.国際  投稿日:2018/5/11

「いずも」級軽空母は南沙・海南島攻撃に使われる

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文谷数重(軍事専門誌ライター)

 

【まとめ】

いずも」級軽空母、最新機F-35B搭載を計画。

求められる役割は中国海軍との再均衡の追求。

軽空母は制海権獲得ではなく、南沙・海南島等への空襲に用いる。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapanIn-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=39988でお読み下さい。】

 

日本は軽空母をどのように利用するのだろうか?

 

自衛隊は「いずも」級を計画している。垂直に離着陸もできる最新機F-35Bを搭載する。それで軽空母として利用する。これは10年以上前から決まっていた話だ。船体サイズ、エレベータや甲板開口部、格納庫天井高といった寸法や耐荷重は当初からF-35B対応とされていた。

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図)筆者作成

 

だが、実用性について疑問が寄せる意見も多い。「搭載機数10余機では力不足である。」「それでは沖縄方面での対中戦には非力で向かない。」そういった主張だ。だが、それは誤った判断だ。疑問は軽空母に求められる役割、あるいは有り得べき使い方と合致していない。

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写真)F35B

flickr :  Airwolfhound

 

■ 求められる役割は中国海軍力とのバランシング

 

まず、最初に挙げる誤りは軽空母をドンパチの武器と考えている点だ。これは空母整備の目的、利益への不理解を示している。

 

今日、日本が軽空母戦力を整備しようとする理由は何だろうか?中国海軍とのバランシング、再均衡追求である。日本は海軍力での劣勢に陥りつつある。中国に対し艦隊戦力で既に数的劣勢に陥っている。その上、中華航母登場により質的戦力でも劣位に陥ろうとしている。

 

軽空母整備はその改善を目的としている。中国は空母保有により対日有利を獲得しつつある。それを覆し、従来のような相対的劣勢に留まらぬため、日本も空母を持たなければならない。だから艦載戦闘機を運用できる軽空母が求められている。

 

あるいは、その海軍力劣位がもたらす不安感の払拭である。中国が空母を保有した。それにより日本国民が海軍力での劣位に不安を感じている。それを解決するには日本も空母を保有すればよい。そういった発想だ。

 

これらの目的であれば空母戦力の威力不足は問題とはならない。中華航母と同様に艦上戦闘機を運用できればそれで構わない。その点からすれば「軽空母は非力」とする批判は当たらないのである。

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写真)中華航母遼寧 遼寧そのものが米国とのバランシングの為の道具

photo by Baycrest

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写真)大連に回航されたヴァリャーグ(遼寧)(2004年米海軍大学レポートより)
photo by Original uploader was N328KF at en.Wikipedia

 

■ 制海権獲得には利用されない

 

また、戦時運用の見通しも誤っている。

 

これは政府説明を鵜呑みした結果だ。軽空母入手の題目として挙げた海上優勢獲得、離島防衛をそのまま信じた誤りである。

 

実際には軽空母は東シナ海での制海権・制空権獲得に投入されない。戦時には琉球列島西側は中国海空軍が優勢となる。そこへの投入は危険である。さらに中国沿岸の中国航空基地には全く近づけない。

 

本当の使い方は中国艦隊の妨害だ。普段は琉球列島の太平洋側で待機する。そして中国艦隊が琉球列島に接近してきた時にぶつける。その構えをとれば中国側は艦隊を出しにくくなる。沖縄周辺の制海権を中国に渡さないで済む。これは「フリート・イン・ビーイング」と呼ばれる戦略だ。

 

あるいは中国艦隊出現時のカウンター・アタックだ。中国海軍が沖縄所在部隊と戦っている間、あるいは中国上陸船団が離島にとりついた瞬間を狙い、軽空母で襲うのだ。

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写真)ミッドウェー海戦で空母によるカウンターアタックの例

日本艦隊がミッドウェー島につきっきりになっているときにアメリカは空母で襲った。

photo by  U.S.Navy

 

それなら「いずも」級は強力な武器だ。「いずも」級は1隻あたり10機以上のF-35Bを搭載し、近距離発進で連続攻撃できる。疲弊した艦隊にとって健全な「いずも」級は厄介な相手となるからだ。中国側は「絶対に勝てる」戦力を整えない限り決戦は挑めない。

 

この点でも「軽空母は力不足」は誤っているのである。

 

■ 軽空母は南沙・海南島攻撃に用いる

 

実際には、戦時にはより戦略的に扱われるだろう。例えば南沙・海南島等への空襲である。

 

日本にとって対中決戦は厳しい。海軍力・空軍力では中国が比較優勢である。互いの全戦力を投入した決戦では日本が負ける可能性も高い。決戦は避けなければならない。日中熱戦の状況であれば、沖縄付近の制海権を賭けた艦隊決戦を回避しなければならない。

 

では、どうすればよいか?

 

中国の海空軍力に分散を強要することだ。それで対日正面への戦力集中を不可能にするのだ。

 

例えば潜水艦や仮装巡洋艦をインド洋等に送り込み、中国に不安を与える。中国軍艦を沈め、中国向け商船を臨検し、中国租借の軍港を襲う。簡易な巡航ミサイル(これは国産対艦ミサイルを改造すれば作れる)を入手しミャンマー上空経由で昆明を攻撃する。

 

そうすれば中国海空軍は東シナ海に集中できない。海軍はインド洋に力を削がれ、空軍も雲南省防空やミャンマー展開をしなければならなくなる。

 

これは「ゲール・デ・クルース」、巡洋艦戦略と呼ばれる戦略である。

 

この観点からすれば「いずも」級軽空母の使い方も変わる。フィリピン東廻りでの海南島空襲や、南沙空襲と岩礁の一時的占領に使われるだろう。それをすることにより中国海軍・空軍の東シナ海集結を妨害できるからだ。

 

この使い方なら軽空母は力不足ではない。1隻あたり10機余のF-35Bで十分である。1942年のドーリトル空襲はたった16機で行われ、さほどの直接的戦果はなかった。だが、それでも日本海軍に無謀無意味なミッドウェー作戦を強要できた。それと同じである。

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写真)ドーリトル空襲

photo by U.S. Navy (photo 80-G-41196)

 

トップ写真)DDH-183 いずも

出典)海上自衛隊

 

 

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この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター

1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。

文谷数重

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