岸田新政権へのアメリカの反応は その5 靖国参拝はどうするのか
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・岸田氏は国会議員時代から靖国神社に参拝せず。
・米識者「靖国問題は自国の戦没者の追悼に関わる国内問題で、外国の干渉を認めるべきでない」との見方。
・「岸田氏は靖国参拝を行い、日本国内の融和を促すべき」。
ドーク氏はさらに岸田首相にとって、さらには日本全体にとっても、屈折した難題といえるテーマに触れた。それは靖国神社への参拝問題だった。
結果として次期の首相の選出につながった今回の自民党総裁の選挙では高市早苗議員が「首相になれば日本国首相として靖国神社に参拝する」と明言したことから、靖国問題が改めて広範な注視を集めた。
岸田氏は総裁選の討論では「時期、状況を考えた上で、参拝を考えたい」と述べて、含みを残した。
岸田氏は首相としては10月17日、靖国神社の秋季例大祭に合わせて「内閣総理大臣 岸田文雄」名で「真榊」と呼ばれる供物を奉納した。だが参拝はしないという姿勢は明確だった。
そもそも岸田氏は国会議員としても自身の靖国神社参拝の記録はない。やはり宏池会の伝統のせいでもあろうか。
この点についてドーク氏が論評した。
「岸田氏は元外相、そして今回は首相として正面からの靖国神社への参拝は特定の外国からのネガティブな反応に結果として過剰な考慮を与えてしまい、差し控えるということにするのだろう。だが全世界的にみれば、他の諸国は日本が自国の戦没者にどう弔意を表するかなどという点を気にしてはいない。高市氏の『靖国問題は日本の純粋な国内問題であって、外交案件ではない』という主張はこの点、まさに正しい」
「日本国首相としての岸田氏にとってのいまの課題は日本国のために戦って死んだ日本国民に対して日本国の総代表として、いかにその栄や労を讃え、慰めるか、だ。日本は岸田首相に限らず、自国を守るために戦った戦死者たちの犠牲に対して国家からのなんらかの形の承認や賞賛を示すという責務を果たしていない。日本はこの責務を果たさない限り、国家としての機能は完全だとはいえない」
ドーク氏は2006年に当時の小泉純一郎首相が靖国神社への参拝を続け、中国から激しい非難を浴びた際もアメリカの知識人として中国の態度は日本の内部の心や信仰の課題への不当な介入だとして排すべきだと主張していた。
▲写真 靖国神社を参拝する小泉純一郎元首相(2006年08月15日) 出典:Photo by noboru hashimoto/Corbis via Getty Images
当時のアメリカの第2代ブッシュ政権も基本的にこの主張に同意する形で小泉首相の参拝をすべて黙認していた。
2013年12月に当時の安倍晋三首相が靖国に参拝したときは、オバマ政権は「失望」という表現で婉曲な反対を表明した。同じアメリカでも民主党リベラルと共和党保守との思考の違いだった。
この際もドーク氏はオバマ政権の対応を非難し、日本の首相の靖国参拝はあくまで日本独自の正しい慣行だと主張した。
ドーク氏は今回も同趣旨を岸田首相への提言として述べるのだった。
「日本は自国の戦死者への公式の追悼という責務について他国の干渉を許してはならない。真の独立国家のリーダーシップは外国からの干渉や批判に動かされず、自己の正しいと信ずる道を進むことだ。岸田首相が首相として靖国神社を参拝することは日本の国内での和解を招く強い指導者として前進することになる」
「アメリカはいまバイデン政権下で国内の悲劇的な分断を経験している。岸田首相はこのアメリカの悪しき実例を反面教師として、自国民への十分な説得をもこめて、靖国参拝により国内の分裂を減らすことに努めてほしい」
ドーク氏はアメリカの現状を避けるべき実例としてまであげて、岸田首相の靖国参拝を促すのだった。
**この報告は月刊雑誌『正論』の2021年12月号に掲載された古森義久氏の論文の転載です。
トップ写真:終戦記念日を迎え、靖国神社に訪れる人の様子(2020年8月15日) 出典:Photo by Yuichi Yamazaki/Getty Images
あわせて読みたい
この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。