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.政治  投稿日:2017/6/1

理想の議員像を考える 東京都長期ビジョンを読み解く!その45


 西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

「西村健の地方自治ウォッチング」

【まとめ】

・理想の議員の条件の一つは「コミュニケーション力」。

・議員が毎日発信することにはリスクもある。

・結局、議員を育てるのは私たち有権者。

 

■理想の議員像の「条件」

個人的なことだが、長年、理想の「議員像」を追い求めてきた一時は議員事務所のスタッフとして、一時は政治学者のはしくれとして、一時は行政コンサルタントとして、一時は政治家の公約作成者として。

議員という人たちは、本当に凄い人たちだと個人的には思う。まず、多くの他人の目にさらされる。支持者は暖かくもあり、時には厳しい。おもねると頼りないと言われ、諭すと偉そうと言われる。政治に不信を持っている人には露骨に無視される。他方、行政職員は、実力を常に値踏みしている。

現実を言うと、多くの人々は地位や肩書だけでリスペクトをしてくれるような甘い世の中ではなく、それなりの振る舞いを期待される。相手への敬意を欠いた言動は許されないし、少しも気を抜けない。その意味でスーパーな能力が求められる。

また、多くの利害関係者に何かしらの期待や感情的納得を約束しないと当選もおぼつかないわけで、ある程度の嘘をつくことも構造上仕方のないことかもしれない。有権者全員のことを等しく気にかけてくれ、声をかけてくれる、そんな非効率的な活動はできず、現実は当面自分が当選するための活動が優先される。

こうした構造上の問題はあるにせよ、新しい時代、21世紀の政治家像はこうあってほしいという条件がある。それは

・可能な限り分け隔てなくコミュニケーションを取っている

・主張を明確にしていて、発言や行動の理由を丁寧に説明している

・地位に安住せず、謙虚に学び、努力している

・支持母体・団体との関係、企業献金や支援者との関係を明確化している

この4つがその条件である。権力の魔力・魅力に惑わされず、特権的な権利や権力を発揮する舞台において自分を見失わず、相対化するというのはスーパーな議員であってもなかなか難しいものだ。

 

■ブロガー議員が抱える毎日発信するリスク 

こうした中、久々、これは!という議員に出会った。「ブロガー議員」として有名な音喜多駿東京都議会議員は上記の条件に多く当てはまる。彼は自身の給与明細の内訳を公開、積極的かつ相手に伝わる情報発信、政治を分かりやすくかみ砕いての都民の関心喚起・理解促進、問題意識の表明、質問ゼロ議員も多い議会で上位の質問数、トップレベルの文書質問趣意書での質問などの行動をとっている。

手元に「東京都の闇を暴く」(新潮新書)という本がある。この本が示すのは新たな時代が求める議員の理想像である。

その本質は3つ。

・人々が求める通常の「感覚」を都議会という「村社会」へ持ち込む感性

・「おかしい」と思うことをじっくり調べたうえで発信する姿勢(継続性)・オープンさ

・「企業団体献金を受けとらない」「選挙における組織的な応援・推薦はうけない」という倫理観

この3つ。とても難しい。

特に、(毎日のように)発信をすることにはリスクがある。比較的若くてかわいらしい人なので(失礼)、単なる価値観の差からくる意見対立、無意識の敵意、誤解からくる無理解、無理解ゆえの感情的反発、嫉妬、目立つことなどへの嫌悪感といった負の感情にさらされるはず。なのにも拘わらず、自分の意見を提示し、それで評価を受けようとする。

自分の一言が、知識を同等には持たない、事情をわかっていない他人によって、時には論理的ではない好き嫌いなどで評価されるわけだから、その勇気には驚嘆するしかない。

また、彼を支えているのは、問題意識を持った都民だとも言える。音喜多氏は自身の性格や人間性を発揮し「行政改革の思い」「正義感」を巧みに相対化し、他人が理解できる、共感できる文脈に翻訳しているのが特徴。

本当の心は打算のたかまりで、したたかな戦術を演じているだけの可能性もあるかもしれないが(失礼、笑)、人間はアウトプットした言動と行動で評価される存在である(神のみぞ知る)。

ただし、今回彼の姿勢を絶賛してはいる私ではあるが、個人的な意見としては彼の主張する政策とは相いれない部分も非常に多く、質問内容には疑問をかしげることも多い。

特に、都市としての成長、容積率の緩和=建物の高さ制限の緩和を主張しているが、まったく意味がわからない。ヒートアイランド対策にマイナス(汐留が風の流れをどれだけとめたか)、景観が失われること(空すら眺められない)、オフィスの一部地域への過度の集中(他の多くの地域のオフィスの空室率があがる)、防災の視点(災害時はタワマンは孤立する)から反対である。

超低金利が示すのは「実質投資空間」の消滅。資本主義経済自体が限界を見せていて、水野和夫氏がイデオロギーや価値観、システムが一新された「長い16世紀」と同じく、21世紀は新しいシステムを模索せざるを得ないと指摘しているように、従来の経済成長モデルで考えられては困る。東京だけに集中させてどんな意味があるのか、そして、高層ビルにおける健康への影響についてもどう考えているのか質したいところだ。

都市間競争という実体のない政策を掲げているようなので、私の文章を1から読んでもうちょっと勉強ほしいという苦言を呈しておこう(上から目線で申し訳ないが)。

 

■議員を育てるのは有権者

組織の中で、組織の空気を読み、自分の主張を控え、全体の調和を取っていく議員もいるし、そうした生き方もリスペクトすべきである。

しかし、そういう議員が多数を占める状況になってしまうのが問題だ。

その意味で、常に発信し、コミュニケーションを取り、巻き込んでいく、一人リアリティショーのような彼の活動は素晴らしいし、議員としてのあるべき姿を体現している。

まさにロールモデル。

都民ファースト、自民党、公明党、民進党、共産党・・・多くの議員や候補者のなかに理想の議員の候補はいる。しかし、立ちはだかるのは組織の壁、常識の壁、理解の壁、甘えの壁・・・。

ある意味、青臭いといわれがちな理想を掲げ、周りからの無理解にも耐え、それを丁寧にコミュニケーションをとることで転換し、信頼を保ちつつ、超人的な力でそれらの壁を乗り越えられたのが音喜多議員の軌跡であり、奇跡ともいえる。

支援してくれる団体や気持ちのいい仲間ばかりの方ばかりを向かないでも議員として生きていける可能性を示してくれた彼に誰が続けるのか。

議員を育てるのも有権者だ。

候補者に

・なぜその政党に参画したのか?(移ったのか?)

・公約について、どう思うのか?なぜそう考えたのか?

・経験の少なさをどのようにして埋めるのか?

・議員として果たすべき役割は何だと思うのか?

・給与に見あう議員としての活動成果を何と考えるのか?

・「2020年に向けた実行プラン」をどう評価するのか?

と聞いてみよう。

単なる「偉くなりたい人」はもういらない。

【注意】上記はあくまで所属団体の意見ではなく、私個人の意見です。繰り返しますが、特定人物を応援する目的で記載してはいませんので悪しからず。


この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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