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.政治  投稿日:2024/9/22

【立憲民主党代表選挙】4 吉田晴美氏「政策分析」と「人事評価」


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・吉田候補、政策の特徴は、教育の必要性、環境政策の重視。

・課題は、失われた30年と言われる日本経済の低迷の解決策のための案としては短期的には不十分。

・立憲民主党として、今後、日本企業の競争力をどうあげるのかを提示してもらいたい。

 

「人生のピンチを支えるのが政治の責任」

「大切にしていることは感謝の気持ち」

「頑張っている人が報われないといけない社会に」

立憲民主党代表選、なんとか滑り込みで立候補できた吉田はるみさんの「思い」である。当選一回と侮るなかれ、法務大臣政務秘書官、著名私立大学の先生、外資系コンサル、日系証券会社のロンドン駐在員事務所の所長、投資・証券会社の会社員、外国航空会社のCA、商店アルバイトという様々なキャリアを経験してきた。期待以上でこたえたいという思いと負けず嫌いで頑張ってきた「たたき上げ」、「おしん精神」の体現者である。

筆者の地元の政治家でもあり、それなりに関係性もあるので、できる限り客観的に見ていきたいと思う。

◆ 吉田晴美氏とは

▲写真【出典】吉田さんHP 

1972年1月1日に山形県河北町で生まれ。実家は八百屋を営んでいた家庭に生まれる。山形県立山形北高等学校卒業。父が借金してくれたおかげで立教大学に進学できたそうで、大学4年生時は家業を地元に戻って手伝っていた。立教大学文学部文学科日本文学専修卒業し、シンガポール航空で客室乗務員として働いた。実家近くに空港があったことから飛行機に乗る仕事に憧れていたそう。どちらかというとパイロットになりたかったそうだが、CAとして働いた。その後キャリアに悩み、アメリカ系ベンチャーキャピタルの金融企業に一般職として入社。学ぶ必要性を実感し、イギリスのバーミンガム大学大学院で経営学修士号(MBA)を取得。投資会社や証券会社で15年間ほど働く。その後、KPMG系列のコンサル会社で3年、ヘルスケア産業のコンサルティングを行った。

2011年4月の千葉県議会議員選挙・市川市選挙区(定数6)で民主党から立候補、8818票を得るが、9位で落選。小川敏夫参議院議員の秘書、小川さんが法務大臣に就任すると大臣秘書官に。2013年7月の参議院議員選挙・岩手県選挙区では、得票数4位で落選。2017年に立憲民主党から衆議院選挙に立候補し落選。落選が続くがその間、早稲田大学エクステンションセンター、法政大学兼任講師、青山学院大学非常勤講師、目白大学外国語学部英米語学科准教授、神田外語大学特任教授として、ビジネスコミュニケーション論や国際ビジネス論などを教えていた。2021年の衆議院選挙で当選。

立教大学出身のCAから始まる華やかなキャリアと振舞いとは違い、落選回数も3回、政治家へのチャレンジに10年かかったことなど意外にも波瀾万丈の人生でもある。特に、実家の住居兼店舗が焼失してしまい、小さな4人兄弟が住む家もなかった経験をしたこと、甲状腺がんを克服したこと、お子さんが自閉スペクトラム症 (ASD)であること、脳梗塞で倒れた母親の介護を20年も続けていることなど、相当の「苦労人」である。

◆ 吉田晴美氏の政策の特徴

教育×経済=国民生活の底上げ」の好循環を作っていこうという政策の方向性を示す吉田さん。少子化、医療・介護・年金制度の不安などのたくさんの課題の解決の方向性が教育だと考えている。

企業の内部留保を引き出す「教育ブーストファンド」なども提案している。短期では家計に届く政策として、全国一律最低賃金1500円 、時限的消費税減税(5%)、特に食料品は非課税にすることを主張している。

