EV化でCO2排出は7割減る
文谷数重(軍事専門誌ライター)
【まとめ】
・ 火力発電電力でもEV化でCO2は7割減らせる。
・ 火力発電所は車よりも高熱効率で低CO2のLNGを使っている。
・ 30年には電力構成のうち1/4以上は再エネとなる。
CO2対策により電気自動車(EV)が普及する見込みである。政府はCO2削減のため2030年代でのガソリン車製造中止を決めた。以降、自動車はEV等に代わる見込みである。
しかし、その効果を疑問視する意見もある。日本は火力発電を主流としている。車をEVに変えても火力電気を使う限りはCO2排出は減らせない。そのような主張だ。最近では17日にトヨタ社長が強調した旨が報道されている。*1
これは本当だろうか?
正しくはない。なぜなら熱効率、燃料、電源構成の影響を反映していない。これらを加味すればEV化でCO2排出は7割減少する。
■ 熱効率は20%高い
第1にEVには熱効率の有利がある。1単位の燃料から何kWhの電力が取れるか、何馬力・時間の動力が取り出せるである。
結論からいえば、仮にガソリンを使った火力発電でもEV車にすればCO2は60%減少する。
火力発電所と自動車では熱効率はどちらが高いか?
火力発電所だ。熱効率は今でも40%を超えている。*2 30年代には発電所平均で50%は超える。低効率の発電所が淘汰されるからだ。
30年代には熱量2kWh分の燃料から1kwの電力が取れる。そして発電所は常時この高効率をを維持する。
対してガソリン自動車は30年代でも平均30%も及ばない。熱量3.3kWh分のガソリンからようやく1kWh分、1.33馬力時間しか取れない。
確かに最新エンジンは熱効率が40%に達する。*3
ただ、これは最高条件の数字だ。実運転では達成できない。エンジン回転数や外気温、標高ほかの条件が悪化すれば覿面に低下してしまう。
1リットルのガソリンで両者を比べると次のとおりだ。火力発電では4.5kWhつまり6馬力・1時間相当の電力が得られる。ガソリン焚きの商用発電所は存在しないがそうなる。ガソリン車は2.7kWhつまり3.6馬力・1時間の運転ができることとなる。
同じ車で同じ距離を走らせるとどうなるか?
EVは6割の燃料で走る。仮に36馬力で1時間走るとしよう。EVはガソリン6リットル分の電力で走る。対してガソリン車は燃料を10リットルを必要とする。
この場合はCO2排出量も6割となる。同一燃料で6割ならCO2量も6割である。
■ LNGにするとCO2は3割減る
第2は燃料の有利である。
火力発電所が使う天然ガスはCO2をあまり出さない。ガソリンと比較すれば7割である。
この点でも火力発電とEVの組み合わせはガソリン車に優越する。第1で述べた熱効率を加味するとCO2排出は4割、42%となる。
もちろん火力発電の燃料は天然ガスだけではない。日本には石炭火力も残っている。これはCO2を大量に排出する。
ただ2030年代には、ほぼ天然ガスとなる。
石炭火力は整理で終わらず廃止まで進むからだ。これは本旨であるCO2排出問題の影響だ。今のガソリン車を廃止する流れの先にはそれがある。
また天然ガスの大量供給もそれを支える。世界中でガス田の新規開発は進んでいる。ロシアだけでも大型案件は7件ある。*4 石炭を置き換える天然ガスは充分に供給されるのである。
■ 太陽光ほかが1/4を超える
第3は再エネ普及である。EVは太陽光、風力といったCO2を出さない発電の恩恵を受ける。
再エネは30年代には電源構成の1/4を超える。政府計画では「2030年度の導入水準(22~24%)」である。*5 30年以降の伸びも考慮すれば25%は超える。また「30年には27%に達する」といった推測もある。*6
これもEVによるC02削減効果を後押しする。電力のうち75%は再エネとなる。つまり電力1kWhあたりのCO2排出量も75%となる。
第1、第2の効果を加味するとCO2排出量はガソリン車の3割、31.5%となる。
なお、実際には自家発電による利益も受ける。
今後はFIT期限切れの設備が増える。固定価格での買取期間は20年だ。つまり2010年代の設備は30年代には期間満了となる。
以降には特に家庭太陽光の電力はEV充電に回される。FIT終了後の売電価格は買電価格を下回る。安値で電力を売って高値でEV充電電力を買うのは無駄となる。
その規模は読めない。ただ、これもEVによるCO2排出を減らす方向に作用する。
■ 回生ブレーキもある
火力発電主体でもEV化でCO2排出は7割方減らせるのだ。
もちろんEVにも不利はある。電力網での送電ロスや電池にある充放電ロスである。それぞれ5%と10%程度だ。合計15%強の損失でありCO2排出量になおすと17%ほど増やす勘定となる。
しかし、それは回生ブレーキで相殺される。EVのブレーキは発電機を兼ねており減速時には電力が回収される。それで差し引きはなくなる。
電力回収量はまずは25%である。自動車の数字を示す資料はないが鉄道では「電力消費量が半分となった」記事もある。(7) 等比数列として計算すると回収量50%である。EVにはゴムタイヤ摩擦や発電・充電効率の問題もある。それを加味して効果半分とすれば25%である。CO2排出量で計算すれば20%を減らす数字になる。
送電ロスや充放電ロスの不利は再生ブレーキの利益で埋め合わせられるのである。
*1 「トヨタ社長『自動車のビジネスモデル崩壊』-政府の『脱ガソリン』に苦言」『毎日新聞[web]』2020年12月17日(毎日新聞,2020年)
「日本は火力発電の割合が大きいため、自動車の電動化だけでは二酸化炭素(CO2)の排出削減につながらない」
*2 「火力発電の高効率化」(資源エネルギー庁、2015年)
*3 「トヨタ自動車、最大熱効率40%の2Lガソリンエンジンを展示」『日経XTECH』2018年5月28日(日経BP,2018年)
*4 M. ベロヴァ, Ye. コルビコヴァ「コロナ禍発生後のロシア LNG生産の現状と展望」『ロシアNIS調査月報』 65.12(ロシアNIS貿易会,2020年)
*5 「エネルギー基本計画」(資源エネルギー庁,2018年)p.39
*6 工藤宗介「日本の再エネ比率、『2030年27%』で政府目標超える、英社が予測」『メガソーラービジネス』2020年8月21日(日経BP,2020年)
*7 安藤康之「減速時に生じる電力を蓄電!小田急がエネルギーの高効率化を担う装置を新導入」『EMIRA』2018年6月27日(EMIRA編集委員会,2018年) 「小田急電鉄では、回生ブレーキシステムを採用した4000形の省エネ車両導入を2007年より順次進めている。[中略]旧型車両と比較して約半分(46.8%)の電力で走行できる」(安藤)
トップ写真:西名古屋火力発電所。火力発電の熱効率は高い。2018年に中部電力西名古屋火力発電所は63%を達成している。105gつまり1.59kWh分の天然ガスから1kWhの電力を取り出した形である。写真は同発電所の状況。 出典:中部電力プレスリリース
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この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター
1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。