[為末大]<最初に目につくのはあなたの悪評>表現の自由と誹謗中傷と真実と嘘の間
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
表現の自由という言葉は聞こえはいいけれど、実は考えてみると大変に難しい。例えば表現をする事で損をする 人々が出る場合、それをどの程度許容すべきか。また、どの程度根拠がある事までが表現として許されるのか。
誰も傷つかないような表現は社会問題においてはあまり意味をなさない事が多い。例えば国立競技場について賛成と言えば困る人がいて反対と言っても困る人もいる。原発もそう。何かの立場を取れば困る人や怒る人が必ず いる。
厄介な事に真実なんてものは大体無いか証明できない。僕は真実を書いていると思っていながらそれは主観である事が多い。もしくはどうせ主観に過ぎないと言いながら全く根拠のない事を書く。誰が見ても納得する真実はほぼあり得ない。
例えば一般人の悪評がネットで広がる。いい噂があったとしても量が足りないから、結果として悪評がネットに残る。就職しようと思ったとき、その情報を見られる。取引先が名前で検索すればそれが出てくる。もう真実が何かなんて関係がない。ただ外から見れば最初に目につくのはあなたの悪評。
著名投資家のジョージ・ソロスが再帰性理論を語った。問題さえ無ければ風評被害には影響されないという事は間違いだと思う。問題が無くても取り付け騒ぎで銀行は潰れる。噂によって信用が傷つき傷ついた信用によって何かが破綻する。原因は噂に過ぎないけれど現実がそれによって変わる。
表現の自由は影響が小さければ問題ないとする意見が多い。「僕の影響力なんてたいした事ないから」そう思う個人の集団の力は大きい。責任が分散されて主体が、名前が見えない時、自由は暴力性を帯びる。
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