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.政治  投稿日:2020/7/14

「習主席来日反対決議で日本の意志示せた」自民党外交部会会長中山泰秀氏


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

編集長が聞く!

Japan In-depth編集部(油井彩姫)

【まとめ】

・自民党外交部会、習主席国賓来日中止を求める決議文、官邸に提出。

・前回決議文に無かった「中止」という言葉入れ、グレードアップさせた。

・最大与党の意志としてきちんと中国に伝わったことに意味がある。

 

7月8日、習近平国家主席の国賓来日中止を求める決議文を官邸に提出した件に関して、自民党外交部会長である中山泰秀氏に、編集長安倍宏行が話を聞いた。

まず初めに、中山氏はかつての日本は、共産主義、社会主義に対する、西側のフロントラインであったとし、冷戦の名残が、今の朝鮮半島であったり香港であったり台湾海峡であると述べた。

その上で、決議文を出した意義については、「21世紀になって、中国は強権的に英中共同宣言を反故にし、力で抑えてきた。見るに堪えかねて(行動を起こした)というのが大きい。今の中国における共産党一党独裁体制が実践する恐怖と暴力の政治に対して、恐怖心や疑問を抱いている人が内外問わず大勢いることが現実であり、問題を浮き彫りにしている」と述べた。

▲写真 民主化を訴えた香港市民のデモ 2 July 2020 出典:Voice of America, Cantonese Service, Iris Tong

また、中山氏が決議文でこだわったのは、香港から脱出する人が日本に来た場合、対諜報戦の観点も踏まえた上で、その人を支援するための知恵を、政府には積極的に考え、出して欲しいということを明記することだったという。そのための法整備などについて尋ねると、イギリス等の他国に比べて、日本ではすでに3ケタ台の香港人が就労ビザを取って働いていることなどを踏まえ、「現行法での受け入れは十分に可能」だとの認識を示した。

何らかの形で現実に亡命してきた香港人がパスポートなどを無くしてしまった、もしくは当局から取り上げられてしまった場合にも、日本で「拘束」の状態にならないよう、きちんと調べて政府として「保護」することを考えたいとした。

次に、習近平国家主席の国賓訪日に関して聞いた。

▲写真 習近平中国国家主席と安倍首相 APECにて 2017年11月11日 出典:内閣官房内閣広報室

実は外交部会は決議を去年11月、今年5月と、過去に2回出しており、今回が3回目になる。まず、ひとつ前の決議では、習近平国家主席について「再検討を含め政府において慎重に検討せよ」と明記した。国賓訪日に対して自民党の部会が決議を出したのは、自民党の歴史始まって以来、初めてであった。

中山氏は、「公平公正にやろうということは意識した」と述べ、はじめに、自民党の外交部会の代理に諮り、次に正副部会という幹部会を開いて、平場でも2時間ほど議論したという。これは自民党の各政調部会の議論のやり方としては、最も丁寧に積み上げて来た事を意味する。

「中国では(自民党内の)一部の意見のように言われているが、一部ではない。どの決議も適切なプロセスで、政調審議会をパスして、党として決議されたものを官邸に持ち込んだ」と述べ、党内手続きとして必要且つ正式なプロセスを踏んだ上で決定された決議であることを強調した。

▲写真 ⒸJapan In-depth編集部

そして、二階俊博幹事長を納得させるために表現を後退させたのではないか、との指摘に対して中山氏は以下のように説明した。

まず中山氏は二度、二階氏に直談判した事を明かした。

一度目は、平場の議論の日、朝幹事長室で、中山氏は「今日平場(の議論)をやります。原文のまま出させてください」と言った。それに対して、二階氏は「がんばんなさい。あんたの親父だったらもっと暴れてただろう」と言ったという。

二度目は役員連絡会の日である。会の前10分、終わった後15分から20分ほど、新藤義孝、岸田文雄、小泉龍司、林幹雄、二階氏という顔ぶれで話し合った。

岸田氏は「役員会からずっと積み上げてきたものだから、これはこのまま原案で出そう。平場での議論を経た上で結論を持ってくるわけだから尊重してくれ」と発言した。一方、小泉氏は「この文章を入れたら、日中関係は大変なことになる」、林氏は「(日中関係改善にかけた)先人の苦労を分かってほしい」と、それぞれ発言した。

