岸田さんの総合経済政策はホンモノである~【日本経済をターンアラウンドする!】その18
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
【まとめ】
・潜在成長率上昇と好循環実現を目指す政府の経済対策は評価できる。
・好循環実現のためにエネルギーをどうするか、もう少し危機感を明確に打ち出すべき。
・GDP押上効果は1.2%。効果も積算し経済政策全体を進める岸田政権に期待。
【出典】首相官邸HP
岸田総理は大型の総合経済対策について発表した。総額17兆円台、物価高対策としての所得税と住民税の減税がおおきな話題になった。3.5兆円増えた税収分を定額減税で戻す形で、
・4万円の減税を受けるのは8600万人
・住民税非課税世帯1500万人には7万円
という国民への還元である。足元の物価高対策としては、ガソリン価格を平均175円程度に抑えるための補助金、電気・ガス料金の負担軽減措置も延長された。
「マイナンバー公金受取口座の普及にも役立つし10万円給付すればよいでしょ」という声も国民の中にはあったし、いきなり減税を言い出したことで「誤解」はされているが、話題になった部分以外は相変わらず着実な経済政策を行っている。
【出典】「総合経済対策 政策ファイル」
ニュースでは給付や減税のことばかりで、経済政策の本質を見誤らないことが重要である。
□ 総合的な対策
皆さんが誤解してしまうのはその詳細が明らかにされない、明確にアピールできていないからである。基本認識は、「日本経済を熱量溢れる新しい経済ステージへと移行させるためのスタートダッシュを図るためのもの」(内閣府「デフレ完全脱却のための総合経済対策」より)であることを忘れてはいけない。そもそもの目的である。
当面は、物価対策であるが、中長期的な視点での政策である。特に、それは方針で明らかになっている。「足元の物価高から国民生活・事業活動を守る対策に万全を期す。併せて、賃上げの流れを地方・中堅・中小企業にも波及させ、賃上げ のモメンタムの維持・拡大を図る」のが第一方針であるのだ。
物価高対策は優先順位が高いものの、それだけでもない。とりあえず当面の物価高対策。そして賃上げということだ。詳細を見ていっても、多岐にわたることがわかる。
Ⅰ.物価高から国民生活を守る <財政支出> 6.3 兆円
Ⅱ.地方・中堅・中小企業を含めた持続的賃上げ、所得向上と
地方の成長を実現する <財政支出> 3 兆円
Ⅲ.成長力の強化・高度化に資する国内投資を促進する
<財政支出> 4.7兆円
Ⅳ.人口減少を乗り越え、変化を力にする社会変革を起動・推進
する <財政支出> 1.6 兆円
Ⅴ.国土強靱化、防災・減災など国民の安全・安心を確保する
<財政支出>6.1 兆円程度
給付や減税ではない、全体感のある政策がそこにはある。
□ 好循環ストーリー
岸田政権の基本的な認識は、潜在成長率をあげることであり、賃金上昇→購買力上昇→適度な物価上昇のサイクルであると明言している。これについてはまっとうな方向性だと考えられる。
【出典】首相官邸HP
特に、難しいのは賃上げである。これは政府だけで進められるようなものではない。一部の大手企業が賃上げを進めていて、賃上げに取り組んだ企業を奨励し、中小企業にも普及・促進していくということをどう設計するかは課題だろう。賃上げは国是であるが、なかなか企業が取り組むのも難しい。租税特別措置や各種補助金・助成金の給付を受ける企業は率先してもらいたいと思うのだが、なんとかしてインセンティブや行動をおこしてもらわないといけない。悩ましいところである。
また、物価上昇→賃上げ→成長へとつなげていく際に、もちろん日本銀行の動きも注目だ。金利の引き上げなどもみていかないといけないだろう。さらに言うと、エネルギーの価格高騰が今後も続く中、中東への石油の依存度は90%近くと、あのオイルショック時と比較しても高い。エネルギーをどうするか。岸田政権は危機感をもうちょっと明確に打ち出してもよいとは思う。
□ 年GDP押上効果は1.2%
メディアの報道においては国民生活が大事なのでどうしても減税、給付の話ばかりになってしまうのはわかる。メディアも政治家も国民も自分にどれだけ得があるか、ばかりを追いかけているので余計に短期的、ミクロ的な視野に陥りがちであるので、全体感のある日本経済再生、ターンアラウンドの可能性を見定めて欲しいものだ。
総合経済対策による経済押し上げ効果は実質GDP換算で19兆円程度 、年成長率換算 1.2%程度と想定されている。その想定のEBPM(エビデンスに基づく政策立案)やエビデンスはおいておいても、効果も積算し経済政策全体を進めている岸田政権に期待したい。
トップ写真:岸田文雄首相(2021年10月14日 首相官邸)
出典:Photo by Eugene Hoshiko – Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。
