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.国際  投稿日:2018/9/21

異訳し国連に提出された「南北板門店宣言」


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・「南北板門店宣言」第3条3項の韓国語原文と日本語訳・国連提出の英語版が異なる。

・2か所に読点入れた聯合ニュース訳を引用した国内メディアは、今年中の終戦宣言が合意されたと解釈したが間違い。

・南北が国連に提出した「南北板門店宣言」英文版も「年内の終戦宣言合意」と異訳翻訳されているとの指摘。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合は、Japan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=42077でお読みください。】

 

4月27日の「南北板門店宣言」第3条3項が、韓国語版原文と日本語訳が異なるだけでなく、韓国版原文と国連に提出された英語版とも重要な点で違いのあることが分かった。

 

 韓国語原文と日本語訳の重要な違い

 

板門店宣言韓国版の第3条3項は、韓国語版で「南と北は休戦協定締結から65年となる今年に終戦を宣言し休戦協定を平和協定に転換し恒久的で堅固な平和体制の構築に向けた南北米の3者または南北米中の4者会談開催を積極的に推進していく」と読点のないまま最後の「積極的に推進していく」につながった表現になっている。従って、「終戦を宣言」も「休戦協定を平和協定に転換」するのも「南北米の3者または南北米中の4者会談開催」と共に今年に「積極的に推進していく」との努力目標と解釈されるのである。

 

  *韓国語版原文3条3項目は

となっており、文章に読点はない。北朝鮮側発表も南と北が北と南に、南・北・米・中が北・南・中・米となっている以外文面は同じである。

 

しかし聯合ニュースの日本語訳は、日本人向けに読みやすくするために恣意的に2か所に読点を入れ、「南と北は休戦協定締結から65年となる今年に終戦を宣言し、(注:この部分)休戦協定を平和協定に転換し、(注:この部分)恒久的で堅固な平和体制の構築に向けた南北米の3者または南北米中の4者会談開催を積極的に推進していく」となっている。

 

日本の一部メディアや専門家は、韓国語原文に依拠せずこの日本語訳を引用して、「今年に終戦を宣言し、」で文章を切り、今年中の終戦宣言が南北で合意されたかのように解釈している。しかしこれは大きな間違いだ。「今年に終戦を宣言し、」と句読点が入るか否かで日本語の意味は全く違ってくる。

 

 VOAが国連提出の英語版「南北板門店宣言」の異訳を指摘

 

米VOA放送は、9月6日に国連に提出された「南北板門店宣言」の英文版と、4月27日の南北首脳会談当時に韓国と北朝鮮がそれぞれ公表した英訳を比較し9月12日にその結果を発表した。そして、韓国と北朝鮮が共同で提出した「南北板門店宣言」の英文版が、「年内推進」ではなく、「年内の終戦宣言合意」と異訳翻訳された北朝鮮版に沿ったものになっていると指摘した。

写真)The headquarters of Voice of America, Washington, D.C.

出典)Sarah Stierch

 

4月27日の南北首脳会談当時の韓国政府による英訳は韓国語版に沿って「停戦協定65周年となる今年(during this year)、南北は終戦を宣言し停戦協定を平和協定に転換するとともに恒久的で強固な平和体制を構築しようという目的を持ち(with a view to)、南北・米国の三者または南北・米中の四者による会談を積極的に推進することで合意した(agreed to actively pursue)」という内容だった(終戦宣言も平和協定も積極的に推進するとの意味となっている)。

写真)朝鮮の板門店で休戦協定に署名する両軍代表(1953年)

出典)U.S. Department of Defense (F. Kazukaitis. U.S. Navy)

 

 しかし、南北が共同で国連に提出した南北板門店宣言の英文版は「今年終戦を宣言することで合意した(agreed to declare the end of war this year)」と書き換えられた。VOAは今年4月に朝鮮中央通信が配信した北朝鮮側の英訳に沿ったものと分析した。

 

当時朝鮮中央通信が報じた北朝鮮側の英文版は「北と南は今年、終戦を宣言することで合意した(agreed to declare the end of war this year)」となっており、国連に提出された英文版と一致する(朝鮮日報2018/09/13)

 

これについて、韓国政府は「国連に提出された板門店宣言の英文版は、南北が合意した韓国語版を忠実に翻訳したものだ」と説明したが、識者は、韓国世論と国際社会を欺瞞するものであると指摘している。

 

トップ写真:握手する韓国・文在寅大統領と北朝鮮・金正恩委員長(2018年9月19日)

出典)Korea Clickers

 

 

 

 

 

 

 

 


この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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