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.政治  投稿日:2019/1/20

仏陸軍スコーピオン計画と陸自装甲車調達(上)


清谷信一(軍事ジャーナリスト)

【まとめ】

・フランスで装甲車輌群の調達計画「スコーピオン計画」進む。

20186月、パリで陸戦兵器の見本市「ユーロサトリ2018」が開催。

・陸軍の中核である装甲車輌群のポートフォリオ一新、多様な現用車輌の統合も。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=43786でお読み下さい。】

 

仏国防省のDGA(装備庁)仏陸軍は2014年に既存の主要装甲車輌群を一新する野心的なスコーピオン(SCORPIONSynergie du contact renforcée par la polyvalence et l’infovalorisation)プログラムを発表し、その後着々と進めている。装甲車輌のグランドデザインがない陸上自衛隊とは大きな違いがある。

昨年6月にパリで行われた陸戦兵器の見本市、ユーロサトリ2018でトライアル中のジャガーグリフォンの2種類の装甲車輌を展示した。スコーピオンは仏陸軍参謀本部とDGAが2000年から着手して2億ユーロ(約300億円)の費用をかけて、既存の装甲車輌の役割をどのような後継車輌に割り振るのか、またFELIN先進歩兵システムとVBIC歩兵戦闘車のネットワークシステムとのシステムの統合などが検証さてきた。総予算は60億ユーロ(約7,800億円)が見込まれている。

スコーピオンは既存の最新8輪装甲車、VBCI(APC型520輌、指揮通信型110輌)と、装輪155ミリ自走榴弾砲はそのまま使用されるが、その他の主要戦闘装甲車輌は新たに開発、調達される6×6装甲偵察車、ジャガー、4×4汎用装甲車VBMR、6×6汎用装甲車で置き換えられる。またルクレールMBTの近代化もスコーピオンに含まれている。因みに砲兵システムでは旧式で装軌式のAUF1155ミリ自走砲は全てカエサルで更新される。このため現在の77輌に加えて32輌のカエサルが追加発注される予定だ。

▲写真 CAESAR6x6 提供:NEXTER

仏陸軍はこれら車輌を核とした(GTIA:Groupement Tactique Inter-Armes)と呼ばれる大隊規模の歩兵、機甲、砲兵、兵站その他の支援部隊を統合した、ミニ旅団とも言える諸兵科連合部隊(人員約千名)を編成する。GTIAは海外などへの緊急展開へも投入される予定だ。最初のGTIAは2021年に編成され、GTIAを中核とする旅団は2023年に編成、二つ目の旅団は2025年に編成される予定である。

2014年に計画のステップ1として、ジャガーとグリフォンの開発と調達が発表された。ジャガーとグリフォンはともに6×6で、兵站や整備、訓練の極小化のためにドライブラインを採用しているファミリー車輌である。主契約者はこのプログラムのためネクセター、ARQUUS(旧ルノー・トラック・ディフェンス)、タレスが2014年に設立したTBG(Temporary Business Grouping)によって開発が進められてきた。

ジャガーはEBMR(Engin Blindé Multi Rôles:medium-weight component)と位置づけられた車輌で、既存の装甲偵察車輌であるAMX-10、ERC90サゲー、HOT搭載型VAB、メフィストの3車種偵察車輌の後継となる。これにより兵站、整備、訓練などのコストを削減することが可能である。

砲塔は二人乗りで、主兵装はネクセターとBAEシステムズが共同開発した40ミリテレスコープ機関砲、CTAIを採用している。砲塔上には車長用のパノラマサイトを兼ねた、7.62mm機銃を装備したRWSが搭載されている。車長用および、砲手用サイトはサフランが担当している。また砲塔右側にはMBDAの対戦車ミサイルMMP(Missile Moyenne Portée: Medium-Range Missile)が2基搭載されたランチャーを収納している。MMPは第5世代対戦車ミサイルでタンデム弾頭を有して射程は4,000mとなっている。

▲写真 ジャガー 提供:筆者

ネットワークシステムはSCIS(Scorpion Combat Information System)が採用されている。SCISは現在仏陸軍が使用している5種類のシステムの後継となるシステムである。将来SCISはタレスが開発中APS(積極防御システム)、ディアマンも統合される予定である。当初248輌が調達される予定だったが、上方修正されて300輌(+オプション48輌)が調達される予定であり、2025年までに、そのうち半数の150車輌が導入される予定である。

グリフォンはVBMR(Véhicule Blindé MultiRole:Multi-role Armoured Veheicle)と位置づけされており、40年以上使用されてきた現用の6×6及び4×4のVAB(Véhicule de l’Avant Blindé)の各種ファミリーの更新となる。2014年から開発がスタートし、駆動系とRWS(リモート・ウェポン・ステーション)、T1はルノー・トラック・ディフェンスが担当し、装甲車体はネクセター・システムズ、ベクトロニクスとアーキテクチャー、システム統合はタレスが担当している。

