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.国際  投稿日:2019/2/27

専制政治家ご用達ロビイスト マナフォート氏の深い闇  トランプ政権「行く人来る人」列伝2


大原ケイ(英語版権エージェント)

「アメリカ本音通信」

【まとめ】

・マナフォート氏は諸外国・独裁者御用達のロビイストだった。

・恩赦受けたいマナフォート氏、トランプ大統領は彼に親近感も恩義も感じていない。

・ロシア政府とトランプ政権の癒着秘匿の為に、20年の刑期を受け入れるか?

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=44369でお読み下さい。】

 

ポール・マナフォート(元選挙対策本部長)

 ロシア政府との癒着度:★★★★★

 ドナルド・トランプとの親密度:

 任務に対して有能か:★★★

 任期を全うできそうか:逮捕・一部有罪判決、刑期待ち、和解交渉中

 

ドナルド・トランプの大統領選挙戦がピークを迎え、2016年7月中旬に開催される共和党大会を目前に、マスコミの女性や反対運動の参加者に対する暴力行為が元で、クビになったコーリー・ルワンドウスキー選挙対策委員長の後釜として急きょ決まった人物であるポール・マナフォートという名に聞き覚えがある人は少なかったろう。

 

マナフォートは70年代に選挙対策顧問として共和党の選挙活動に関わったものの、その後はウクライナの・ヴィクトル・ヤヌコーヴィチ、フィリピンのフェルディナンド・マルコス、コンゴのモブテゥ・セコといった独裁者ご用達のロビイストとして、国外における彼らのイメージ向上に努める仕事をしており、アメリカの政治とはほとんど無関係だったからだ。

▲写真 ヴィクトル・ヤヌコーヴィチ ウクライナ元大統領(左)と天野之弥IAEA事務局長 出典:Flickr; IAEA Imagebank

 

▲写真 フェルディナンド・マルコス フィリピン元大統領 出典:U.S. National Archives

 

2014年のクリミア危機とウクライナ騒乱によって亡命を迫られたヤヌコーヴィチ大統領がウクライナ国民の税金で建てた瀟洒な私邸に残された元帳にマナフォートへの多額の支払いが記されていたことに明るみに出たことから、20168月中旬、マナフォートはトランプ陣営に辞職を願い出た

 

選挙対策委員長という重要な地位に取り立てたものの、当時トランプはマナフォートと全く面識はなかった。マナフォートを推薦したのは、トランプの長年の友人で、不動産投資家であるトム・バラックという人物。彼のためにスーパーPACという献金団体を立ち上げ、2300万ドルを集めたとされている。さらに、マナフォートが選挙対策委員長を務めるのに給料は要らないといったことも、トランプが彼を雇う理由のひとつだったろう。

 

現在、ロシア政権による大統領選挙への妨害行為を捜査しているロバート・マラー特別検察官が焦点を当てている2016年6月9日の「トランプタワー会議」にマナフォートも出席していたことがわかっている。表向きはアメリカ人がロシア人孤児を養子に取りやすくする政策のための会合だとトランプ自らが言い訳しているが、おそらくこの場で話し合われたのは、オバマ政権時代にロシアに対する制裁を強化したマグニツキー法をトランプ政権誕生後にいかに緩和するか、ということだったという見方が強い。

▲写真 ロバート・マラー特別検察官 出典:FBI

 

結局マナフォートは、マラー特別検察官による調査結果に基づき、20171030日にFBIによって逮捕された。罪状は脱税、マネーロンダリング、銀行詐欺、違法なロビイスト活動、陰謀罪、偽証罪など多岐に渡り、主に金に関する罪状はマナフォートが居住するバージニア州で、残りの違法なロビイスト活動に関する罪状は首都ワシントンの法廷で別々に裁判をすることになった。

 

マナフォートはすべての罪状に対し無罪を主張したが、バージニアの初審で有罪判決を受けた。一方で、昨年9月に始まる予定だった2つ目の裁判を目前に、マナフォートはマラー特別捜査官の調査に協力することを条件に和解しようとしたが、それでもなおマナフォートは検察側に対して全ての事実を自白することなく偽証を繰り返したので、来月早々審判が下される刑期についても情状酌量の余地なし、というのが特別捜査官側からの判断だ。これはおそらく彼の胸中では、なるべくドナルド・トランプに不利なことは証言せずにやりすごし、有罪判決を恩赦してもらおうという魂胆があったからだろう。

 

だが、トランプはこれまでマナフォートを「気丈な男だ」と誉めこそすれ、恩赦するつもりだと明言していないし、既にマラー特別捜査官の調査に全面的に協力して無罪となった元外交アドバイザー、マイケル・フリンに対して見せたような同情的な態度もない。トランプは、自分と違って洗練されたヨーロッパの紳士、というイメージのマナフォートに親近感も恩義も感じていないのである。ちなみにバージニアの自宅がFBIによって強制捜査された時、1万5000ドルもするダチョウ皮やヘビ皮のジャケットが晒され、マナフォートの贅沢ぶりが露見している。

▲写真 マイケル・フリン氏 出典:Wikipedia; Defense Intelligence Agency website

 

トランプによる恩赦がなければ、バージニア州で有罪になった分だけでも禁術中に20年近い刑期が下りると推測されている。来月70歳の誕生日を迎える贅沢好きのマナフォートにとって獄中死は耐え難いことだろう。さらにマナフォートによって不利なことに、ニューヨークのマンハッタン地方検察局も彼を起訴すべく、調査を進めていることがわかった。大統領の恩赦は連邦政府の罪状にのみ有効であり、そこで無罪になったとしても、恩赦はニューヨーク州地方裁判所での罪状に対し何の効果もない。

 

それにもかかわらず、マナフォートがマラー捜査官の調査に全面協力していない理由は何か? 常識的に考えれば、これまで証言してきたよりさらに根深いロシア政府とトランプ政権との癒着を秘匿しているから、という以外にあるだろうか?

トップ写真:ポール・マナフォート氏とその弁護団 出典 Flickr; Victoria Pickering


この記事を書いた人
大原ケイ英語版権エージェント

日本の著書を欧米に売り込むべく孤軍奮闘する英語版権エージェント。ニューヨーク大学の学生だった時はタブロイド新聞の見出しを書くコピーライターを目指していた。

大原ケイ

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