中国人らの振り込め詐欺急増
大塚智彦(Pan Asia News 記者)
「大塚智彦の東南アジア万華鏡」
【まとめ】
・インドネシア拠点の中国人らによる「振り込め詐欺」が急増。
・強制送還よりも、インドネシア国内で裁くべきだとの意見も。
・根絶は困難。大掛かりな組織が計画的に“詐欺”要員送り込みか。
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インドネシア警察当局と入国管理当局が4月18日にインドネシア国内でサイバー犯罪に関与していた疑いで中国人と台湾人の計40人を逮捕したことが明らかになった。
40人はインドネシア国内から中国、台湾に国際電話をかけて「犯罪行為に関与した」「法的問題に巻き込まれた」などと偽の情報を使って解決のために金銭を銀行口座に振り込ませるという手口の「振り込め詐欺」を行っていたとみられている。
タイで日本国内の被害者に電話をかけて同様の「振り込め詐欺」を行っていた日本人がタイ捜査当局によって摘発されているが、国境を越えた詐欺犯罪が日本だけでなく、中国などでも蔓延し、その活動拠点として東南アジアが利用されている実態が浮き彫りとなった。
▲振り込め詐欺の拠点は東南アジアに。画像は「振り込め詐欺 被害防止ポスター」 出典:警視庁ホームページ
インドネシアのジャワ島中部ジャワ州警察、スマラン市警、スマラン入管事務所などによる合同捜査チームは4月18日、スマラン西部のプリアンジャスモロ地区の高級住宅街にある住宅に踏み込み、中国人28人、台湾人12人の計40人を入管法違反(不法滞在)容疑で逮捕し、住宅内からパソコン、電話機、通信機器などを多数押収した。
入管当局によると中国人28人全員と台湾人1人は有効な旅券を所持しておらず、また40人全員がインドネシア居住に必要な居住許可を取得していなかったという。
▲写真 インドネシア国家警察本部 出典:インドネシア国家警察ホームページ
■ インターポールに身柄引き渡しも検討
地元「ジャカルタ・ポスト」紙などの報道によると、中国人と台湾人のこの犯行グループはそれぞれの母国である中国や台湾に電話をかけて「振り込め詐欺」を行っていたというが、使用していた通信機器や技術で被害者はかかってきた電話がインドネシアであることも国際電話であることもわからないようになっていたため被害に遭ったという。
中部ジャワ州警察のモハマド・スハルティヨソ犯罪捜査局長は地元紙に対し「インドネシアでの捜査が終われば40人は国際犯罪に関わっていることなどから国際刑事警察機構(インターポール)に身柄を渡すことも検討している」との方針を明らかにしている。
またスマラン市警のアビオソ・アジ署長は「台湾人についてはインターポール台湾支部から身柄引き渡し要求がきている」ことも明らかにした。
ただ、中国人による「振り込め詐欺」のようなサイバー犯罪はこのところインドネシアで急増していることなどから、強制送還や国際機関への身柄引き渡しではなくインドネシア国内で法の裁きを受けさせるべきだとの意見も根強い。
インドネシアで入管法違反とサイバー犯罪法違反に問われて起訴され、有罪となった場合は最高刑で6年の禁固刑と10億ルピア(約790万円)の罰金が科されることもあるという。
地元マスコミの報道では中国人の一部は日本経由で2018年にインドネシアに入国し、以前日本でも同様の犯罪行為をしていたと供述しており、日本で中国人を対象とした「振り込め詐欺」に関わっていた可能性を示唆しているという。
▲画像 「振り込め詐欺」への注意を呼びかける在インドネシア日本大使館のホームページ 出典:在インドネシア日本大使館のホームページ
■ 近年急増している中国人詐欺犯
インドネシアでは2017年7月30日にジャカルタ、スラバヤ、バリ島などで「振り込め詐欺」をしていた中国人149人がサイバー犯罪容疑で逮捕されている。
これは中国捜査当局から中国国内での詐欺被害に関する情報提供があり、インドネシア警察との共同捜査で摘発に乗り出したもので、このグループは中国国内の被害者から合計4億5000万ドル(約490億円)を不法送金させていた疑いが持たれていた。この時はインドネシア側の捜査が終了した時点で全員が中国に強制送還されている。
2016年6月にはジャカルタ南郊のボゴールのマンション1室で振り込め詐欺をしていた疑いで中国人31人が逮捕された。31人は4月ごろから別々にインドネシアに入国して集合。部屋からは電話25台、携帯電話34台、モデム30台、ラップトップ2台などが押収された。このグループはインドネシア国内に在住する中国人をターゲットにして詐欺を働いていたという。
同じ2016年2月には中国国内に電話して「多額の賞金が当たったが申請するのに手数料が必要なので振り込んでほしい」と嘘をついて詐欺犯行を繰り返していた中国人9人とインドネシア人3人が逮捕された。
このようにインドネシア国内を拠点にした中国人による振り込め詐欺の犯罪集団が複数摘発されていることから、大掛かりな組織が背後にあり、計画的に人員を送りこんでは詐欺をしている可能性が高いとみられている。
インドネシア捜査当局、入管当局は特別チームを組織して不審な中国人の活動を監視する態勢をとっているが、摘発しても摘発しても新しいグループが送りこまれるなど後を絶たず根絶が難しいのが現状だ。
トップ写真:インドネシアの警察官 出典:インドネシア国家警察ホームページ
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この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト
1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。