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.政治  投稿日:2014/1/3

[清谷信一]陸上自衛隊の水陸両用車の調達先は『アメリカ製』だけが候補の「出来レース」?〜水陸両用装甲車=AAV7は導入ありきでいいのか③


清谷信一(軍事ジャーナリスト)

執筆記事プロフィールWebsiteTwitter

 

②を読むそもそもAAV7は我が国の島嶼防衛作戦に向いていない。はっきり言って必要ない。むしろお荷物になる。AAV7A1は米海兵隊が使用している水陸両用装甲車で、最大25名と多くの下車歩兵を収容し、ウォータージェット使用して時速13キロで海上を航行できる。これは他の水陸両用車よりも1.5〜2倍速い速度で、水上航行を重視した半分船舶のような装甲車だ。

サイズは全長7.9メートル、全幅3.27メートル、全高3.26メートルと普通の装甲車よりも一回り大きい。このサイズと、陸上での機動力が低いために上陸後は被弾の可能性が高い。また装甲もさほど厚ないために、生存性が低い。実際、イラク戦では多くの被害を出している。

防衛省が想定している島嶼防衛は主として尖閣諸島を含む、南西諸島だ。ここでAAV7は殆ど使い道がない。南西諸島の珊瑚礁の一般的特性として海岸から500メートル前後は水深1メートルほどの浅いリーフであり、その後、水深2~3メートルの凸凹の激しいリーフが続く。そして海岸には防潮堤が建設されている。AAV7の性能ではこのような環境では踏破できない。

防衛省はAAV7の採用を見越して来年度予算として水陸両用装甲車の運用のために「おおすみ」級輸送艦の改修を要求している。これには「おおすみ」級本体だけではなく、搭載されている各2隻のLCAC(大型ホバークラフト)の改修まで含まれている。

つまりAAV7は自力航行で母艦から海岸まで到達するではなく、LCACに搭載して上陸を果たすことになる。これはAAV7がリーフを超えられないからだろう。であればAAV7ではなく、他の水陸両用装甲車でもいいことなる。だが陸幕が他の候補を真剣に検討した跡は見受けられない。

そしてAAV7以外の候補は存在しない。AAV7がダメな場合のプランB(代案)が存在しない。これは装備選定としては極めて杜撰である。これも当初からAAV7の採用が決定事項からだからだろう。

AAV7のメーカーであるBAEシステムズ社の米海兵隊の将校によれば、AAV7が使用されるのは、基本的には母船から海岸堡までだ。陸上戦闘では海岸堡を確保するために海岸付近で使用される程度だ。海岸に下車歩兵を降ろしたAAV7は再び母船に戻り、次の歩兵を乗せて海岸に戻る。であれば600名の普通科連隊に22輌ものAAV7は必要ないだろう。

このため水陸両用部隊には内陸でも使用できる装甲車が必要だ。米海兵隊では内陸部ではLAV25など装輪装甲車などを使用している。ちなみにLAV25は軽量で、ヘリで空輸が可能である。ブラジル軍の海兵隊もAAV7を使用しているが、8輪のピラーニャIIIを併用している。英海兵隊は二連結式で、ゴム製の履帯を有して、極めて高い不整地踏破性を有するバイキング一車種を使用してきた。これは空輸も可能だ(近年ではアフガンでの戦闘に使用するために、同様なシンガポール製のブロンコも採用している)。

つまり水陸両用部隊にはAAV7の他に上陸後に使う装甲車が必要だ。だが陸幕はAAV7を要求するだけで、島嶼内陸で使用する装甲車輌の構想は発表しておらず、調達計画もない。まともに島嶼作戦のシナリオを検討しているようには思えない。

米海兵隊以外の水陸両用部隊の視察すらしていない。陸自が想定している6000名の旅団規模の部隊であれば英海兵隊と規模が似ている。また同じ島国でもある。しかも海自の特殊部隊、特別警備隊は英海兵隊の特殊部隊、SBSから訓練を受けている。ところが陸自は英海兵隊すら視察も調査もしていない。筆者は9月に英海兵隊を取材したおりに陸自が調査に来たことはないとはっきりと聞かされた。

