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.国際  投稿日:2020/4/30

比ら三国、対中国海洋警備へ


大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・中国が南シナ海で調査実施、米及び周辺諸国強く反発。

・中国は地方行政組織を南沙に置き、実効支配強める。

・比・マレーシアベトナム、合同パトロールを模索。

 

中国が一方的に宣言して自国の権益が及ぶ海域として人工島建設や島嶼への建設物構築で着々と「自国領土化」を進めて国際的な非難を浴びている南シナ海で、それぞれに領有権を主張しているフィリピン、マレーシア、ベトナムによる合同の海洋パトロールを実施する案をフィリピン元最高裁判事が提起し、今後3カ国で調整が進む可能性も出てきた。

東南アジア各国はこの3カ国を含めて現在新型コロナウイルスの感染拡大防止に挙国一致態勢で取り組んでいる最中だが、そうした隙をつく形で中国は最近調査船を南シナ海に派遣してフィリピン、ベトナム、マレーシア各国政府が憂慮を示す事態になっている。

さらに新たに南シナ海の南沙諸島、西沙諸島にそれぞれ自国の地方行政区をこれも一方的に設置するなどして中国は周辺国、さらに南シナ海の安全保障に強い関心を示す米政府などから強い反発を招いている。

 

■ベトナム、マレーシアのEEZで調査活動

中国自然資源省に所属する調査船「海洋地質8号」が海警局の艦艇に護衛されて3月から4月にかけて南シナ海で調査を実施、4月14日にはベトナムの排他的経済水域(EEZ)内で、さらに16日にはマレーシアのEEZ内で違法な調査活動を行った。

「海洋地質8号」は2019年7月にも数カ月間南シナ海を航行して海底の状況や地質を調査したことから、今回も南シナ海に豊富にあるとされる海底資源の調査、探索などを目的とした調査とみられ、ベトナム、マレーシア両国政府は中国に強く抗議している。

さらに事態を重く見た米政府はポンペオ国務長官が中国を非難するとともに同海域に米海軍の巡洋艦と強襲揚陸艦を派遣して中国側の動きを牽制した。

 ▲写真 南シナ海を定期パトロールするUSS Fort Worth (LCS 3) 出典:Flickr;Naval Surface Warriors

 

■南沙区、西沙区を一方的に設置

さらに中国は2012年に南シナ海の各諸島を管轄下に置く地方行政組織として海南省三沙市の設置を独自に公表して、既得権益を主張していたが、4月19日中旬までにさらにその三沙市の下部行政区域として「南沙区」と「西沙区」を新たに設置したことを公表した。

こうした実効支配を着々と進める中国の一方的なやり方はさらなる反発を呼び起こしており、ベトナム外務省は20日に「ベトナムの領有権を侵害するこうした行政区の勝手な設置発表の動きは容認できず、無効である。中国は不当な決定を直ちに破棄するよう求める」と直ちに抗議の声をあげた。

フィリピン政府も22日にロクシン外相が外交ルートを通じて正式に中国に抗議した。

新行政区の設置と同時に中国は南シナ海に存在する島、岩礁、砂洲、海嶺などに中国名を付けた地名リストも一方的に公表して、南シナ海全域の領有権を改めて主張するなど一方的な動きを強めている。

 

■フィリピン軍艦艇にレーダー照射も

4月2日には西沙諸島のウッディ島付近の海上で操業中のベトナム漁船が中国海警局の船舶と衝突して沈没する事件も起きている。(参考=4月10日、コロナ禍、南シナ海で攻勢)

さらにこのほどフィリピンは2月17日に南沙諸島のフィリピンが実効支配を続けているコモードアー礁近くをパトロールしていたフィリピン海軍の艦船が中国海軍艦艇からレーダー照射を受けていたことを明らかにした。

フィリピン側は中国に激しく抗議したものの、中国側は「南シナ海は中国が統治している」として一切抗議を受け付けず、同海域からも退去しなかったという。

このように中国側は海警局艦船に加えて調査船、海軍艦艇まで動員して南シナ海での活動を活発化させており、米政府も米海軍による「航行の自由作戦」を続けて中国による一方的な「既成事実積み重ね」や「実効支配の拡大」を牽制しようとしている。

 

■3カ国合同でのパトロール提案

こうした中国による南シナ海での「攻勢」に対してフィリピン側からはマレーシア、ベトナムの海軍、海上法執行機関などによる合同パトロールの道を模索する動きがでている。

4月27日にフィリピン外国特派員協会が主催した「オンライン・フォーラム」に出席したアントニオ・カルピオ前最高裁判事はメディアに対して「南シナ海での中国の動きを抑制するためにもフィリピンはマレーシア、ベトナムとの合同パトロールの道を探るべき時期にきている。3カ国による協議に加えて伝統的な同盟国である米国、さらに英国、オーストラリアともさらに連携を強めて中国を押し返すべきだ」との考えを示し、フィリピン政府に対応を求めた。

▲写真 フィリピンドゥテルテ大統領 出典:ロシア大統領府

フィリピンは南部ミンダナオ島の南ラナオ州マラウィ市が2017年5月から10月にかけて中東のテロ組織「イスラム国(IS)」と関係があるフィリピン南部を主な活動地域とする武装組織やテロリストに武装占拠され、戒厳令を布告された。この際同島から海路でインドネシアやマレーシアに脱出したり、増援のためにフィリピン南部に密航したりするテロリストを防ぐためにフィリピン、マレーシア、インドネシアの3国海軍、空軍などによる合同パトロールを現在も続けており、共同パトロールの実績を積んでいる。

今後ドゥテルテ大統領が南シナ海での3カ国合同パトロールに関してどういう判断を下すことになるのか注目されている。コロナ感染防止対策で3カ国とも手一杯な状況とはいえ、中国の「一方的な活動活発化」に対抗するためにも早急な決断が求められている

トップ写真:Fiery Cross Reef. Spratly Islands 出典:Flickr; Loco Steve


この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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