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.経済  投稿日:2019/1/3

世界経済 米頼みで大過なく推移~2019年を占う~【世界経済】


神津多可思(リコー経済社会研究所所長)

「神津多可思の金融経済を読む」

【まとめ】

・気になる米中貿易摩擦はしばらく続く。

・中国で成長鈍化の兆候。米国経済は高めの成長続けている。

世界経済、悲観材料あるが、米国経済頼りに大過なく推移。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合は、Japan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=43554でお読みください。】

 

2019年の世界経済を考える時、何と言ってもまず心配なのは米中貿易摩擦の帰趨である。これは単なる貿易問題ではなく、21世紀の中葉にかけてのグローバル・ヘゲモニーを巡っての軋轢の一端だ。したがって、貿易交渉で一時的に小康を得ることがあったとしても、米中の競い合いの状況はしばらく続くとみておくべきだろう。

そうした中で中国では、既に成長鈍化の兆候を示す経済指標が出ている。また、企業・投資家のマインドは明確に悪くなっている。中国経済の減速は、欧州や日本といった密接な関係にある先進国の経済に悪影響を及ぼす。さらに、第一次産品の需給の引き緩みなどを通じて、新興国の経済成長を抑えるものでもある。とは言え、中国経済が失速しているという証拠はなく、また政府が財政によって景気を支える余地もまだある。

▲写真 上海 出典:Photo by Alex Needham

一方で米国経済は、トランプ政権による大規模減税にも支えられ、なお実力に比べ高めの成長を続けている。だからこそ米国の連邦準備制度(FRB)は2018年に4回の利上げを行った。その是非を巡ってはトランプ大統領との間に対立も生まれているようだが、高過ぎる成長は将来必ずやってくる調整局面を早めるだけなので、果たしてどちらの言い分が正しいかは、今後の米国経済の展開をみるしかない。

▲写真 減税法案議会通過を歓迎する米トランプ大統領 2017年12月21日 出典:flickr The White House

また、このところの原油価格の急速な低下は、その分インフレ圧力を減じるので、米国経済の成長持続を助けるものとなる。そうしたこともあって、今後とも融市場のセンチメントの振れはあろうが、米国経済が俄かに不調になるとまでは今のところ断定できない。

他方、欧州に目を転じると、英国の欧州連合(EU)離脱、そのEUの要である独・仏での政治的な不安定さ、伊のポピュリズム政権による財政赤字の拡大など不安材料に事欠かない。さらに、日本はどうかというと、独自のモメンタムは弱く、海外経済次第という展開が続きそうだ。消費税増税は予定されているが、金融市場が財政赤字の累増をほとんど問題視しない環境がまだ続いているので、財政支出の拡大によりそのマイナスの影響はかなりの部分打ち消されそうだ。

▲写真 英国 EU離脱に反対する市民 2017年12月 出典:Photo by Chris Allen

以上のように、2019年の世界経済については、「悲観材料はたくさんあるが、米国経済を頼りに、決して順風満帆ではないものの大過なく推移しそうだ」というのが現時点での大方のメイン・シナリオだろう。

▲写真 黄色いベスト運動 フランス 2018年11月 出典:Photo by Obier

しかし、潮目ははっきり変わったと認識すべきだと思う。1990年代以降の、市場メカニズム・金融仲介・グローバル化を重視するマクロ経済運営が、色々なところで抜き差しならない問題を引き起こしている。世界の国・地域が、産業の盛衰、労働の移動、文化の融合といったことを極めて円滑に受け入れることができるなら、今日のような激しい摩擦は生じなかっただろう。しかし、現実の人間の社会には様々な粘着性があって、人はそう簡単に仕事を変えたり、風習を変えたり、ましてや言語を変えたりはできない。

そうした人間社会が持つ粘着性の結果生まれた様々な分断が、世界のあちこちで政治の場に持ち込まれ、2019年の世界経済はその中で動いていくことになる。したがって、必ずしも経済原則だけでは説明できない展開となる可能性をこれまで以上に覚悟しておくべきだろう。

ところで、日本はそのような粘着性をかなり重視する、別の言葉で言えば急速には色々なことを変えないスタンスを相対的には堅持してきたと言える。したがって、今改めて欧米社会と比べてみれば、政治や社会がより安定しているようにみえるところもある。事実、海外ではそう受け止める向きも少なくないようだ。しかし、そうであるが故に日本経済は相対的に停滞してきたのも事実である。

結局のところ、またバランス論になってしまうが、経済原則を重視して成長を加速させるベクトルと、社会の安定性を重視するベクトルがある中で、その2つをどう調和させていくかということの難しさに思いが至る。

1990年代以降の「失われた期間」とさえ呼ばれる間の日本の対応には、明らかに足らざるところがたくさんあった。その一方で、ここへきて世界で起きていることは、日本がやってきたことの全てが間違っていた訳ではないと教えてくれているような気もする。そういう複雑な思いで迎えた2019年、日本にとっては新しい元号の始まる年である。

トップ写真:米NYSE 出典:Max Pixel(Public Domain)


この記事を書いた人
神津多可思日本証券アナリスト協会認定アナリスト

東京大学経済学部卒業。埼玉大学大学院博士課程後期修了、博士(経済学)。日本証券アナリスト協会認定アナリスト


1980年、日本銀行入行。営業局市場課長、調査統計局経済調査課長、考査局考査課長、金融融機構局審議役(国際関係)、バーゼル銀行監督委員会メンバー等を経て、2020年、リコー経済社会研究所主席研究員、2016年、(株)リコー執行役員、リコー経済社会研究所所長、2020年、同フェロー、リスクマネジメント・内部統制・法務担当、リコー経済社会研究所所長、2021年、公益社団法人日本証券アナリスト協会専務理事、現在に至る。


関西大学ソシオネットワーク戦略研究機構非常勤研究員、オーストラリア国立大学豪日研究センター研究員ソシオフューチャー株式会社社外取締役、トランス・パシフィック・グループ株式会社顧問。主な著書、「『デフレ論』の誤謬」(2018年)、「日本経済 成長志向の誤謬」(2022年)、いずれも日本経済新聞出版社。

神津多可思

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