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.国際  投稿日:2019/4/18

インドネシア大統領選現職優勢


大塚智彦(Pan Asia News 記者)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】

・現職の実績と庶民派で支持を集めるジョコウィ氏が優勢。

・「強い指導者」を掲げる元国軍幹部プラボウォ氏が追う。

・プラボウォ氏には人権侵害関与疑惑がある。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=45258でお読みください。】

 

インドネシアの大統領と副大統領を国民の直接投票で選ぶ大統領選の投票が4月17日、全国約81万カ所の投票所で行われた。

投票締め切り後の同日午後から即日開票が進んでいる。選挙管理委員会の正式な開票結果は数日から1週間かかるとみられるが複数の民間調査機関が「開票速報」を17日午後3時過ぎから次々と伝え始め、17日午後4時半(日本時間午後6時半)の時点では、現職のジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領が平均値で約54%、対立候補のプラボウォ・スビアント氏が同約46%となっており、現職ジョコウィ大統領が優勢となっている。

17日午後5時(日本時間午後7時)に支持する政党の党首、マアルフ・アミン副大統領候補とともに報道陣に前に姿を現したジョコウィ大統領は「速報値の結果は見ての通りだが、選挙管理委員会の正式な投票結果がでるまで待とう」と呼びかけた。

その直前には別の場所でプラボウォ氏が集まった支持者や報道陣に対し「我々は多くの投票所で勝利しており、まだ結果はわからない」と述べており、双方とも現時点での勝利宣言とはならなかった

▲写真 ジョコ・ウィドド現大統領 出典:ロシア大統領府

 

大統領選挙は家具職人から政界入りした庶民派のジョコウィ大統領がイスラム教団体の長老で著名なイスラム教指導者でもあるマアルフ・アミン氏を副大統領候補に選んでペアを組み、世界最大のイスラム教徒人口を擁するインドネシアのイスラム票の取り込みを図った。

これに対し元国軍幹部で1998年に崩壊した長期独裁政権のスハルト大統領の女婿で、野党「グリンドラ党」党首であるプラボウォ氏は、女性や若者に人気のあるジャカルタ特別州のサンディアガ・ウノ元副知事を副知事候補として選び、これまで激しい選挙戦を繰り広げてきた。

▲写真 プラボウォ・スビアント氏 出典:Wikimedia Commons

 

■ 現職は実績訴え、対立候補は経済で公約

選挙運動期間中に両候補者はテレビ公開討論会や支持政党関係者を集めた大集会などで支持を訴えてきた。ジョコウィ大統領は過去5年間の政権運営で空港や港湾、高速道路などのインフラ整備を積極的に進めてきた実績をアピールし、次の5年間もこれまでの政策を継続し、経済を上向かせ、国民生活の質的向上を訴えてきた。

ジョコウィ大統領は2045年までにインドネシア経済は世界5位にまで成長する潜在力があるとして「共に成長し、前進しよう」と呼びかけてきた。

これに対し、プラボウォ氏は革新的イスラム教団体などの支持を得てイスラム教を重視し、「強い指導者」が国政をリードする必要があると主張。政権を奪取すれば生活基本物品(米、塩、砂糖、食用油など)や電気代金などの価格を引き下げ、さらに低所得で生活難に直面している農家の所得を増やすことなどを次々と公約として掲げ、地方の第一次産業従事者やイスラム教徒、若者、都市部インテリ層などの支持を訴えてきた。

 

■ スカルノ大統領長女も投票

世界第4位の人口約2億6000万人の東南アジアの大国インドネシアでは、有権者は約1億8711万人でこのうち在外の有権者は約204万人に上る。17日は午前7時から午後1時まで、全国約81万カ所の投票所で、正副大統領候補、国会議員、地方議会議員などの投票が一斉に行われた。

インドネシアの投票は候補者の名前と写真が印刷された投票用紙から意中の候補者の場所に「釘で穴を開ける」方式で行われ、二重投票を防ぐために投票後、数日は落ちないとされる紫色のインクを指に付ける。

▲写真 投票終了示す指のインクを示す女性たち 出典:著者撮影

 

首都ジャカルタの南部クバグサンにある投票所ではジョコウィ大統領が所属する与党「闘争民主党(PDIP)」の党首で独立の父スカルノ大統領の長女で第5代大統領を務めたメガワティ・スカルノプトリさんが家族とともに1票を投じた。投票後メガワティ元大統領は「投票結果がどうであれ、我々はそれを受け入れる」と民意を尊重する姿勢を表明した。

▲写真 投票を終えたメガワティ元大統領(中央)とその家族 出典:著者撮影

 

■ 対立候補は過去に人権侵害疑惑

現職のジョコウィ大統領に挑んでいるプラボウォ氏は前回2014年の大統領選にも出馬して惜敗しており、捲土重来を期した大統領選だが、同氏には1998年に民主化運動の高まりを受けてスハルト政権が崩壊する過程で、人権侵害事件に関与した疑惑が持たれている。

当時国軍の幹部だったプラボウォ氏は腹心の部下による秘密部隊を使って民主化運動の活動家や学生運動家の拉致、拷問事件に関与したとされている。

プラボウォ氏はこれまで「上官の命令に従っただけである」と弁明しているが、当時軍の秘密部隊が関与した事件では依然として13人が行方不明となっている。

しかし、今回初めて投票権を行使する若者約700万人は当時の歴史を知らず、プラボウォ氏が演出する絶叫調の演説に「強い指導者」をイメージして支持を広げてきた

こうしたプラボウォ氏と、庶民派で人間的には魅力があるものの政治指導者としてはリーダーシップに欠けるとの評価もあるジョコウィ大統領による今回の大統領選では、都市部の有権者や学生などを中心に「ゴルプット(白票)」つまり棄権する有権者がかなり多くなるとの観測も事前にあり、投票率の結果が注目されている。

さらに両候補者の得票差が近接した結果となった場合に、プラボウォ氏側が投票不正の訴えや再集計を求めることも予想され、投票率と同時に票差がどのくらいになるかも注目されている。

 

トップ写真:早朝から投票所に行列する有権者 出典:著者撮影

 


この記事を書いた人
大塚智彦Pan Asia News 記者

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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