▲写真【出典】吉田さんHP 

特徴の第一に、教育の必要性を考えていることだ。「教育から人のエネルギーをそこから経済へという考え方」が基盤となっている。

・子育て・教育・研究予算を倍増し、教育立国で日本再建

・国公立大学の無償化

・全国小・中・特別支援学校の給食の無償化

・18歳まで、博物館・美術館の無償化

・インクルーシブ教育の推進 

・学びの多様化学校の拡充など、不登校・ひきこもり支援を促進

・イジメ撲滅のための人権教育

【出典】吉田さん政策

第二に、環境政策を重視していること。

・再生可能エネルギー、再生素材、医療、介護、そして宇宙事業分野を後押し

・持続可能な社会に貢献する産業で新たな雇用を生み出す

・一日も早く原発ゼロを実現

・再生可能エネルギーの推進で、エネルギー自給率100%に

・カーボンゼロを実現し、「化石賞」の不名誉を返上

・地熱の活用推進に向け、技術開発と人材育成に積極投資

・「環境テクノロジー」「エコ商品」「自然エネルギー」を日本の成長産業に

【出典】吉田さん政策

化石賞の意義づけは置いておいて、代表・総裁選では政策としてもとりあげられないカーボンゼロを明言している点は特筆に値する。原発ゼロを明確にしているのも立憲民主党代表候補・自民党総裁候補の中で唯一の存在と言ってもいい。

課題は、失われた30年と言われる日本経済の低迷の解決策のための案としては短期的には不十分であることだ。

岸田政権は、デフレ完全脱却のための総合経済対策、賃上げ推進、スタートアップ育成5か年計画、企業の人的資本可視化の義務化、企業の人的資本経営の推進、ジョブ型経営推進、10兆円の大学ファンドなど、それなりにやってきたように思える。岸田政権の経済政策の足りない点をより明確にしてもらい、立憲民主党として、今後、日本企業の競争力をどうあげるのかを提示してもらいたい。創造性を促し・デザイン思考を進めイノベーションをどう起こすのか、起業をどのように推進していくのか、失われた30年間の変わらない大企業優先・業界団体の企業風土をどう変え公平公正な競争環境を作るのか、業法の規制緩和をどう進めるのか、海外のプラットフォーム企業の寡占化をどう防止するのかなどなど、このあたりが明確でないと自民党には経済政策では勝てない。

現在の日本経済は人材面でグローバルな環境において取り残されている。労働者のやりがいが低く、エンゲージメント(組織貢献意欲)が異常に低い日本企業の問題点をどうするのかの視点も期待したい。大人の「教育」、企業内の人材育成についても言及が欲しいところだ。

◆ リーダーシップ・人事評価

筆者は人事評価の専門家として「政治家の人事評価」などを提起してきた。ここで、「首相の人事評価」を考えたい。総理大臣の「能力」「成果が出せる行動特性(コンピテンシー)」は以下になる。

◆1.未来の方向性を示せる、共有できる

◆2.組織マネジメントができる

◆3.決断・意思決定ができる

これをしっかりできれば十分なのだが、吉田さんをこの視点を細かく見ると以下のようになる。

長年人事評価の専門家をしていて、多くの大物と言われる学者、政治家、経営者、芸術家、タレント、スポーツ選手など会ってきたが、この年になると彼ら・彼女らの雰囲気に震えるようなこともなくなった。

そんな中、吉田さんに会ったときには、そのオーラに衝撃を受けた。一言でいうと、仏のような人である。「等身大でいたい」と思っているようにフレンドリーで感じがよく、仲間を大事にする穏やかな人物である。客観的に見て、政治業界では苦労人と言ってもいいだろう。また、政治家の中でもこんなに「学び直し」をしてきた首相候補はいないだろう。人へ、未来へ、まっとうな政治へ。そろそろ女性が日本の新時代を担ってもいいはずだ。吉田さんに期待したい。

トップ写真:吉田晴美氏 出典:立憲民主党




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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