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スポーツ  投稿日:2018/7/21

協会は「ド正論」に耳を貸せ 超入門サッカー観戦法 最終回


林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

【まとめ】

・次期監督の候補は日本人に留めるべきではない。

・ハリルホジッチ監督の任命・解任の責任の所在を明らかにすべき。

・協会は、長期スパンで日本を世界一にする意思表示とそれに基づく監督人事を行うべき。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=41121でお読みください。】

 

ワールドカップの喧噪が終わり、サッカー界をめぐる話題と言えば「次期監督」に絞られてきつつある。日本代表の、下馬評を覆す善戦によって、ハリルホジッチ(以下ハリル)前監督の解任騒動など、忘れられてしまったかのようだ。

▲写真 Vahid Halilhodzic Photo by flickr: pleclown

前稿で述べたように、今次のワールドカップで明らかになったのは、守備を固めてカウンターを仕掛ける「堅守速攻」のチームが活躍し、サッカーの新しいトレンドがはっきりしてきた、ということである。

ちなみにJリーグでも、前半15試合でわずか8失点という堅守を誇るサンフレッチェ広島が、首位を独走している(7月下旬現在)。この観点からは、ハリル前監督の「デュアル(1対1の強さ)」「縦に早いサッカー」を強調する指導は、方向性としては断じて間違っていなかった

ただ、どのような戦術であろうと、選手が監督に信頼を寄せ、チームとして一致団結していなければ機能しないのは当然で、俺の言うとおりにやれと繰り返すだけのハリル監督に対して、主力選手が次第に離反の様相を見せ始め、強化試合でも勝てなくなったのである。

だから、私はこの解任劇そのものについては、よいことではないが仕方ない、という感想を述べてきたし、今もその考えは変わらない。一部の評論家からは、「こんな騒ぎを起こして、外国人指導者は日本代表監督など誰も引き受けなくなるのではないか」という声も聞かれたが、私は、それはないだろうと思った。

欧米の人々は契約について、日本人よりずっとシビアでかつ理解が深い。

と言うより、契約や人事にすぐ義理人情をからめるのは日本社会に特有の傾向であり、だからこそ「日本の常識は世界の非常識」などと言われたことを忘れてはならない。実際問題として、ワールドカップ本戦前の監督交代は、他国でも少数ながら例があった。

一方では、やはり戦術を理解させるには外国人監督では難しいのではないか、という向きもあるが、こんなものはナンセンスな議論だと私は断言する。今や代表メンバーの7割までがヨーロッパのリーグで活躍しているというのに、なにを時代遅れなことを言っているのか。

過去6度出場したワールドカップ本大会において、開催国であった2002年日韓大会(フィリップ・トルシエ監督)を別とすれば、1次リーグを突破できたのは日本人監督が率いたチームだけではないか、という議論も、日本人監督待望論の背景にあるようだ。

それを言うなら、まずはデータを見ていただきたい。

4試合1勝1分2敗、得点6、失点7

コロンビア、セネガル、ベルギーという強豪相手に2ゴールずつ挙げたのは、たしかに立派なことで、だからこそ私も「下馬評を覆す善戦」と評価はしているのだが、「10人になった相手と87分間戦って勝っただけで、11人の相手には1勝もできなかった」というのが、冷厳な事実ではないだろうか。

▲写真 Japan national football team World Cup 2018(VS Poland) Photo by Светлана Бекетова

西野監督も、こうした批判があることは承知しており、一部にあった「続投論」には応じない考えのようだが、私は別の観点から、続投はあり得ないと考えている。

ハリル体制がうまく機能しなかったとして、その任命責任と「監督に対する指導監督責任」は、あげて強化委員会にあり、委員長であった西野氏が、そのまま代表監督を引き継いだこと自体、筋が通らない話だからである。ハリル解任劇について、任命からワールドカップ本番直前での解任まで、結局誰の責任なのか明らかにしないままでは、それこそ本当に、外国人の優れた指導者に日本代表監督を依頼するのは不可能になるであろう。

また、こんな問題もある。

1次リーグ突破を決めた、ポーランド戦での「パス回し」については賛否両論であったと前に述べたが、お笑い芸人の松本人志(ダウンタウンの松ちゃん、の方が通りがよいか?)が、こんなコメントをしたと知った。

「たとえ負けても、最後まで攻めてくれた方が、それはそれで日本かっこいい、と思えた」、「あの(負けているのにパス回しという)戦術は、優勝するためだと言われたら納得だけど、この(1次)リーグを突破するためだと言われると、志はそこかい、と思ってしまう」あれほどの影響力を持つ人が、私と同意見であったことは大いにうれしく心強かったが、しかし、協会のお歴々の目には、私も彼も単なる門外漢としか映るまい。

ならば、この話はどうか。

ハリル解任騒動に際して、あの中田英寿氏が、以下のようにコメントした。「(今の日本代表は)たしかに危機的状況だと思う。今度の大会で、たとえ西野監督でよい結果が出たとしても、次に繋がらない

「4年ごとにリセット、ではどうにもならない。8年とか、いっそのこと12年といったスパンで、監督人事も考えるべき」

彼が日本サッカーのレジェンドであることに、異論は出ないだろう。その声が協会上層部に届かない、などということがあったならば、それこそどうにもならないだろう。

いや、実際問題として上記二人のコメントについては、ネットの一部では「ド正論」と賞賛されているものの、協会上層部がまともに受け止めた形跡はない。

4年後は、カタール大会である。灼熱の地で、そもそもまともなサッカーができるのか。FIFAでも開催時期の変更や、昨今周辺のアラブ諸国との関係悪化を理由に、開催地の変更まで取りざたされていると聞くが、いずれにせよ、次の大会のみに照準を合わせて、「今度こそ8強」などと言っていてよいのか。それこそ中田氏の言うように8年、12年というスパンで、「本気で日本サッカーを世界一にすることを目指す」と、協会が意思表示をすることが、どうしてできないのか。

▲写真 France champion of the Football World Cup Russia 2018 Photo by Russian Presidential Press and Information Office

今、そうした意思表示と、それに基づく監督人事が発表されたなら、今次のワールドカップで「にわかサッカーファン」になった人たちの多くが、本物のサッカーファンになる道も開かれるだろう。本シリーズの締めくくりには、私とは別人の林先生がはやらせた、あのフレーズがふさわしい。

日本サッカーの改革、いつやるの? 今でしょ!

トップ画像:ロシア ロストフ・アリーナ Photo by jukoFF


この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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