地方議員を選ぶ「方法」【統一地方選特集その3】
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
【まとめ】
・統一地方選後半戦、4月23日投票。誰を選ぶべきか視点を提示。
・キャッチフレーズと約束・公約との整合性のなさ、抽象的な公約には注意。
・住民の代理人として住民と自治体をつなぐ役割を発揮する議員を選ぼう。
統一地方選も後半戦、4月23日に投票を迎える。駅前にて演説を行う候補者を見かけることが本当に、本当に多くなった。相変わらず「・・・をお願いします」「・・・は頑張ります!」といった内容の主張が連呼されている。メッセージも陳腐な内容も多く、支持者以外を踏まえないアピール、国政に絡めた主義主張・・・・住民をなめているのかな~と思ってしまう。
でも、地方議員も色々大変な職業なのだ。地方議員は予算案や人事案に対して賛否できるが、予算案を作れないし、予算に具体的に要望を伝えるくらいしかできない。条例や調査もやろうと思えばできるが、ハードルがある。地方自治体では、首長のほうが議員より圧倒的に権限を持っており、影響も及ぼしづらく、思った以上に権限は少ない。ある意味、肩書と比較してできることは少なく、かわいそうな面もある。
今回は誰を選ぶべきか、その視点を提示しようと思う。
□ 都会の地方議員は多く、報酬は高すぎる?!
中には、頑張っている議員もいるし、そうとは言えない議員もいる。候補者の政策や公約を見てみよう。
都会ではないところでは「議会のなり手不足」や無投票再選などが起きている。他方、日本の都心の議員は相当に恵まれているといってもいい。欧州では、人数は日本よりも多いものの、夜間議会開催、報酬もそう多くはない。アメリカは議員の人数自体が非常に少ない、380万人のLAで15人、60万人のデトロイトで9人、70万人のシアトルで9人くらいである。
一方、
東京都港区:34人
東京都世田谷区:50人
東京都杉並区:48人
という日本の地方議会、びっくりである。日本の都会の地方議員は、人数も多ければ、報酬も多いのである。
▲表 【出典】国⽴国会図書館 調査と情報―ISSUE BRIEF―「地⽅議会議員の報酬・⼿当等の待遇」
「〇区議会議員の議員報酬及び費用弁償等に関する条例」をみれば大体わかるのだが、杉並区で言うと、議員月額 595,700円。この議員報酬に、期末手当などを含めれば1000万円をほぼ多くの議員が超えてしまうのだ。
ちなみに横浜市は月額953,000円であり、期末手当などを含めれば1600万円を超える。拘束時間が多いこともあり、住民相談に乗れば乗るだけ対応で忙しくもあるので、この金額の妥当性は議論が必要だけれど、全体的にかなり恵まれているということも確かである。
□ 議員を選ぶ方法
都会では「恵まれた」主権者の代理人をどう選ぶか。選挙での選び方は、主権者である住民の自由である。(候補が)知り合い、お世話になっている、自分たちのために動いてくれた、といった実利的な理由でもいいし、地域のために活動してくれそう、見た目に親近感がある、期待できそう、という期待感的な理由でもいいし、近所に住んでる、共通の友人がいる、年齢層が近い、同級生だ、出身学校が一緒だ、同じ趣味だ、同じ政党メンバーだという共通点的な理由でもいいし、(所属組織から)依頼された、知り合いから頼まれたという外部的な理由でもいい。
とはいえ、政策面での視点を提起しようと思う。政策の面でダメな例は以下になる。
「対話で開く●●、新時代!」
「労働力不足・人口減少社会への対応」
「共生社会実現に向かってかけがえのない命が輝くために」
「憲法を区政に活かす」
「戦争をとめよう!」
「戦争のない平和な社会に」
「暮らしを守る!」
「高齢者を守る!」
「日本の伝統と文化を守り、道徳教育を充実させます」
とかいうキャッチフレーズ。
価値観と言う意味ではそれはそれで素晴らしいが、どういう意味なのかが解らないし、ふわふわして、多くの人が賛同する一般的な価値観を提示されてもと思うのだ。国政?都道府県政?勘違いしていないかと思ってしまう。さらに、こうしたキャッチフレーズの横にある具体策(約束とか、公約とか)とにも注意が必要だ。
【キャッチフレーズ例】「暮らしを守る!」
【約束・公約例】防災対策の充実、一人親家庭を支援する、子供の権利条例で子供がのびのび育つ、
こうしたキャッチフレーズと約束・公約との論理的な整合性(論理的なつながり)のなさ、約束・公約の抽象的な内容は注意しないといけない。
「防災対策の充実」って具体的に何?どこに重点を置くの?
「一人親家庭を支援する」ってどのような方法で?これまでとはどう違うの?
「子供の権利条例で子供がのびのび育つ」って条例を作ることの意義は?
と疑ってかかるのが良いと思う。
特に国政と勘違いしていたり、地方議員ではできないこと、権限や能力範囲を越えていることを「頑張る」といっている人には注意が必要だろう。
例えば「奨学金制度の対象要件の緩和」「校則の見直しを検討!」「駅周辺の再開発」「平和資料館建設」などそれはそれで素晴らしい提案だが、議員1人の力でできるのでしょうか?と思ってしまう。
□ 存在意義を見つけよう
中には、「住民の悩みに寄り添う」「御用聞き」といった等身大の候補者もいるし、徹底的に区政をチェックする候補者もいる。実績を明確に示している候補者もいる。先ほど地方議員の人数が多いとは言ったが、多様性と言うのは素晴らしい面もある。
しかし、ぶっちゃけ言うと、議員が頑張って約束・公約として今回の選挙時で提示している「通学路の危険個所改善」「防犯カメラ設置」といったものは、事務事業として地方自治体がしっかりやってくれていることも確かなのである。地方自治体がまちづくりの計画作りに民間委員を入れる、ワークショップを行う、などしてしまえば、議員ってなんのためってなってしまう。鋭い質問を飛ばす議員もいて、尊敬しているが、自分の組織や利害からの質問、単なる事実の確認、資料を読み込めばわかることを再度聞く質問、執行部にとっては怖くもなんともない質問なども多く、「儀式」みたいな感じになっている現状が事実としてあることも確かだろう。
はっきりいって、地方自治体のレベルでそんなに内部で対立するような論点・争点はない。だから、議員は主権者である住民の代理人として、住民と自治体をつなぐ役割、コミュニケーションの媒介者としての役割を発揮することを期待されると言ってよい。
学芸会みたいな議会をやっていて、活動実態も不明な議員を甘やかす余裕は、日本の各地域にはもうない。まっとうな議員を選んでいきましょう。
トップ写真:イメージ 出典:maruco/GettyImages
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。