性は高い。

利害関係があるから誰も言わないから私が言っておく。高層ビル開発をどうするかを明言しないヒートアイランド対策は抜本的な対策には繋がらない。環境大臣も務められた方にその点深くお聞きしたいものだ。

 

4 評価

評価結果とその理由は以下になる(☆は1〜3で評価︎)。

 

問題意識                  ☆☆☆   【理由】︎改革の必要性が伝わる。

政策としての基礎条件 ☆☆    【理由】東京都の影響力の及ぼせる範囲で検討した感がある。

政策の具体性            ☆☆☆   【理由】具体的な内容が多く、明確。

政策の網羅性            ☆☆☆    【理由】先進事例を踏まえつつ、全体的に網羅されている。

実行可能性               ︎☆☆   【理由】先進事例など既に行われているものを入れていて可能性が高いものもあるが、一方、夢みたいな話もある。

 

上記あくまで私の意見ですのでご参考に。繰り返しますが、特定個人を応援する目的で記載していませんので悪しからず。

 *トップ写真:©西村健

 


この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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