中山氏はそれまで黙っていたが、先輩から発言を促され、本来ならば2047年まで保たなければならなかった「一国二制度」が反故にされたということと、人権が非常に蹂躙されていることを述べた。

その上で、「今回は(議論を)積み上げて正式なプロセスでやってきた。先人に対してはもちろん敬意を表すが、国賓招待を出した時と今とでは状況が違う。日本の国民が歓迎できる環境にしていくためにどうしていくべきなのか。それが国民の意見でもある」と述べた。

その時二階幹事長が最後に発したのは、「円満に」という一言だった。さらに新藤氏、岸田氏の協力、林氏、小泉氏の理解もあって、議論を終え、決議文を提出することが出来た。

結果的に文言調整では「部会長一任」を得ることができていた。「一任」といっても練らなくてはならない部分があり、最終的に「非難決議」に書いてある文章(*1)になった、と中山氏は述べた。

「中止」という文言をそのまま入れ込んだことは今までになかったことだ。前回の「再検討」を載せたというのも自民党始まって以来初めてだったが、今回は「中止」という強い言葉を入れた。

「中止」の文言は省け、という意見も多くあったが、中山氏は「皆で積み上げてきたものだから、ここを外したら外交部会としての立場がもたない」と強く主張し、「中止」の文言を残したという。「報道では表現が弱まったのではないかという意見を目にするが、そんなことはない」と強調した。

一方で、中止という言葉を入れ込むことに賛同している議員の中でも「一行だけ書くというのは唐突ではないか」という意見があった。「加えて理由を書いて欲しい」「未来志向の部分も書き入れてくれないか」等の意見を踏まえて、結果的にあのような表現に落ち着いたという話であった。

中山氏は「(表現が)弱まったり、(党内の意見に)折れて書き換えたということではなく、むしろ前回の決議文より『中止』という文言を入れてグレードアップさせたわけで、満足のいく決議文が出せた」と、自信を示した。

また、はじめから見据えていたのは国内の反応ではなかったと中山氏は述べた。本来の目的は、「中国の外交部の報道官が反応すること」だったという。そして実際、中国の報道官は反応した。自民党の部会の決議文が、しかも「案」の段階で、中国の報道官によって公に批判されたのは、日本と中国の歴史上初のことであったという。

このことに関し中山氏は、「日本国民のこういう思いがあるということを(中国に)認識させるということであり、日本の最大与党の意志としてきちんと伝わったことに大きな意味がある」と述べ、今回の決議案の意義を強調した。

中国側は、「(習近平主席に)招待状を出したあなたたちが来るなと言うほうが礼儀に背いているんじゃないか」という思いを持っている。中山氏は、「我々は別に来るなと言っているわけではない。ただお越しになられる中国側にも、お互いが納得できる環境を、きちんと整えて頂きたい。国賓訪日の目的が、日本との友好親善を前進させる為ということなのであれば、日本や日本の国民が嫌悪感を抱くような事をやるべきではない」と述べた。

「世界恒久平和の実現が政治の崇高な目標であり、各国間でそれに資する条約や約束等ができれば理想的だと考えているが、今回の新型コロナウイルス対策については治療薬も存在せず、ワクチンも充分とは言えない状態で、中国の武漢から世界中へ「アッ」と言う間に拡散し、尊い命が貴重な医療従事者をも含めて大勢失われ、あらゆる経済活動が停滞し、人々は失業して生活基盤を失い、各国政府は膨大な財政支出を強いられ、将来の不安を抱えながらも当座の国民不安の解消を目指し、世界中が悪戦苦闘の昨今だ。新型コロナウイルス伝播の真相究明をWHOに対し求め、各国間の条約信頼を構築する前提条件にする為にも、明確にする必要性を痛感している」

最後にそう中山氏は述べた。

 

【インタビューを終えて】

 

▲写真 国家安全法の下、立法議会予備選挙に投票するため列を作る香港市民。2020年7月12日 出典:VOA

今回の自民党の決議文については、二階幹事長が反対しトーンダウンした、というような報道が多かったように思う。中山氏は二階幹事長とのやりとりを明かし、二階氏から正面切っての反対はなかったと述べると共に、党内議論を尽くした上での決議文だったことを強調した。与党自民党が習近平中国国家主席の国賓訪日の中止の要請に言及したことは意味があろう。

