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.国際  投稿日:2022/11/12

昔の中国へ回帰する3期目の習政権


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・中国共産党は「コミュニティ構築プロジェクト」計画を発表。

・同プロジェクトは農村部の共販組合の都市版で、習近平式“ニューディール”政策の新しい出発点。

・近い将来、鄧小平路線の「改革開放」の特徴である市場経済が次第に衰退し、計画経済が復活するだろう。

 

今年(2022年)10月、第20回党大会以降、中国共産党は、習近平主席の戦略のカギの一つである「コミュニティ構築プロジェクト」計画を発表(a)した。そして、共産党の専制統治の“万年基礎”を固めようとしている

この「完全コミュニティ構築プロジェクト」は、農村部の供給販売協同組合(以下、供販組合)の都市版である。党大会後、都市での全面的な政府管理の試みは、いわば習近平式“ニューディール”政策の新しい出発点となるだろう。

1949年以降、中国共産党はまず農村に互助会を作った。次にいくつかの互助会を集めて、協同組合を作った。さらにいくつかの協同組合を集めて人民公社を作っている。

しかし、「文化大革命」(1966年~76年)後、農村に請負制を導入し、人民公社は徐々に解体されて行く。

供販組合の復活が、将来、人民公社の復活を意味するのかどうか、現時点では不明である。したがって、今後を見守る必要があるだろう。

基本的に、供販組合は農村の生産をカバーし、農民の生活をカバーする。組合は農業生産資材の販売を請負い、農民の家庭生活必需品の供給を請負い、農業製品に対する一括買収も請負う。

いったん供販組合が全国的にカバーすれば、すべて農民の生産と生活は政府が一手に引き受けることになるだろう。農村は供販組合が農民の生産と生活を請負う。そうなると、農民が政府から遊離して生存する方法がなくなるに違いない。

農村の次は都市であり、将来、すべての市民が国営企業の事業単位で働くようになるかもしれない(外国企業と私企業は近いうちに一掃される公算が大きい)。市民は、それ以外に収入源を持たない。その上、住民委員会が日常生活を完全に統制し、自由市場が成立する余地がないだろう。都市住民も政府に依存して生きる。これで共産党の最も徹底した統制段階に入る

実は、1960年代から1970年代にかけ、供販組合に関して、中国人は恐ろしい記憶(b)を持つ。

当時、供販組合は、国家が生産手段と生活手段を管理していた。組合はチケットで商品を供給し、裏で商品を購入し、実際は商品を供給しないことの方が多かった。

庶民は供販組合の支配下で屈辱と恐怖を味わっているが、商品を支配し、人々を支配したこの組合が復活したのである。

第20回党大会以降、中国全土で供販組合が急増している。直近では、共産党の中華全国供給販売協同組合本部が公務員の募集案内を出した。農村部では、すでに5万に及ぶ組合が発足したという。

最近、共産党は供販組合制度の復旧を加速しており、必要な人員は予想をはるかに超えている。少し前、湖北省のメディアは、同省が1300以上の草の根の組合を復興させ、基本的に省内の町村をカバーしていることを明らかにした。その中で、供販組合の会員数は45万人を超えている。

中国共産党第20期1中全会が閉幕した翌日(10月24日)、中央政府のホームページに、公務員当局が中央当局とその直属機関の2023年の公務員試験と採用方法を発表した。

中華全国供給販売協同組合が組合員の試験と採用を計画し、優秀な若者の応募を歓迎するという情報が掲載されている。

募集条件によれば、供販組合の応募者は、高等教育を受けたことを証明する書類、草の根労働者などの場合は過去の職務経験を証明する書類を提出する。そして、筆記試験と面接を受ける。

浙江、広東、江蘇、河北、安徽、四川、貴州等の各地方政府は、微博(中国版ツイッター)に求人広告を掲載したという。

近い将来、鄧小平路線の「改革開放」の特徴である市場経済が次第に衰退し、計画経済が復活するだろう。物質欠乏の時代が、未来に近づいていることを悲観的に予見している人もいる。

ベテランメディア関係者の雷歌は、この動向は「習主席の中国発展の戦略的ビジョンに不可欠なものだ」と、メディアのインタビューに答えた。

習主席は、米国式の西洋近代文明に対して、いわゆる「中国の特色ある社会主義」路線を追求している。そのため、欧米社会から包囲網を敷かれるに至った。これが、中国がこの5年間で直面した厳しい現実である。

既述の如く、かつて中国での「集団化」は失敗したと言っても過言ではない(人民公社の設立と解体)。問題は、なぜ習主席がこれほどまでに供販組合の「組織化」にこだわっているかだろう。

結局、主席は自分の“絶対的権力”を内外に見せつけるために行おうとしているに過ぎないのではないか。人民の苦しみを顧みず、習政権は共産党の昔の“過ち”を再び犯そうとしている。習主席の周囲にいる人間は皆“イエスマン”なので、この“過ち”をとどめる事は難しいのではないだろうか。

 

〔注〕

(a)『中国瞭望』「中国人が同意すれば…習近平は成功したことになる」(2022年11月9日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/11/09/2545093.html)。

(b)『万維ビデオ』「中国共産党の供給販売協同組合が復活、物不足経済の悪夢が到来」(2022年10月31付)

(https://video.creaders.net/2022/10/31/2542032.html)

トップ写真:第20期党中国中央委員会の常務委員が記者会見に出席(2022年10月13日) 出典:Photo by Lintao Zhang/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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