襖産業に見る日本の地方創生の可能性~日本経済をターンアラウンドする31

西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
【まとめ】
・木津川市の山﨑内装工業は65年の歴史を持つ襖・壁紙メーカーで、伝統と技術が息づく。
・地域産業の歴史と意義を再認識し、シビックプライドを高めることが重要。
・伝統産業の魅力を発信し、地域経済の活性化を目指す。
地方創生。
この連載でも何度か書いているが、筆者は石破さんのもとで、内閣府の初代シティーマネジャーを務め、参画しました。その時に、石破さんが「地方には本当に素晴らしいものがある」と言ったことは強く印象に残っています。「失われた30年の経済停滞」を日本の各地で実感する一方、世界的に見ても素晴らしい特産品、宝が眠っていることを痛感しています。そもそもわれわれ国民はすっかり欧米化してしまった生活で、伝統文化をよく知らない人生を送ってきてしまいました。
そうした中、京都府木津川市の山﨑内装工業株式会社の山﨑さんたちとひょんなことで知り合い、インタビューする機会を持たせていただきました。
◆襖産業と木津川市
山﨑内装工業株式会社さんは、創業65年になる、織物襖紙と織物壁紙を製造している会社です。山﨑守彦社長と山﨑由佳専務を中心に頑張っています。
まず、主力の製品である襖紙です。襖紙とは、襖の上張りに用いられる紙のことで、襖、壁、障子、屏風などに使われる内装材です。伝統的なからかみ文様や絵画のようなデザインといった特徴があります。都のおかれた「恭仁京」近くに山﨑さんたちの会社はあります。その木津川市あたりで長らく生産されていて、以前から、織物業がありました。それが、明治には、麻や蚊帳の生産が始まるなど織物工業になり、襖紙を作るようになり、機械化され、生産量が増大。昭和の高度成長期でも発展したそう。自然素材を使うため、体に優しく、丈夫で色彩が豊か、襖に適した製品だそうです。現在のところは、原材料のレーヨン(木材パルプなどの植物由来の原料を溶かして繊維状に再生した化学繊維)はバングラディッシュ、中国、インドから輸入しているそうです。

▲写真 山崎さん夫妻(筆者撮影)
壁紙については、国内外の企業に出荷するなど、皆さんの生活の場の一つとして役に立っています。
◆製品の「意味」
製造現場を見せていただいたのですが、結構大変な工程から構成されています。

▲写真 製造現場(筆者撮影)
これはほんの一部ですが、機械をメンテナンスして、調整する。モノづくりの醍醐味を感じられる職場です。織物壁紙(綿や麻の天然素材の糸と糸を織った布の裏に、紙を張って厚く丈夫にしたもの)はホテルの客室や旅館などの宴会場、美術館や博物館などで使用されており、通気性や調湿効果が特色です。
しかし、壁紙といえばビニール、なかでも、塩ビ(ポリ塩化ビニル:石油と塩から作られるプラスチックの一種)が主流だそうです。日本で6億5000万平米、生産出荷量があるそう。そのうち、「95%が塩ビ」だそうです。

▲写真 山﨑さん夫妻(筆者撮影)
山﨑社長は自分たちの製品との違いをこう語ります。「塩ビとの違いは強度です。破れなく、強度が強いのです」と自社の製品の特長を語ります。中でも印象を引いたのは、「東日本大震災の時、壁紙のおかげで、襖紙の壁が落ちてこなかった」という一言です。強度や持続性のところでの強みがあるそうです。
◆「思い」と「挑戦」
色々な人に自社ビジネスを知ってもらおうと思って活動しはじめたところ、建築、リフォーム関係の方からは「これが織物壁紙かぁ」「素敵だね。初めて知った。驚きだった」といった声をいただいたそう。
山﨑社長は言う「織物の襖紙・壁紙を知ってもらえていないことが問題だなあと感じました。それらを知ってもらうために、この地に産業があるということを認識してもらいたいと思っています」と熱い思いを話してくれました。実は、織物襖紙は全国シェア9割をここ京都府木津川市で生産、世界に誇る「伝統産業」なのです。しかし、それほど全国的に認知されているようにも思えません。
山﨑さん夫妻はここ数年、面白い挑戦をしています。「ちょっとでもファンの方を増やす活動をしていきたい。」という思いを持って、様々な商品開発と販売活動をしています。


▲写真 扇子や小物(山﨑さん提供)
筆者も多くの人にプレゼントしているのですが、「見た目も素敵」「わたし的には手に取ったときの感触、感覚がとても好き」「落ち着く」「しっかり感じられる襖紙の感触から、あたたかみだったり心地よさを感じました」「素材が紙とはいえ丈夫」「かわいい。むちゃくちゃいい」といった意見を多数もらっています(別に宣伝するわけではないですが)。社員の方々が隙間時間にアイデアを出し、楽しく試行錯誤しつつ、作成しているそうです。

▲写真 封筒やペンケースなど(筆者撮影)
一方、地元地域の人にはあまりよく知られていない現状もあります。山﨑さんたちは学校や 地域のイベントとのコラボなど地元で活動しているそうです。
地方を知り、産業の歴史を知り、考えることこそ、シビックプライド・愛郷心を高めるための一歩だと考えます。自分の生活は、たいてい多くの人の頑張りに支えてもらっています。
・地域がどのように形成されてきたのか?
・どういった人や苦難・苦労の積み重ねの基に現在があるのか?
・地域にはどういった人たちがいるのか?
・どういった助け合い・相互扶助が可能なのか?
・相手の利害や事情、言い分を理解しているのか?

▲図【出典】筆者作成
こうしたことを改めて、理解する、そんな場があるといいと思っています。自分たちの町がどのように形成されていったのか、人が集まってきたのか、そういったことに思いを馳せ、先人たちの苦労に敬意をもち、未来のまちづくりを考えていくべきときでしょう。
そのためにも、石破総理には全国の自治体への地域の産業の歴史と誇りを最大化する「楽しい日本」の基盤を作る活動を期待したいです。
トップ写真:山﨑内装工業株式会社の商品(織物襖紙と織物壁紙)筆者撮影
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。
