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.経済  投稿日:2018/1/4

微妙なバランス保てるか?【2018:金融】


神津多可思(リコー経済社会研究所所長)

「神津多可思の金融経済を読む」

 

【まとめ】

・世界的に金融危機の負の影響はフェード・アウトしている。

・日米ともに歴史的に景気拡大長く、調整局面に入る確率は高まる。

・「実体経済の地力」と「金融・財政政策によるサポート力」のバランスを注視。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真の説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトでお読み下さい。】

 

2017年の金融市場は、世界的にかなり心地良い状態で終わった。そこそこの経済成長、しかしインフレは加速しない下で、株価を始めとする資産価格は上昇基調を維持。世の常として先行きを心配する声もあるが、世界経済にさして大きな不均衡が蓄積されているようにもみえない。

 

こうした状況は、世界経済の循環の結果であり、それは先の世界金融危機以降の各国の緩和的な金融・金融政策に支えられてきた。世界規模のバブル崩壊から早10年。先進国でも、新興国でも、世界金融危機の負の影響はともにフェード・アウトしている。

 

成長率がなかなか危機以前に戻らず、またインフレ率もかつてのようには高まらないことから、緩和的な金融・財政政策の手綱を緩めることには反対論もある。しかし、株価、地価、住宅価格などの動きを眺め、グローバルには、さすがにもう危機対応モードではないとの判断も下されるようになっている。

 

米国では、ゆっくりではあるが政策金利が上がっているし、さらに膨張した中央銀行のバランスシートの縮小も始まった。欧州、日本でも中央銀行のバランスシートの拡大テンポは鈍る方向だ。

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写真)米連邦準備制度理事会(FRB)パウエル理事

flicker:The White House

 

現在の先進国での資産価格の上昇基調が、その程度については色々と議論はあるが、これまでの積極果敢な金融政策によって支えられている面があることは否定できないだろう。その金融政策が、これまでとは反対方向に舵を切った、あるいは切ろうとしているのであるから、これから資産価格がどうなるかを心配する声があっても不思議ではない。

 

しかし一般的に資産価格は、長い目でみれば、実体経済のパフォーマンスの裏付けがなければ上昇を続けることはできない。資産価格だけが上昇していくとすればそれはバブルであり、いつかまた破裂してしまう。金融政策の方向転換は、そうしたことが起こる可能性を減じるものであり、そのことを金融市場が納得するのであれば、資産価格の形成に悪影響が及ぶこともないはずだ。 

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写真)東京・晴海、勝どきのマンション群

Photo by 新橋のリーマンショッカー 

 

2018年は、その辺の微妙なバランスが保たれるかどうかが問われる年になるのではないだろうか。現在の仮想通貨の市場などをみていると、もはやバブルの雰囲気だ。それは、これまでの金融緩和の過程で創出されたマネーの流入によって生み出されていると言って良い。そのような兆候からすると、先進国中央銀行の金融政策の変化は歓迎すべきものと言える。

 

他方、例えば日本の株価についてみると、過熱と言える明らかな証拠をみつけるのもなかなか難しい。実体経済面でも、20プラスα年振りと評価できる良い指標が出ている。この30年の日本経済を振り返れば、1990年代初頭に崩壊したバブルの後始末が漸く終わったのが2000年代前半。そこで、いよいよ前向きに行こうとしたところ、世界金融危機に見舞われた。その二番目の後始末もグローバルにみて終わりつつあるなら、日本経済が1990年代初頭のマクロ経済状況に近づいてもおかしくない。それでも実質成長率が安定的に2%に届いている訳ではないし、2%のインフレ目標も未達成だ。

 

もっとも金融政策については、現在その緩和の程度は、世界金融危機後、最大になっていると言って良く、それと20プラスα年振りの好経済環境というバランスが長続きするだろうかという気もする。現在、日本経済が直面する構造的な問題を解決の方向に持っていくのにかなりの時間がかかることを考えると、なおさらそうだ。

 

さらに、景気循環の観点からは、景気拡大の長さが米国、日本ともに歴史的にみてかなり長くなっている。何かのきっかけに調整局面に入る確率は、2018年を通じて高まっていくとみておくべきだろう。そのきっかけとしては、世界を見渡せば、政治的な不安定要因がここかしこにあり、またいわゆる地政学的リスクも様々なところにある。

 

2018年の金融市場では、以上のように、実体経済の地力と金融・財政政策によるサポート力が引き続き微妙にバランスしていくかどうかが注視されるだろう。日本では特にそうだが、金融・財政政策の余力は先進各国とも長期的にみればかなり乏しくなっている。そうした中で、いずれの国・地域も、新しい技術革新の下での経済構造の変革、高齢化する人口動態への対応といった、ある程度時間のかかる課題に対応していかなくてはならない。

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イメージ画像

出典)Pixabay Photo by sasint

 

しかし、経済は常に循環し、調整局面はこれからも必ず訪れる。金融市場では、ともすれば日々の動きは短視眼的になりがちだが、2018年、最終的には将来を見通した評価が形成されていくものと信じたい。

 

 

トップ画像:日本銀行本店

Photo by Wiiii

 

 


この記事を書いた人
神津多可思日本証券アナリスト協会認定アナリスト

東京大学経済学部卒業。埼玉大学大学院博士課程後期修了、博士(経済学)。日本証券アナリスト協会認定アナリスト


1980年、日本銀行入行。営業局市場課長、調査統計局経済調査課長、考査局考査課長、金融融機構局審議役(国際関係)、バーゼル銀行監督委員会メンバー等を経て、2020年、リコー経済社会研究所主席研究員、2016年、(株)リコー執行役員、リコー経済社会研究所所長、2020年、同フェロー、リスクマネジメント・内部統制・法務担当、リコー経済社会研究所所長、2021年、公益社団法人日本証券アナリスト協会専務理事、現在に至る。


関西大学ソシオネットワーク戦略研究機構非常勤研究員、オーストラリア国立大学豪日研究センター研究員ソシオフューチャー株式会社社外取締役、トランス・パシフィック・グループ株式会社顧問。主な著書、「『デフレ論』の誤謬」(2018年)、「日本経済 成長志向の誤謬」(2022年)、いずれも日本経済新聞出版社。

神津多可思

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