おりしも香港では民主派が、今年9月の立法会の議員選挙に向けての候補者を決める予備選挙を行い、約61万人が参加した。筆者が昨年の区議会選挙で取材した学生民主化団体「デモシスト」(現在は解散している)のメンバーも、国家安全法を盾に香港当局が圧力を強める中、勇敢にも投票を呼びかけた。

同団体の主要メンバーはこれまでのデモに関わったとして既に起訴されており、8月に入ると判決が出る。中国本国に送還されるのではないかとの懸念と不安を外国メディアのインタビューで答えている。事態は急を要する。

▲写真 民主活動家の周庭(Agnes Chow)氏 出典:faceboo Honcques Laus

自民党の決議文は、「香港人への就労ビザの発給など香港を脱出する人々への支援についても検討するよう求める」としている。外務省、総務省ら関係省庁は、香港人保護の為に迅速に動いてもらいたい。日本が人権問題に無関心だと国際社会に糾弾されることだけは断じて避けねばならない。

 

香港国家安全維持法の制定及び施行に対する非難決議

令和2年7月7日
自由民主党
政務調査会
外交部会
外交調査会

6月30日、中華人民共和国(以下、中国と表記)全国人民代表大会常務委員会において、国際社会や香港市民の強い懸念にもかかわらず、「中華人民共和国香港特別行政区国家安全維持法」(以下、「国家安全法」と表記)が制定され、施行されたことを強く非難し、以下決議する。

1、自由民主党においてはこれまで、令和元年11月15日の「香港におけるデモ隊と警察の衝突に対する決議」、令和2年5月29日の「中華人民共和国全国人民代表大会における香港の国家安全に関する決定に対する非難決議」を行い、再三にわたり重大な懸念を表明するとともに、日本政府に対して、中国政府および香港政府に対し、香港が約束された民主主義の原則に則り、人々との対話を優先し、関係者による自制と対話による平和的解決、「一国二制度」、「高度な自治」の下での自由で開かれた香港の維持・継続・発展、人権の尊重や法の支配について働きかけるよう求めてきた。それにもかかわらず、中国が「国家安全法」の制定及び施行を強行し、法施行と同時に大量の逮捕者が出るなど、懸念していた事態が現実のものとなった現在、この状況を傍観することはできない。ここに改めて、強く非難する。

2、香港は、わが国にとって緊密な経済関係および人的交流を有する極めて重要なパートナーであり、「一国二制度」の下に、自由で開かれた体制が維持され、民主的、安定的に発展していくことが重要である。国際社会は、1984年の英中共同声明に基づく「一国二制度」の原則に対する信頼に基づき、これまで香港との関係を構築してきており、それが香港の繁栄に繋がってきた。今般の法律の制定及び施行は、このような信頼を損ねるものである。香港における自由、人権、民主主義といった基本的価値が維持されるか疑念を抱かざるを得ない。また、国際金融センターとしての香港の地位にも影響が出かねない。中国には国際社会との約束を守り、大国としての責任を自覚するよう強く求める。

3、日本政府に対しては、中国政府および香港政府に対し、香港における万を超える日本国民や千を超える日本企業の活動や権利がこれまでと同様に尊重、保護されるとともに、香港市民の権利や自由が尊重、保護されるよう、米国及び英連邦各国をはじめ関係国と連携しつつ、中国政府に強く働きかけるよう求める。また、邦人保護のための適時、適切な対応・取り組みを行うよう要請するとともに、香港人への就労ビザの発給など香港を脱出する人々への支援についても検討するよう求める。

4、上記のように、日本国民・企業の安心安全を含め、国際社会からの自由、人権、民主主義の原則に対する重大な懸念が表明されている現状においては、党外交部会・外交調査会として習近平国家主席の国賓訪日について中止を要請せざるを得ない。
中国政府は、このような国際社会の懸念に真摯に対応すべきであり、わが党は日本政府に対し、中国に主張すべきはしっかりと主張しつつ、新たな時代の友好関係構築に向け、中国側への強い働きかけを要請する。

▲引用 香港国家安全維持法の制定及び施行に対する非難決議

 

*1「香港国家安全維持法の制定及び施行に対する非難決議」

4. ・・・日本国民・企業の安心安全を含め、国際社会からの自由、人権、民主主義の原則に対する重大な懸念が表明されている現状におては、当外交部会・外交調査会として習近平国家主席の国賓訪日について中止を要請せざるを得ない。

トップ写真:ⒸJapan In-depth編集部


この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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