▲写真 VBMR 提供:NEXTER

戦闘重量は24.5トンで、乗員2名+8名の下車歩兵が搭乗可能である。全長は7.5メートル、全幅2.55メートル、全高2.62メートルとなっている。エンジンはボルボの400馬力ディーゼルエンジン、RTD/MDE8を採用している。航続距離は時速60キロで800キロとなっている。グリフォンは5種類の主要派生型が計画されている。APC型が1022輌、指揮通信型が333輌、装甲野戦救急車が196車輌、砲兵観測車が117輌、工兵・回収車が54輌の合計1,722輌が調達される予定となっている。

APC型は通常のAPC型に加えて、81ミリ迫撃砲チーム用、スナイパーキャリアー、対戦車チームキャリアー型が存在し、工兵・回収車は工兵・回収車に加えて、レスポンスチームキャリアー、燃料車が計画されている。

VBMR-L(Véhicule Blindé Multi-Rôle Léger)はグリフォンを補完するより軽量の装甲車輌で、現在開発が進められている。既存の4×4のVLRA、P4、PVPなどの装甲車輌がこれで更新される。これもGMEが担当している。乗員2名+8名の下車歩兵が搭乗できるAPC型の他、指揮通信車、偵察車輌などが計画されており、戦闘重量は15~17トンであるが、将来は18トンまで拡大が可能とされている。エンジンはカミンスの375馬力のディーゼルエンジン、トランスミッションはアリソンのオートマッチックのSP3000シリーズが採用されている。最高速度は時速100キロで、航続距離は600キロである。生産は2,025年から開始され、2025年までに489輌が調達され、2030年までに合計978輌が調達される予定である。

ルクレールの近代化は200輌のルクレールMBT及び18輌のルクレール回収車に対して行われることが2015年に決定しており、DGAは3.3億ユーロ(約430億円)を組んでいる。改修は2020年から開始される。改修内容は新型のCONTACT戦術無線機、ネットワークのためのSICS、新型のGPS/ISNが搭載される。また防御力強化のために砲塔にはスラットアーマー、車体にはスペースドアーマー及びスラットアーマーが装着されている。先のユーロサトリ2018において公開されたモデルの増加装甲は前回のユーロサトリ2016の時のものから変更されており、最終型は更に変更されることもあり得る

▲写真 ルクレール 提供:筆者

スコーピオンのステップ22023年から開始される予定だ。ステップ2では全てのジャガーやグリフォン、VBMR-Lの調達を完了し、またVBCIとFELINシステムのアップグレードも行われる予定である。

に続く。全2回)

トップ写真:ジャガー 提供:筆者


この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト

防衛ジャーナリスト、作家。1962年生。東海大学工学部卒。軍事関係の専門誌を中心に、総合誌や経済誌、新聞、テレビなどにも寄稿、出演、コメントを行う。08年まで英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane’s Defence Weekly) 日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関「Kanwa Information Center 」上級顧問。執筆記事はコチラ


・日本ペンクラブ会員

・東京防衛航空宇宙時評 発行人(Tokyo Defence & Aerospace Review)http://www.tokyo-dar.com/

・European Securty Defence 日本特派員


<著作>

●国防の死角(PHP)

●専守防衛 日本を支配する幻想(祥伝社新書)

●防衛破綻「ガラパゴス化」する自衛隊装備(中公新書ラクレ)

●ル・オタク フランスおたく物語(講談社文庫)

●自衛隊、そして日本の非常識(河出書房新社)

●弱者のための喧嘩術(幻冬舎、アウトロー文庫)

●こんな自衛隊に誰がした!―戦えない「軍隊」を徹底解剖(廣済堂)

●不思議の国の自衛隊―誰がための自衛隊なのか!?(KKベストセラーズ)

●Le OTAKU―フランスおたく(KKベストセラーズ)

など、多数。


<共著>

●軍事を知らずして平和を語るな・石破 茂(KKベストセラーズ)

●すぐわかる国防学 ・林 信吾(角川書店)

●アメリカの落日―「戦争と正義」の正体・日下 公人(廣済堂)

●ポスト団塊世代の日本再建計画・林 信吾(中央公論)

●世界の戦闘機・攻撃機カタログ・日本兵器研究会(三修社)

●現代戦車のテクノロジー ・日本兵器研究会 (三修社)

●間違いだらけの自衛隊兵器カタログ・日本兵器研究会(三修社)

●達人のロンドン案内 ・林 信吾、宮原 克美、友成 純一(徳間書店)

●真・大東亜戦争(全17巻)・林信吾(KKベストセラーズ)

●熱砂の旭日旗―パレスチナ挺身作戦(全2巻)・林信吾(経済界)

その他多数。


<監訳>

●ボーイングvsエアバス―旅客機メーカーの栄光と挫折・マシュー・リーン(三修社)

●SASセキュリティ・ハンドブック・アンドルー ケイン、ネイル ハンソン(原書房)

●太平洋大戦争―開戦16年前に書かれた驚異の架空戦記・H.C. バイウォーター(コスミックインターナショナル)


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清谷信一

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