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スポーツ  投稿日:2020/7/11

プロラガー、五輪に向け前進あるのみ


神津伸子(ジャーナリスト・元産経新聞記者)

【まとめ】

・ラグビー界若きエース松井千士、プロラガーとしてキヤノンイーグルスと契約。

・コロナ感染拡大防止を考慮したJAPAN候補の練習が再開。

7人制で東京五輪の次は2013年仏開催、15人制ラグビーW杯へ。

 

五輪に向けてあと1年、準備期間が延びたと前向きに捉えたい。セブンズにとっては、1年間あれば個々の力も、チーム力も向上させることが出来て、プラスになる」

東京五輪の1年延期に関して、感想を求められると、ラグビー7人制(セブンズ)日本代表候補の松井千士(キヤノンイーグルス)は、代表練習を終えて、オンライン合同取材を受け、その熱い思いを語った。思いが溢れるのか、慣れないZoom会見だからか早口、しかし、その表情は落ち着いていた。

五輪延期となり、医師を目指す福岡堅樹ら多くの先輩が、セブンズから退いたことも受け、「僕自身はまだまだ若いけど、しっかりとチームをまとめていきたい」と、胸を張る。

■ 新型コロナウィルス感染予防に対応した練習が再開

来年に開催が延期された東京オリンピックで、メダルを目指すJAPANセブンズ代表候補は新型コロナウィルス渦の中、やっとこの程、練習を再開することが出来た。しかし、ウィルスの感染拡大防止のため対策を検討。北から北海道、東京、名古屋、大阪、福岡に分かれて、代表候補選手が少人数単位で、トレーニングを行っている。松井は、東京で2回、練習に参加した。

練習中の感染予防にも余念がなく、水分補給時はグラウンドの隅のテントに各自が個別にペットボトルを用意している。水を飲む際も、その前に手洗い、うがいを徹底してから、飲む。忘れそうになる選手には、選手同士がお互いに声を掛け合って、注意を促す周到ぶりだ。

ソーシャルディスタンスを取りながら、コンタクトがある練習はしていない。

「セブンズファミリーの顔を見て、やっと練習が始まったんだと。充実しているなと思います」

と、目を細める。

とはいえ、1年延期は長すぎる」と、ファミリーからはW杯日本大会での大活躍が記憶に新しい福岡堅樹、リオ五輪では代表キャプテンもつとめた桑水流祐策、同じキヤノンに所属する橋野皓介らが、離脱した。

新チーム作りは始まったばかりだ。

■ 新天地でプロ選手として、ラグビーに集中したい

松井は数日前に、同志社大学卒業後、3年間プレイしていたサントリーサンゴリアスからキヤノンイーグルスに移籍した。大きな違いは、社員選手として、社業を終えてから練習に励むサントリーでの選手活動と、プロとしてラグビーのみに専念出来る点が挙げられる。しかも、キヤノンでは、東京五輪まではセブンズに集中して良いという条件付き。トップリーグで雄姿が見られるのは少し先になりそうだ。

「目標は、セブンズ日本代表として東京オリンピックに出場し、出るだけではなくメダルを取る。その後は、15人制に集中して2023年のフランスW杯を目指す」

そのための体制作りだという。リオ五輪ではチームは4位と成果を上げたが「多くのスポーツがひしめく中、メダルを取らなければ目立つことが出来ない」と、キッパリ。

が、意外に悲劇のヒーローで、そのリオでは眼前で代表入りも逃し、バックアップに回っている。東京・明治記念館で行われた代表候補発表での新ユニフォームお披露目のモデルとしてフラッシュを浴びてからの脱落は、辛かった。

また、15人制JAPANにも同大時代の2015年に、初めて名を連ね、W杯候補にも挙がったが、本番への出場は叶わなかった。

「半端にやっているのでは、ダメ。集中しなければ」と、これらの苦い経験も踏まえて、移籍を決意した。サントリー時代は、怪我のため試合に出れないことも少なくなかった。

「だからこそ、オリンピックに賭ける思いもすごく強いです。出るだけではダメ。メダルも獲り、自分自身が活躍して世界にアピールできる選手にならなければ」

3月に五輪延期が決まり、あと4ヶ月というところだったので、

「いっときは、メンタルの部分で落ちてしまっていた」

が、切り替えて、松井自身は自粛中、オリンピック、セブンズワールドシリーズを見据え、ウェイトのところでまずは成長させた。セブンズの試合に出ている時は8384kgだった体重を88kgにアップして、しかもスピードが落ちないように慣らしていると言う。

