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.国際  投稿日:2020/12/27

米新政権のアジア政策注視【2021年を占う!】東南アジア


大塚智彦(フリージャーナリスト)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・バイデン民主党政権のASEANとの関わりに注目が集まる。

ASEAN各国「インド太平洋」構想に関心は高いが、慎重な姿勢。

・2021年のASEAN動向は「コロナ、中国、米新政権」がキーワード。

東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国は深刻さの度合いで差があるものの、全ての国が新型コロナウイルスによる未曾有の混乱に陥り、その感染防止対策、ワクチン獲得競争などに2020年は政治経済社会全ての分野で振り回されたのは日本を含む国際社会と同じ状態である。

ASEAN各国の2021年の動向を占うにしてもこのコロナ禍の収束への見通し、ワクチンの獲得、国民への摂取の状況次第といえるだろう。そのコロナ禍という不確定要素に加えて、ASEAN各国が注目しているのが2021年1月に正式に誕生する米バイデン大統領による民主党政権である。

特にこれまで対中強硬姿勢を取りながらもASEANにはあまり関心を示してこなかった共和党のトランプ政権の対中政策、そして対ASEAN外交の今後の方向性をASEAN各国は見極めようとしている。

そして東南アジア域内の安全保障問題にどこまで米新政権が積極的にコミットしてくるのか、その関わり方の度合いによって、対中国の姿勢、方針をどうするか、ASEAN加盟国による対中親密度の違いの中でそれぞれが判断していくことになると思われる。

つまり各国が抱える問題で対米、対中のバランスを取りながら2021年の安全保障問題、たとえば南シナ海問題や中国の巨大経済圏構想である一帯一路や海上交通路戦略の「真珠の首飾り」など経済支援と連関した権益拡大構想にどこまで関与するのか、距離を置くのかを判断していくことになるだろう。米中というスーパーパワーの間で一方に与するのか、どちらにも与さず等距離を維持するのか、そうした微妙なバランス外交が求められることになる。

ASEAN会議欠席続けたトランプ大統領

ASEANは毎年各国が持ち回りで議長国を務めながら外相会議、首脳会議、日中米韓などを交えた東アジア首脳会議やASEANプラス1会議、ASEANプラス3会議、安全保障問題を協議するASEANフォーラムなどを開催している。

ところがトランプ米大統領は就任した2017年以外の米ASEAN首脳会議には3年連続で欠席し、東アジア首脳会議には1度も出席せず、国家安全所長担当の大統領補佐官などが代理出席している。

コロナ禍でオンライン開催となった2020年11月の米ASEAN首脳会議、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)サミットも代理出席した米に対しASEAN各国は「米政府はもはやASEAN外交には熱心ではない」と冷めた見方をしているのが実情である。

実際2019年11月の米ASEAN首脳会議にトランプ大統領が欠席した際にはASEANの議長国などを除く7カ国の首脳が同じように会議を欠席して「米への抗議姿勢」をあからさまに示したこともあった。

▲写真 トランプ大統領 出典Flickr; Gage Skidmore

■日米豪印の枠組みには慎重姿勢だが

こうした中、10月には菅義偉首相に次いでポンペオ米国務長官がインドネシアとベトナムを訪問し、日米豪印4カ国(クアッド)が主導する「自由で開かれたインド太平洋」構想への理解と支持を求めた。

インドネシアとベトナムは共に南シナ海問題や中国の経済支援、インフラ整備協力などで中国との関係を維持する一方で、カンボジアやラオスのような「中国べったりの親中外交」とは距離を置いている

中国などからは「西太平洋条約(NATO)のアジア太平洋版となる軍事同盟だ」との批判もでているクアッドの構想ではあるが、ASEAN、特に対米、対中で等距離外国を取りたい各国にしてみれば直接の利害や権益が関係する南シナ海やマラッカ海峡などへの関心は極めて高いものの、大国が関与する「インド太平洋」構想には直接組み込まれたくないというのが真意である。

だが、今後バイデン新政権がトランプ政権とは大きく異なるASEAN重視の政策を実質的な行動とともに打ち出すならば、その延長線上での「インド太平洋」構想への積極的とまではいかないまでも、関与を表明することへの障壁は取り除かれる可能性もあるだろう。

■各国の国内問題とコロナ

フィリピンのドゥテルテ政権は南シナ海問題やコロナワクチン確保、さらに国内での中国人労働者問題、麻薬やテロとの戦いで中国寄りの姿勢を時に示しながらも、米国との関係強化の糸口を探っている。

米軍がフィリピン国内で軍事演習に参加する際の「訪問米軍地位協定(VFA)」の廃棄方針を打ち出しながらも、廃棄の延長を続けていることはそのひとつの証左ともいえる。

ドゥテルテ大統領もインドネシアやベトナムと同様に中国一辺倒の外交になることを危惧して、米国のさらなるASEAN特にフィリピンへの政治的、経済的な関与を期待しているのだ。

▲写真 ドゥテルテ大統領 出典:Wikimedia Commons; Addustour, Jordan Press & Publication Co.

タイでは民主化要求デモが続き、落としどころが見えない状況で長期化しており、マレーシアではマハティール前首相が2月に突然辞任した後の政局が不安定化している。

さらに11月の総選挙で安定的多数を確保して、軍の政治的優遇制度に果敢に挑戦しようとしているアウン・サン・スー・チー国家最高顧問兼外相の民主化運動の総仕上げが今後期待されるなど、ASEAN各国は国内問題の対応に追われる2021となる。

そうした国内課題に加えてASEAN全加盟国はコロナ対策とその一環としてのワクチン開発、獲得、摂取でも「競争」を繰り広げている。

中国が攻勢を強める「ワクチン外交」で各国はいち早く中国企業開発のワクチン確保に走りながらも「中国製ワクチンの安全性への全幅の信頼」という点から欧米製薬会社のワクチンの確保にも同時に懸命となっている。

やはりここでも米バイデン新政権のASEAN外交方針がどう変わるかを、ワクチン外交の面からも大きな期待をASEANは寄せながら固唾をのんで見守っている。

2021年は「コロナ、中国、バイデン米新政権」がASEANの動向を大きく占うキーワードになることだけは間違いないといえるだろう。

トップ写真:ASEAN国旗 出典:Pixabay




この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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