諸外国の例を見れば相応性や練度が高い海兵隊は平和維持など海外任務にも積極的に投入されている。陸自では中央即応連隊がその任を負ってきたが同連隊の負担があまりに大きく、第一空挺団なども海外任務に投入されている。

安倍政権は自衛隊の海外派遣を増やすような「積極平和主義」を掲げており、海兵旅団もこのような任務に投入されることは十分に予想される。そのような任務に空輸も出来ないAAV7は全く向かない。むしろ先述のピラーニャやバイキングなどの通常型の装甲車の方が有用だ。

 

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(BvS10[バイキング]Tchad swimming:提供・BAEシステムズ)(ピラーニャIIIC:提供・GDELS社)

 

さらに言うならば、陸幕が想定しているであろう、旧態然とした強襲揚陸作戦は完全に時代遅れた。砲やミサイルの長射程化、精密誘導化によって強襲揚陸は極めて大きな損害を出すことになる。民主国家はそのような損害には耐えられない。故に米軍も湾岸戦争でもイラク戦争でも強襲上陸作戦は行っていない。

また砲やミサイルの長射程化により母船の安全性が脅かされるために、米軍でも揚陸作戦は水平線の遙か先の40〜45キロ程度沖合から行うようになってきている。AAV7が水上を最大速度の時速13キロで航行しても上陸までに3時間以上かかることになる。その間敵からはいい的となる。

むしろヘリボーンで上陸を行うべきで、米海兵隊にしろ、英海兵にしろ水陸両用車による揚陸よりも、ヘリボーン作戦を重要視している。であるからこそ、米海兵隊は既に必要性の薄れたAAV7の余剰品を陸自に押し付けたいのだろう。であれば、優先順位は先のLAV25やバイキングのようなヘリによる空輸が可能な装甲車の調達だろう。

しかも陸幕の内部情報によれば、AAV7の重整備は米国で行う必要があり、これに約1年半かかる。当然その間は使用できない。つまりAAV7の稼働率は極めて低いものになることが初めからわかっている。この事実を陸幕は公表していない。

では何故防衛省は初めからAAV7の導入ありきで、しかも必要な手順を端折ってまで、AAV7の採用をすすめるのだろうか。何か政治的な理由でもあるのではないかと疑われても仕方あるまい。AAV7の導入は民主党時代に持ち上がった話だ。その中心人物は当時の森本敏防衛大臣と、元陸幕長、統幕長で民主党時代に防衛大臣補佐官となり、現在の第二次安倍内閣でも防衛大臣補佐官に任ぜられた折木良一氏のだったようだ。

折木氏は当初は国産開発を意図していたが、ユニバーサル造船はまともなものが作れず、三菱重工は完成しても20年後ぐらいになりそうで、国内開発が不可能となるとAAV7の導入に舵が切り替わったようだ。これには海兵隊の思惑も関わっている。米海兵隊は陸自の水陸両用部隊に対して強い影響力を維持したい、また自分たちに不要な旧式装備を自衛隊に押し付けたいという思惑があったのだろう。

自衛隊、特に陸自では有力者の鶴の一声によって、ろくに検討もされずに、はじめに導入ありきで調達が始まる事が多い。実際に筆者が取材する限りAAV7の導入を歓迎している隊員は高位の幹部を含めて一人もいない。情況証拠を積み上げて分析する限り、AAV7の調達は極めて政治的、もっと直接的に言えば「利権」がらみのいかがわしさを感じるのは筆者だけではあるまい。

陸自はろくに調査もしないで攻撃ヘリ、AH-64Dアパッチの富士重工のライセンス生産で導入を開始したが、調達コストが高額で62機の調達を僅か13機で打ち切った。しかも富士重工に対しては初期投資に関する費用を拒否し、訴訟沙汰なっている。また250機調達ほど調達する予定のOH-1も分不相応な仕様のためにコストが高くなって僅か34機で調達が停止された。

防衛省は何故初めから調達ありきで、AAV7の導入を拙速に進めるか。国会と納税者に対してその根拠を説明するべきだ。(了)

 【②を読む

 

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