「複数税率こそ諸悪の根源」――玉木雄一郎代表が語る消費税減税の”落とし穴”
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【本稿のポイント】
・食料品消費税を1%だけ引き下げる政府案は、複数税率化に伴う益税・インボイス対応など制度上の弊害が大きく、負担軽減効果に見合わないと玉木氏は指摘する。
・国民民主党は住民税控除の拡大(年3万6000円相当)を対案とし、給付付き税額控除は早ければ来年6月から事実上始動する見通しを示した。
・「決められない玉木」との批判には、党の民主的な意思決定プロセスと、経済状況の変化に応じて政策を修正することの合理性を挙げて反論した。
2026年8月、国民民主党の代表選挙(届出締切は8月8日)を目前に控えた玉木雄一郎代表を、Japan In-depthチャンネルが迎えた。高市早苗政権が来年4月からの実施を掲げる食料品の消費税1%引き下げ。その是非をめぐり、党の看板政策である「手取りを増やす」経済政策の設計者が語ったのは、税制の技術的な仕組みにまで踏み込んだ、意外なほど具体的な反論だった。
▶ 本編動画(Japan In-depthチャンネル)=https://www.youtube.com/live/SbMS4H1_mlo?si=I8VPvJ9Aqkpi27_L
「もう毎月タクシーに乗るたびに、いつも給与明細見るたびに憂鬱になるんですと言われるんですよ」――取材の最中、玉木氏はこの日乗ったタクシーの運転手から聞いた話を紹介した。頑張って働いているのに、なぜこんなに引かれるのか。国民民主党がやりたいのは、レシートの金額をわずかに下げることよりも、まさにこの「手取りの目減り」を止めることだ、と玉木氏は言う。
玉木氏がまず問題視するのは、食料品だけを対象にした消費税の複数税率化そのものだ。同じ商品でも店内飲食は10%、持ち帰りは1%となれば、線引きをめぐる事業者の対応コストが発生する。仕入れの際に10%を払いながら販売時には1%しか上乗せできない場合、その差額を還付するための手続き――インボイス対応や税務処理――が新たに必要になる。「複数税率にしてるから悪いんですよ」と玉木氏は繰り返した。消費税そのものが問題なのではなく、税率を分けることによって生じる制度的な歪みこそが本質だという整理だ。
この指摘を裏づけるように、玉木氏はあるスーパー経営者の声も紹介した。レジ改修や実務対応で数十億円規模のコストがかかるならば、その分を還元させてほしい、というものだ。同様の負担感は、古川元久氏が別の取材で紹介したコンビニ大手の経営者の証言(改修コスト約350億円)とも重なる。事業者側からみても、税率を分けること自体が「余計なコスト」を生んでいるという構図がうかがえる。
■ 対案は「住民税控除の拡大」
では、負担軽減の目的自体は玉木氏も否定していない。物価高で苦しむ人への迅速な支援は必要だとした上で、より速く確実な手段として挙げたのが住民税控除の拡大だ。
片山さつき財務相(党内での聞き取りとして紹介)によれば、飲食料品にかかる消費税の年間負担額は1人あたり約3万6000円。ならば住民税の控除額を36万円引き上げれば、税率10%の計算上、ほぼ同額の3万6000円の減税効果が得られる、というのが玉木氏の試算だ。控除額を36万円引き上げると、住民税の課税最低限は現行の119万円から155万円まで上がる。この155万円という数字は、東京における生活保護の年間支給基準とほぼ同水準だという。「生活保護で155万円もらえるんだったら、働いている人からもそこまでは税金を取らなくていいんじゃないか」と玉木氏は問いかけた。
さらに玉木氏は、この構造を「インフレ増税」というキーワードで説明した。年金や生活保護には物価スライドの仕組みがあり、物価上昇に応じて給付額が自動的に調整される。ところが給与所得者の税負担にはそうした調整の仕組みが組み込まれておらず、賃上げやインフレで名目所得が増えるほど、より高い税率区分に移動してしまう。これがいわば「見えない増税」であり、消費税減税の前にまず手当てすべき問題だ、というのが玉木氏の主張だ。
なお、政府が掲げる「給付付き税額控除」についても、玉木氏は一定の評価を示した。制度設計上は税額控除でなく実質的には給付のみになっている点には不満を述べつつも、地方税の交付決定が行われ次第速やかに実施されるとすれば、早ければ来年6月から事実上スタートする可能性があるとし、「これは国民会議をやった結果」と自己評価した。
■ 「決められない玉木」への反論
インタビューの終盤、視聴者から寄せられた「決められない玉木と言われることをどう思うか」という質問に、玉木氏は正面から答えた。
まず前提として、国民民主党は代表が一存で方針を決める政党ではなく、役員会・総務会・両院総会といった民主的な手続きを経て党の結論を出す仕組みになっていると説明。その上で、「いい意見を戦わせた結果、今はこちらの選択がベストだと選んだ結果、選ばれなかった選択肢があるというだけ」と述べ、これを「決められない」と評するのは一方的な見方だと反論した。
経済政策における「ブレ」との指摘についても、「我々がブレたんじゃなくて、経済状況が変わったんです」と切り返した。積極財政・金融緩和を進める際の「ブレーキ」の目安として、結党以来、名目賃金上昇率が物価上昇率+ 2%程度に達するまでを基準にしてきたと説明。ただし、この説明が選挙時の有権者に十分伝わらなかった点は「素直に受け止める」と認めた。
代表選(届出締切は8月8日)については、出馬の是非を明言しなかったものの、「常識的に考えて玉木さんが出ない代表選はない」との指摘に対し明確な否定はせず、週内のどこかで表明する意向を示した。争点としては、与党との距離感や2028年参議院選挙を見据えた党の中期戦略が中心になるとの見立てを語った。
▶ 本編動画(Japan In-depthチャンネル)=https://www.youtube.com/live/SbMS4H1_mlo?si=I8VPvJ9Aqkpi27_L
■番組で語られたそのほかの論点
・[32:38]〜 「決められない玉木」批判にどう向き合うか
・[43:58]〜 AIで官僚答弁をチェック?高市総理の”言葉の癖”活用論
・[46:59]〜 代表選のテーマは「政権との距離」か
・[52:14]〜 野党再編と中道路線をめぐる玉木氏の見立て
・[58:32]〜 皇位継承問題――「先取りもしない、縛りもしない」
・[1:02:13]〜 コメ価格下落と農業政策(船山議員への言及)
【よくある質問(FAQ)】
Q1.複数税率とは?
A.一つの税目(この場合は消費税)について、対象品目によって異なる税率を適用する仕組み。日本では2019年の消費税10%への引き上げ時に、飲食料品などを対象とした8%の軽減税率が導入され、複数税率となった。
Q2.インボイス制度とは?
A.売り手が買い手に対して、正確な適用税率や消費税額を伝えるための「適格請求書(インボイス)」を発行・保存する制度。複数税率のもとで税額計算を正確に行うために導入された。
Q3.給付付き税額控除とは?
A.税額控除を基本としつつ、控除しきれない低所得層には給付で補う仕組み。減税と給付を組み合わせることで、負担軽減の対象を所得水準に応じて設計できる点が特徴とされる。
Q4.物価スライドとは?
A.年金や生活保護などの給付額を、物価の変動に応じて自動的に増減させる仕組み。給与所得の課税基準にはこうした自動調整の仕組みが存在しない点が、玉木氏の指摘の核心となっている。
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トップ写真:玉木雄一郎・国民民主党代表 ⒸJapan In-depth編集部
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。












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