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.国際  投稿日:2021/9/15

EU、“綱渡り”のアフガン政策


村上直久(時事総研客員研究員)

【まとめ】

・EUはタリバン政権への対応でジレンマに陥っている。

・国外退避の次にEUが抱える課題は、大規模な不法移民を防ぐこと。

・EU独自部隊の創設、NATOとの重複に神経尖らせている。

 

欧州連合(EUはアフガニスタンで権力を掌握したイスラム主義勢力タリバンへの対応で、“綱渡り”を強いられている。タリバン政権による女性の人権蹂躙や抗議デモ弾圧などは容認できないものの、かと言ってタリバンと関与しなければ、同国の国際テロ拠点化の阻止や、来年までに最大で人口の97%が貧困化すると予想される同国への人道支援を実現できないというジレンマに陥っている

EU各国は米国とともにアフガニスタンに派遣していた軍隊を撤収。同時に自国からの大半の民間人とアフガン人協力者を出国させた。その過程で軍事面での米国依存が浮き彫りとなった。こうした中で、EUは今後、タリバンとどう向き合っていくかという重い課題に直面している。

■ 難民の大量流入を懸念

EUは9月4日、今年下半期のEU議長国スロベニアで開いた外相理事会で、EUが今後、タリバン政権と関与していくための前提条件として、タリバンが、

① アフガニスタンを国際テロの温床にしない

②女性や少数民族の代表なども含む、「包括的」な暫定政権を樹立する

③アフガニスタンへの国際人道支援を可能にする

の3点を挙げたが、タリバンが9月8日に樹立を宣言した暫定政権はタリバン関係者で占められ、女性もおらず、第二の条件を満たしていない。EUは米国とともに暫定政権の顔ぶれに懸念を表明している。

EU各国にとって、アフガニスタンに残された自国民とアフガン人協力者の国外退避が終われば、次の課題は今後、数カ月間で数十万人に上ると予想されるアフガン人不法移民・難民が大量に欧州に押し寄せることを未然に防ぐことだ。そのために、流入ルートに当たるイランやトルコなど周辺国への支援を強化する。

9月1日にブリュッセルで開かれた内相理事会は2015年の欧州難民危機を踏まえ、「EUは無秩序で大規模な不法移民の動きが再発するのを防ぐため、連帯して行動する」との共同声明を採択した。2015年には内戦が続くシリアからの難民を中心に100万人以上が主としてトルコ―ギリシャ・ルート経由でドイツなどに殺到した。

EUの行政機関である欧州委員会のヨハンソン委員(内務担当)は理事会後の記者会見で、難民危機の回避には「人道援助を続けることが最善の方法だ」と強調した。

▲写真 パキスタン、トーカム交差点から見たタリバン戦闘員の様子(2021年8月20日) 出典:Photo by Danial Shah/Getty Images   

■ 対米依存脱却のため共同部隊創設へ

今回のアフガニスタンからのEU各国民の退避では米軍への依存が目立つ中で混乱がみられた。EUはこうした経緯を踏まえ、9月2日、スロベニアで開いた国防相会議で、危機時に投入可能なEUの独自部隊の創設について協議した。

EUでは駐留米軍のアフガン撤収で各国が撤退作戦を余儀なくされたことを教訓に、軍事的な米国依存からの脱却を唱える声が高まっている。ただ、対ロシア防衛で米国との協力を重視する北・東欧諸国には慎重論も根強く、実現するかどうか不透明だ。

有事の初期段階の作戦に必要とされる部隊の規模は5000人程度だと想定されている。代替策として、各国の特殊部隊の合同訓練・運用案も浮上している。

EUは11月半ばまでに構想の具体案をまとめる方針だ。EU加盟各国は1999年、5万~6万人の緊急展開部隊を2003年までに運用可能にすることで合意。しかし、合意は履行されず、07年に導入した1500人規模の有事即応部隊を投入する仕組みも発動例がない。

EU独自部隊については加盟国の大半がメンバーに名を連ねる北大西洋条約機構(NATO)との重複という問題もある。NATOの盟主である米国も神経をとがらせている。

■ 新局面

EUにとって、米軍のアフガニスタン撤退とタリバン政権の発足は、難民問題や共通防衛政策、対テロ対策などをめぐり、新たな局面に入ったことを意味している。

(了)

トップ写真:​​議長国スロベニア北西部クラーニで開かれた、EU外相会議(2021年9月3日) 出典:©Republic of Slovenia Photo by Tamino Petelinšek, STA




この記事を書いた人
村上直久時事総研客員研究員/学術博士(東京外国語大学)

1949年生まれ。東京外国語大学フランス語学科卒業。時事通信社で海外畑を歩き、欧州激動期の1989~1994年、ブリュッセル特派員。その後,長岡技術科学大学で教鞭を執る。


時事総研客員研究員。東京外国語大学学術博士。

村上直久

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