みんな、オリパラの理念を理解している? 東京都長期ビジョンを読み解く!その65
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
「西村健の地方自治ウォッチング」
【まとめ】
・蓮舫議員のツッコミが明らかにするオリパラの根本問題。
・オリパラの理念は曖昧であり、国民的合意もない。
・コンセプトと大会ビジョンを深く考えるワークショップや国民的議論・理解を促すべきではないか。
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先日、こんなやり取りが参議院予算委員会で行われた。
蓮舫議員「基本的なことから教えてください。東京オリンピック・パラリンピックの3つの基本コンセプトはなんでしょう?」
桜田五輪相「(中略)大会の円滑な準備および運営の推進の意義に関する事項、政府が実施すべき施策に関する基本的な方針、政府が講ずべき具体的な措置などについて記載しております。今後この基本方針に従って・・・・」
蓮舫議員「今お読みになられたのは、政府としての基本方針で私が聞いているのは東京五輪・パラリンピック組織委員会が掲げている3つの基本原則です」
桜田五輪相「すべての人が自己ベストを目指し、1人1人が互いを認め合い、そして未来につなげよう。この3つの基本コンセプトとして、史上イノベーティブで世界にポジティブな改革をもたらす大会とするであります。」
蓮舫議員「全員が自己ベスト、多様性と調和、未来への継承が3つのコンセプトということで予算付けされています。ちなみに大会ビジョンもご存じですか?」
桜田五輪相「すべての人が自己ベストを目指し、1人1人が互いを認め合い」
蓮舫議員「違います」
桜田五輪相「そして未来につなげ」
蓮舫議員「違います」
桜田五輪相「3つの基本コンセプトとして、史上イノベーティブで世界にポジティブな改革をもたらす大会とするであります。」
委員長「速記をとめてください」
▲写真 桜田義孝五輪大臣 出典:桜田よしたか公式Webサイト
この問題。答えに窮した桜田五輪相側が「事前の通告がなかった」と発言したが、その後、「事実と若干違う」として撤回するなどかなりの残念な事態に陥った。
■ 気の毒な桜田大臣
桜田大臣が、蓮舫議員の質問、五輪の理念すら答えられないというお寒い状況。しかし、大臣を責めるのもかわいそうだ。正直言うと、何度も覚えたはずの私ですら忘れてしまったほどだから。そして、理念を知らないのは大臣だけではないと思うからだ。
今回の蓮舫議員の質問は質問としてはどうかと思うが、今回の東京五輪・パラリンピックの根本問題を明らかにしている。
それは何か。
その理念が曖昧であり、国民的合意もないことである。理念を知っていても、その意味合いをどこまで理解しているのだろうか、かなり疑問があることだ。
■ オリパラ3つのコンセプト
改めて、理念である3つのコンセプトを確認しましょう。
☆3つの基本コンセプト
①全員が自己ベスト
万全の準備と運営によって、安全・安心で、すべてのアスリートが最高のパフォーマンスを発揮し、自己ベストを記録できる大会を実現。世界最高水準のテクノロジーを競技会場の整備や大会運営に活用。ボランティアを含むすべての日本人が、世界中の人々を最高の「おもてなし」で歓迎。
②多様性と調和
人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治、障がいの有無など、あらゆる面での違いを肯定し、自然に受け入れ、互いに認め合うことで社会は進歩。東京2020大会を、世界中の人々が多様性と調和の重要性を改めて認識し、共生社会をはぐくむ契機となるような大会とする。
③未来への継承
東京1964大会は、日本を大きく変え、世界を強く意識する契機になるとともに、高度成長の弾みとなった大会。東京2020大会は、成熟国家となった日本が、今度は世界にポジティブな変革を促し、それらをレガシーとして未来へ継承していく。
皆さん理解できただろうか。私は正直言って、理解できない。論理的なつながりもわからないし、意味合いもわからない。だから、自分の記憶にも残らない。
■ 桜田大臣に期待すること
東京五輪のレガシー・アクションプランには「2020大会を、東京・日本にとってどのような意義のある大会とするのか考えていく必要があるのではないでしょうか」とある。
まだ間に合う。
オリパラ3つのコンセプトと大会ビジョンを深く考えるワークショップや国民的議論・理解を促すべきではないか。失礼な言い方だが、3つのコンセプトが「空疎な呪文」「漠然とした抽象メッセージ」になってしまっていると思う。桜田大臣の頭に入らないのが自然なこと、当然のことだ。
・3つのコンセプトの意味
・3つのコンセプトの意義
・3つのコンセプトがなぜ大切なのか
・3つのコンセプトがどのように東京2020大会に理念として添えられているのか
・3つのコンセプトがどのように東京2020大会でどう活かされるのか
を話し合い、相互に意見を出し合い、考えあい、理解を深める取り組みを進めていくべきではないだろうか。
ピンチはチャンス。桜田大臣に期待したい!
トップ画像:東京オリンピック・パラリンピック マスコットデビューイベント Tokyo 2020提供
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。