[清谷信一]陸上自衛隊の水陸両用車の調達先は『アメリカ製』だけが候補の「出来レース」?〜水陸両用装甲車=AAV7は導入ありきでいいのか②
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
【①から続く】来年度予算で要求されている指揮通信型と回収型は、採用を決定するための評価試験には使用されない。つまり防衛省は虚偽の理由を挙げて、指揮通信型と回収型を要求していることになる。これは国会と納税者を欺いて虚偽の理由で装備を調達することにならないか。
これが普通の装甲車であればまだ理解できるが、陸自は水陸両用戦の経験もなく、水陸両用装甲車の運用経験もない。故に指揮通信車、回収車、APCを部隊として試験運用して評価をする必要がある。そうでないと部隊の編成の案も出てこないはずだ。百歩譲ってAPCしかいらないのであれば初めから指揮通信車、回収車の予算要求は必要ない。
またAPC型が5月に到着しても、どんなに急いでも習熟に3ヶ月はかかるだろう。12月には結論を出すということは、11月には試験を終了する必要がある。つまりせいぜい3ヶ月しか試験期間はない。この手の装甲車輌の評価は可能な限りあらゆる季節、環境でのテスト、更には整備性などの評価も必要である。わずか3ヶ月程度ではこれをこなすのは不可能だ。つまり実質的に殆ど試験らしい試験はできない。これは単なるセレモニー、試験はやりましたよ、というアリバイ工作にすぎない。
しかも先の陸幕の情報によれば、陸幕では既に部隊編成まで決めている。陸幕の構想では新設の水陸両用旅団は人員約6000名から成、各600名の3個普通科連隊を基幹とする。各連隊はそれぞれに本部中隊、AAV中隊(22輛程度)、ヘリボーン中隊、ボート中隊などが含まれるという。さらに旅団直轄部隊として120ミリ迫撃砲を装備する特科大隊、JDAMなど精密誘導兵器の終末誘導を担当する火力誘導中隊なども編成されるという。
だが、本来AAV7に関しては必要な中隊数、中隊の規模や編成などは試験して評価をしてみないとわからないはずだ。いったい何を基準に1個中隊22輌という数字が出たのだろうか。これらの証拠を見る限り、陸幕も防衛省も水陸両用装甲車は初めからAAV7の採用を決定していることになる。
筆者は2013年12月24日に防衛省での来年度防衛予算のレクチャーに参加したときに、このことを質問したが、水陸両装甲車の装備化を急ぐ必要が生じたとの回答があった。だが、徳地防衛政策局長が国会答弁以来、日中で武力衝突が生じそうになったということもなく、日中関係が極めて切迫した自体に陥ったこともない。手続きを端折ってわずか数ヶ月のやっつけ評価で採用を決める必然性はない。
もしそれならば、自衛隊は厳戒態勢を敷く必要があるはずだが、そんな様子はとんとみられない。また予定された二個飛行隊の完成がいつになるかも分からないF-35の調達計画も根本的な見直しが必要だが、その徴候すらない。これでは形だけのアセスメントを行って必要性の少ないダムや空港を建設するようなものだ。
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