引退した福岡に「僕より速い」と、言わしめた脚力。注目され、ハードルは上がったが、「福岡さんより、速い選手がいるんだと、世界に見てもらいたい」とも。

コンディショニングもサントリーでの経験を踏まえ、怪我をしない身体作りをし、また、元陸上選手にスピードに特化する練習を付けてもらっている。プロになったからこそ生み出せた時間で強化している。

 

▲写真 During The World Rugby Sevens Challenger Series match at Sausalito Stadium on Feb 16, 2020 in Vina del mar, Chile. 今年2月のHSBCワールドラグビーセブンズ チャレンジャーシリーズチリ大会で活躍した松井選手 出典:©︎JRFU

■ チームとしても二段階の成長を

HSBCワールドラグビーセブンズシリーズ2020で、2月にウルグアイで行われたチャレンジシリーズで一位となり、日本代表は総合一位、来季からのワールドシリーズ(WS)にコアチームに昇格。この南米大会では若きキャプテンとしてチームも牽引した。

「最低限の結果を残せたと思います」

これまでは、ゲストとしての参加だったが、コアチームとなると心構えも違ってくる。

「東京五輪でセブンズがしっかり結果を残して、更に未来に発展していく活動をするために、世界に注目されるのはWS。日本のセブンズの未来に繋がる大会を昇格出来たことは嬉しく、東京五輪に繋いでいくシリーズにしたい。いつも最下位、ドンケツ2番目を争っているのでダメだ」
コアチームに入るとポイント勝負になる。

「日本はまだまだ個人のスキルも劣っています。チームとしても、もう一段階、二段階スキルアップしないと。まだバラバラでファミリーと言う感じではない。同じベクトル向けるチームではなかった。チームの繋がりも確固たるものにしたい」

■ その先の、2013年フランスW杯も見据えて

プロ選手になり、「一気にラグビーが上手くなるわけではないし、足が速くなるわけでもない」
だが、社業を費やしていた時間をラグビーに集中することが出来る。プレイだけではなく、よりファンを増やしたり、セブンズを広める活動、イベントを考えることにかける時間が増え、ありがたいと考える。

自分自身の価値をあらゆる意味で高めたいと。松井千士を応援して貰う取り組みもしたいという。「僕自身の強みが何かわからないが、メディアに取り上げられる活動をして、それをセブンズの発展に繋げていきたい」

そして、セブンズで五輪で結果を残した先を、常に松井は見据える。セブンズ目指して鍛え上げた力を、15人制でも、存分に力を発揮するつもりだ。2013年には、フランスW杯が控えている。五輪後にトップリーグに復帰を果たし、日本代表ヘッド―コーチのジェイミー・ジョセフにアピールしていく。

日本代表を目の前で逃すという苦渋を味わって来た25歳の若武者は、何度も瞳を輝かせた。闘いはまだ始まったばかり。

 

-松井千士(ちひと)
1994年11月11日生まれ。誕生日の十一、十一を掛け合わせて千士と命名される。大阪・常翔学園高校時代に花園(全国高等学校ラグビーフットボール大会)で優勝。同志社大学、サントリーサンゴリアスを経て、キヤノンイーグルスとこの程プロ契約。ポジションはWTB(ウィング)。身長182cm、体重88kg、50m走5.7秒。

トップ写真:今年2月のHSBCワールドラグビーセブンズ チャレンジャーシリーズチリ大会で活躍した松井選手 出典:©︎JRFU


この記事を書いた人
神津伸子ジャーナリスト・元産経新聞記者

1983年慶應義塾大学文学部卒業。同年4月シャープ株式会社入社東京広報室勤務。1987年2月産経新聞社入社。多摩支局、社会部、文化部取材記者として活動。警視庁方面担当、遊軍、気象庁記者クラブ、演劇記者会などに所属。1994年にカナダ・トロントに移り住む。フリーランスとして独立。朝日新聞出版「AERA」にて「女子アイスホッケー・スマイルJAPAN」「CAP女子増殖中」「アイスホッケー日本女子ソチ五輪代表床亜矢可選手インタビュー」「SAYONARA国立競技場}」など取材・執筆

神津伸子

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