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.国際  投稿日:2017/3/14

オランダと対立のトルコ 消えたEU加盟


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2017#11(2017年3月13-19日)

 

【まとめ】

・オランダとトルコの外交論争激化、EU加盟遠のく

・14日、独米首脳会談の行方に注目

・トランプ政権、クシュナー氏の存在感増す

 

  • オランダとトルコの外交論争

最近の内外メディアの関心は珍しく「外交関係」に集中している。先週まで彼らの関心はクアラルンプール空港での金正男氏暗殺をめぐる北朝鮮とマレーシアの外交的報復合戦だった。ところが、今週の焦点はトルコとオランダの外交論争だ。それにしても、両国首脳が相手国を罵る光景は異様である。

事の発端は極右勢力の圧力に屈したオランダ政府がトルコ外相のオランダ入国を拒否したこと。同外相はロッテルダムで開かれる予定の在外トルコ人の集会に空路参加しようとしたが、オランダは国内の緊張を煽る可能性があるとして、同外相の搭乗機にロッテルダム空港への着陸許可を与えなかったという。

続いて、トルコの家族相がドイツから陸路で入国したが、同相はロッテルダムのトルコ総領事館前でオランダ当局により阻止され、何とドイツに追い返されたそうだ。オランダ首相府報道官によれば、同総領事館前に集まったトルコ系住民の抗議デモが暴徒化し、警察は放水でデモ隊を解散させたという。

この一連の事件でトルコ大統領はオランダを「ファシスト」、「ナチス」と罵倒し、現在海外で休暇中の駐トルコ・オランダ大使の帰国を当面は歓迎しないと発言。更に、オランダが家族相の追放について謝罪しない限り、外交的・政治的・経済的な報復も辞さないと表明したそうだ。事態は泥仕合となっている。

だが、一連の騒動に関する筆者の見方は冷めている。この問題はオランダ、トルコ両国にとって、外交ではなく、内政問題だからだ。オランダでは3月15日に総選挙が実施される。右派勢力から突き上げられている現与党としてはトルコに対し厳しい姿勢を示さざるを得ない。騒ぎは大きいほど良いのだ。

トルコ与党にとっても状況は同じ。同国では近く大統領への権限集中を認める憲法改正案の国民投票が予定されている。在外のトルコ人にも投票権があるので、トルコ与党が在欧州トルコ人有権者に対する働き掛けを強めたいのは当然だろう。どちらにとっても本質は外交ではなく、内政問題でしかない。

両国が外交問題を内政に利用しようとする以上、この問題に円満な解決などあり得ない。冷たい言い方だが、この問題は当分放っておくしかない。唯一明らかなことは、これによりトルコのEU加盟問題が事実上迷宮入りすること。トルコが欧州の一員となる可能性は完全になくなったということだ。

欧州・ロシア

14日にドイツ首相が訪米する。同首相と米大統領との関係は微妙であり、二人の会談結果はEUの将来を左右する、といっても過言ではない。少なくとも、トランプ政権の対欧州政策とEU諸国の対米政策の間には大きなギャップが存在する。今回の首脳会議の結果次第ではEUの将来を左右しかねないだろう。

東アジア・大洋州

今週はサウジ国王の日本・中国訪問と米国務長官の日中韓三国訪問が予定されている。サウジの大名行列はともかく、最近ワシントンでティラーソン国務長官の存在感が薄れつつあるとする報道が気になっている。今回のトランプ政権の最大の敗者は、もしかしたら米国務省かもしれないからだ。

中東・アフリカ

14日にカザフスタンのアスタナでシリア和平会議が開催される。ジュネーブでの会議とは別に、ロシア主導のこうした会議が開かれ続けること自体、シリア問題の将来にとっては良いニュースではない。米露間でシリアの将来に関する最低限のコンセンサスが生まれない限り、この種の会議は踊り続けるだろう。

南北アメリカ

報道によれば、最近訪米する諸外国外相は国務長官ではなく、トランプ氏の娘婿クシュナー顧問と会談することが少なくないという。これが事実であれば、いずれトランプ政権幹部の誰かが辞任に追い込まれる可能性がある。新政権幹部同士の権力闘争は誰かが犠牲者にならないと終焉しないからだ。

インド亜大陸

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

 


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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