.国際  投稿日:2018/8/8

3度目「南北会談」に活路 韓国文大統領

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朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・政治スキャンダルで焦燥感深める文在寅大統領

・局面打開のため、3度目の南北会談前倒しを模索

・制裁緩和、終戦宣言に前のめりの文政権を米国がけん制

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て記されていないことがあります。その場合は、Japan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=41443でお読みください。】

 

文在寅(ムン・ジェイン)大統領はいま経済問題で迷走している(8月5日付「韓国経済迷走 文政権支持率急落」参照)だけでなく、政治的スキャンダルにも直面し局面打開に必死だ。

 

1、「トゥルーキング事件」で焦躁感深める文大統領

いま文大統領周辺では、6月13日の統一地方選挙で京畿道知事となった李在明(イ・ジェミョン)氏の「セクハラと不正資金問題」などが明るみに出て、近々に実施される党代表選問題とも絡み内部抗争に発展する兆しを見せている。

▲写真 李在明(イ・ジェミョン)氏 出典:acrofan.com

しかし、文大統領にとって特に深刻なのは、大統領候補時代に、共に民主党」党員らが世論操作のために組織した「ハンドルネーム=トゥルーキング」の組織実態が明らかになりつつあることだ。この事件は、文在寅氏の選挙公約などに介入し、その対価として政府の高位職を求めるなど「崔順実(チェ・スンシル)の国政介入事件」と似ているために文在寅政権の「崔順実事件」と騒がれている

「トゥルーキング事件」を捜査中のホ・イクボム特別検察官チームは、文在寅大統領の大統領候補時代の随行スポークスマンだった金慶洙(キム・ギョンス)(現慶尚南道知事)が、金ドンウォン被告(49、ハンドルネーム=トゥルーキング)に大統領選挙公約アドバイスを求めるなどした状況などを捉え、最近一部情報をマスコミに流し始めた。

▲写真 金慶洙(キム・ギョンス)氏(現慶尚南道知事) 出典:金慶洙Twitter

特検は、金ドンウォン被告が7月18日提出したUSBから“トゥルーキンング”と金知事が、セキュリティ性の高いメッセンジャープログラム「テレグラム」や「シグナル」を介してやりとりした会話の内容を確認し、分析している。特検によると、二人の会話の中には、昨年1月5日、金知事が”トゥルーキング”に大統領選挙公約と関連の諮問を要請する内容などがあるという。

そればかりか被告らが金知事の出馬した6月13日の統一地方選を狙って世論に影響を与えようとした可能性もあるとみて、金知事に公職選挙法違反の容疑も適用したとされる。

この事件と関連しては、正義党院内代表の盧フェチャン氏が、“トゥルーキング”から4000万ウォンを受け取り、自殺するという悲劇的事件まで起こった。この自殺でこの事件がトカゲの尻尾切りで終わるのではないかと危惧されている。

特別検察官チームは8月2日に金知事の執務室と官舎を強制的に家宅捜索し、6日に18時間に及ぶ取り調べを行った。金知事が拘束される事態となれば、文大統領への影響は避けられない。

▲写真 南北軍事境界線を越える南北首脳(2018年4月27日) 出典:Flickr 韓国公式アカウント

 

2、 首脳会談早期実現の手土産、「制裁緩和」と「終戦宣言」

文政権はこの局面打開のために、秋に予定している「金正恩との首脳会談」を前倒しすることに奔走している。再び「南北首脳会談ショー」を利用して国民を欺瞞しようとしているのだ。その手土産は対北朝鮮「制裁緩和(制裁破りを含む)」「終戦宣言」である。

 

1)執拗な「制裁緩和要請」と「制裁破り」

まず制栽緩和については徐薫(ソ・フン)国家情報院長が7月26日ごろから29日まで米国を非公開(秘密)訪問し、トランプ政権の高官らと接触して南北共同連絡事務所設置など、南北関係の制裁免除案などを要請した。

▲写真 徐薫(ソ・フン)国家情報院長の表敬を受ける安倍首相 2018年3月13日 出典:首相官邸

一方、制裁破りについては、他国船籍に偽装した北朝鮮の石炭船を受け入れた問題が表面化している(関与船 石炭搬入8隻、精油製品供与2隻。石炭搬入船3隻は52回出入した疑惑)。

米国が韓国の2企業2金融機関に制裁を科す意向を示したことで、関与した南東(ナムドン)発電(韓国電力の100%子会社)と親会社の韓国電力は戦々恐々としている。韓国政府は今更のように「調査に乗り出す」と慌てたふりをしているが、その本気度は疑わしい。なぜなら政府自らが関与していた可能性が高いからである。摘発すれば制裁破りを行った企業や銀行の反発でその内幕が暴かれる可能性がある。

その内幕とは、これらの船で石炭輸入という「制裁破り」が、昨年10月から行われていたとの疑惑だけでなく、石炭を下ろしたカラ船に韓国産のコメを積み北朝鮮に送ったとの疑惑などである。

▲写真 接舷して照明を点灯し,蛇管を接続している北朝鮮船籍タンカー「NAM SAN 8号」と船籍不明の船舶(8月1日0時30分頃撮影)防衛省 出典:外務省

また7月31日に板門店で行われた「南北将官級軍事会談」でも非武装地帯の平和地帯化とGP(要塞化されている監視警戒所)の相互試験撤収、JSA(共同警備区域)内の非武装化、非武装地帯内での6・15(朝鮮戦争)戦死者遺骨の共同発掘という板門店宣言の中心的課題が早々と合意されたという疑惑もある。

これらの合意は終戦宣言前に軍縮に踏み込んだ「裏切り行為」そのものであるために、米国の怒りを買うことになるとして公式発表では合意に至らなかったとしている。

 

2)非核化抜きの「終戦宣言」で北朝鮮、中国と共同戦線

北朝鮮はこのところ、執拗に終戦宣言の採択を要求している。北朝鮮宣伝メディアを総動員して、「終戦宣言は米国の当然の義務」という主張を展開している。米国側が動かないため、労働新聞は7月25日、「南朝鮮当局は対岸の火事を見るようなことをしていてはならない」と、韓国政府が米国を説得するよう露骨に要求した。しかしこの動きは韓国政府が早期の「終戦宣言」に向けて動きやすくするための援護射撃であろうとする分析が有力だ。文政権の「終戦宣言」促進の動きで見逃せないのは、中国との協調強化の動きだ。

7月中旬に中国の外交を統括する楊潔チ・共産党政治局員が孔次官と共に極秘に韓国を訪れ、青瓦台の鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長と会談していたと韓国青瓦台(大統領府)高官は7月31日に発表した。非公開で訪韓したことについては、「両政府間でより円滑な対話をするため」と説明したが、この場で朝鮮戦争の終戦宣言促進について話し合いが行われたと推測されている(聯合ニュース2018・07・31)。

この会談の後、中国政府の朝鮮半島問題特別代表を務める孔鉉佑外務次官が25日、平壌入りした。米朝の非核化交渉に加え、北朝鮮が米国に要求している「終戦宣言」などについて、意見交換したとみられる。

こうした動きは、北朝鮮、中国と文政権が、同じ船に乗って「終戦宣言」を早期に勝ち取ろうとするものである。韓国大統領府の高官は7月31日、朝鮮戦争の終戦宣言と関連し、宣言の主体が南北と米国の3者になるか中国を加えた4者になるかは今は分からないとした上で、「4者による終戦宣言も排除していない」と述べた(聯合ニュース2018・7・31)。

 

3)「終戦宣言」への先走り、米国が牽制

しかし韓国国民は終戦宣言よりも「北朝鮮の非核化」が先だとしている。韓国文化体育観光部が7月31日発表した対北朝鮮政策に関する世論調査では、国民の63.88%が終戦宣言よりも「北朝鮮の非核化」が先だと回答した(朝鮮日報2018・8・3)。終戦宣言に関しても文政権と国民の認識差は大きい。

▲写真 北朝鮮から返還された朝鮮戦争で死亡したとみられる55体の米軍兵士の遺骨の送還式に出席するハリー・ハリス駐韓米国大使  烏山(オサン)空軍基地にて 2018年8月1日 出典:在韓米国大使館

特に米国との溝は大きい。ハリス駐韓大使は8月2日、就任後初めての韓国メディアからの取材に応じ「終戦宣言を急ぎ過ぎると、後に交渉が失敗したときに金正恩委員長が得をする」「一度宣言してしまうと(新たに)戦争を始めない限り取り返しがつかない。そのため、非常に慎重にならねばならない」などと指摘し、韓国政府の動きをけん制した。

トップ画像:ルトノ・マルスディ インドネシア共和国外相と会談する文在寅韓国大統領(2018年7月27日)出典 韓国大統領府

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この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)など。

朴斗鎮

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